文脈の大切さ~「よってたかって」?

 朝の5時にテレビでNHKニュースを見ていましたら、京都アニメーションの社長がお亡くなりになったことを知らせていました。京都アニメーションを国内有数のアニメ制作会社に育て上げた方です(2019年の放火殺人事件で36人が犠牲に)。そのニュースの中で、「皆さんに楽しんでいただけるようによってたかって作品を作ってまいります」というようなことを言っていました。今何て言った?「よってたかって」? 違和感があります。天下のNHKがこんな日本語を使うようになったのか?!嘆かわしい。私の語感では、「よってたかって」というのは、「大勢で力を合わせて一斉に何かをする」やや乱暴で感情的な雰囲気の漂った表現です。「子どもたちが一人をよってたかってからかう」とか「みんなでよってたかって非難する」のように否定的な文脈で使うのが、私の自然な使い方です。少しネガティブで騒がしい印象があります。上記のニュースのような言い方では、大勢で取り囲んでみんなでガヤガヤ作るというイメージです。弔事に関する表現としてはふさわしくない気がしました。さらには「作ってまいります」という丁寧な言い回しと「よってたかって」の荒っぽい語感がちぐはぐな感じがします。もう少し丁寧な言葉を使うことはできなかったのでしょうか??

 そんなことを考えながら、ネットニュースで公式発表を見てみました。原文は次の通りでした。

 弊社代表取締役社長 八田 英明(はった ひであき)が2026年2月16日に逝去いたしました(享年76)。生前のご厚誼に深く感謝いたしますと共に、謹んでご通知申し上げます。

 故人は、1985年の弊社設立から四十余年にわたり「よってたかって作る」を合言葉に、真摯なアニメーション制作を軸とした人を大切にしたエンターテインメント企業を志し、社長の任を果たしてまいりました。
 八田英明の後任には八田真一郎が就任いたしました。社員一同、故人の想いを受け継ぎ、これからも世界中の皆さまに楽しんでいただける作品をよってたかって作ってまいります。

 うかつでした。今回の文章には、(1)故人が掲げていた理念として「よってたかって作る」があること。(2)それは会社の文化・スローガンとしてしっかりと定着したものであること。(3)故人の想いを継承するという流れでこの表現を再度使っていること。といった背景があったのでした。伝統となっている社内文化を継承する、というキーワードとして使っているのであれば、文脈上は全く問題はありません。「故人が掲げた『よってたかって作る』という理念を受け継ぎ、これからも世界中の皆さまに楽しんでいただける作品をつくってまいります」「“よってたかって作る”を胸に、これからも……」という思いで使っていたのでした。会社のスローガンを踏まえた使用であれば、文脈上は全く問題ありません。納得しました。

 このように一部だけを切り取って判断すると危険なことがよくあります。全体の文脈の中で照らし合わせて考えることがいかに重要か、を改めて確認させてくれるニュースでした。英語でも下線部分の一文だけをいくら読んでも分からない時は、その前後をじっくりと吟味することで納得いくことがしょっちゅうあります。二次試験の指導の中で、私がいつも強調していることでした。♥♥♥

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