「おじいさんする」っててどういうことでしょうか?grandfatherといえば「祖父」や「おじいさん」。おそらく小学生でも知っているこの単語は、「祖先」や「先祖」という意味で使われることもあります。現役の通訳者がつまずくはずもない名詞ですが、これがもし動詞だったらどうでしょうか?事情は少しややこしくなってきます。環境や金融の知識がある人なら「グランドファザリング(grandfathering)」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。通訳の現場でたまに登場することがあります。例えば、環境関連の会議で「グランドファザリング」と出てきたら、温室効果ガスの排出枠の「実績割当方式」のことですし、金融分野であれば、新たな規制を導入する際の「経過措置」を意味します。いずれの場合もカタカナのまま業界用語として定着しており、わざわざ訳す必要はありません。
同時通訳の松下佳世(まつしたかよ)さんも、そのために正直なところ、この言葉の本来の意味を考えたことが一度もありませんでした。これまでの事情に配慮したり、「猶予期間」を与えたりしていることから、「おじいちゃんのような包容力で見守る」みたいな意味かな、くらいに思っておられました。まさか、意外な分野でgrandfatheringと再会し、ちょっとしたピンチに陥るなんて、思いもよりませんでした。ある日、外国人講師によるIT系の講義の通訳をしたときのことです。講師のif you choose to grandfather your existing data…という発言を、いつものように「既存のデータをグランドファザリングする場合には……」とingを付けてカタカナで訳出をしました。ところが、あいにくデータの世界に「グランドファザリング」なんて用語は無かったようで、受講生の一人からすかさず「グランドファザリングつて何ですか?」と質問を受けてしまいました。このようなケースでは、講師が答えるまでもなく、通訳者が日本語に言い換えれば済む場合もあります。で、この時は、実際に何を指しているgrandfathering(グランドファザリング)とは、新しい規則・法律・ルールが導入された際に、それ以前から存在していた人・契約・制度などを「例外としてそのまま認めること」を意味します。果たしてデータの場合も前述の「実績割当方式」や「経過措置」などが当てはまるのか見当がつかず、疑問をそのまま講師にぶつけるしかありませんでした。講師の説明によると「データのグランドファザリング」とは「ある条件を新しいデータにのみに適用し、もともとのデータは対象外とすること」を指すのだそうです。例えば、ある会社が商品を一律5%値上げするとき、既にシステムに登録されている在庫品は処理の対象外としこれから新規に登録する商品にのみ適用する、といったケースです。
《米略式》…に対して法律[規制]の適用を免除する(+in) (ジーニアス英和)
《主として米》…に祖父条項(grandfather clause)を適用する(リーダーズ・プラス)
おかげで、この言葉の意味するところは理解できましたが、なぜこれをgrandfatheringと呼ぶのかはわからずじまいでした。気になって帰宅後、改めて調べてみたそうです。そうしたらびっくり。この言葉、南北戦争後の19世紀後半にアメリカで成立した憲法修正条項に端を発するというのです。憲法改正により、アメリカでは人種を問わず投票権が認められるようになりました。で、南部の州では実質的に黒人に投票権を与えないようにしようと(当時の黒人から投票権を奪おうとする人種差別的な背景が含まれる)、読み書き試験に合格し投票税を払わなければならないといった厳しい条件が課されました。ところが、そうすると読み書きができない貧しい白人も投票できなくなってしまう。そこで「南北戦争の前から選挙権のあった人たち(=おじいさん世代)とその子孫は免除する」ことを目的に州憲法に追加されたのが、この言葉の語源となったgrandfather clause(グランドファーザー条項、祖父条項)でした。「実績割当方式」や「経過措置」、時には「既得権益の保護」とも訳されるこの言葉。まちまちに思えた訳語の意味が、語源を知ることで全てつながり、その後は文脈にあわせた訳が出せるようになった、と回想しておられました。
grandfather clause 《米史》祖父条項;既得権条項《20世紀初頭に南部諸州で制定された投票資格制限;制定時に30年以上前の投票権者とその子孫以外にはテストと税を課した》 (ジーニアス英和)
新しい法律やルールができた際、「ルールが変わる前からその状態にあったもの」に対しては、例外として旧ルール(あるいは有利な条件)の継続を認めることを指します。日本語では文脈により、経過措置、既得権の保護、旧ルールの適用継続、などと訳されることが多いです。語源は「grandfather clause(祖父条項)」に由来します。「祖父の代から存在していたものは、新ルールができてもそのままOK」というイメージです。(例1)新しい法律で「建物の高さは10mまで」と決まったが、すでに建っている15mのビルはそのままで良い。(例2)月額料金が1,000円から1,500円に値上げされたが、以前からの継続会員はそのまま1,000円で利用できる。
grandfathering(グランドファザリング)とは、 新しいルールや規制が導入された時に、すでに存在している人・物・契約などにはその新ルールを適用せずに、従来の条件のまま認めることを指します。日本語では「既得権の保護」「経過措置」「既存のものは例外扱い」といったニュアンスに近いのです。 もう少し噛み砕くと、新しいルールを急に全員に適用すると不公平になったり混乱したりする → そこで「今すでに対象になっている人だけは例外にする」 → この例外扱いが grandfathering です。「昔からその権利を持っていた人は新しいルールの対象外にする」という意味で使われるようになりました。新ルール導入時の「例外扱い」を表し、既存ユーザー・既存契約・既存設備などが対象になりやすく、ビジネス、法律、IT分野で頻出する表現です。 使用例を見ておきましょう(ビジネスシーンでは動詞として使われます)。♥♥♥
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The new regulation requires all buildings to install fire alarms, but older buildings are grandfathered in. (新しい規制では全ての建物に火災報知器の設置が必要だが、古い建物は例外扱いになっている)
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Employees hired before 2020 are grandfathered into the old pension plan. (2020年以前に雇われた従業員は、旧制度の年金プランがそのまま適用される)
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The company changed its pricing, but existing customers were grandfathered at the old rate. (会社は料金体系を変更したが、既存の顧客は旧料金のまま据え置かれた)



