『覚悟』

 熱烈な巨人ファンの私は、戸郷翔征(とごうしょうせい)投手が大好きです。昨季はプロ入り初の不調で、開幕投手を務めるも8勝9敗、防御率4.14、二度の2軍降格も味わい、期待を大きく裏切りました。2018年のドラフト6位入団ながら、高卒1年目に初勝利を挙げ、2022年から2024年には3年連続2桁勝利となる12勝を挙げています。高卒6年間で早くも55勝をマークし、菅野智之(すがのともゆき)投手から巨人エースの座を引き継ぎました。しかし、プロ7年目の昨季は10失点KOやプロ初となる二度の2軍落ちを経験するなど初めての壁にぶつかり、今年3月に行われるWBCメンバーからも落選しました。3年前にはWBC決勝のマウンドにも上がり、大舞台で世界一の感動を味わった投手です。「出たかったなっていう思いっていうのももちろんありますし。う~ん。お金を払ってもできない経験ですし。今まで選ばれてたんでやっぱり悔しい気持ちはもちろんありますし」 プロ1年目から母校・聖心ウルスラ学園(宮崎)で自主トレ。25歳の若さながら実績があり、責任感もリーダーシップも備わっています。

 そんな戸郷投手が不調に陥ったのは、昨年の春季キャンプでセットポジションへの変更に取り組んだことが始まりでした。コントロールをより良くしようという考えからの試みでしたが、逆に制球が乱れて不安定になってしまいました。自分には合わないと従来の投球フォームに戻しましたがうまくいかず、開幕前の2025年3月15日に行われたドジャースとのプレシーズンマッチでは、MAX154キロを誇る戸郷投手の球速が140キロ台前半まで落ち込んでいました。同年3月28日の開幕戦は二年連続で開幕投手を務めましたが、5回4失点。3戦目にはプロ最多の10失点KOなどと苦しみ、二度目の2軍降格となった時には、桑田真澄2軍監督(当時)から体の開きが早くなっていることを指摘されました。「全てのボールに自信を持てなくて。初めての経験ですけど、何か怖さを持ちながらやっていた」と、それまでのマウンドを振り返ります。その理由については「ピッチャーの本質って、真っすぐ(直球)だと思う。今年はそれが、球速が出ててもはじき返される真っすぐだなってすごく感じてて。(直球の)平均球速をあげようとフォーカスしすぎて、なにかバランスだったりいろんなものが崩れてきたなっていう印象でしたね」と語りました。酷評されましたが、それでも悪いなりに8勝をあげていますから、ただ者ではありません。私の印象では、昨季はコントロールを乱し、四球を与えるケースが多かったように思います。

 「桑田さんといろいろ話をしましたけど、“また一からやり直そうよ”って。そこで気付きました。単純に開きやすくなってっていうのがあって」 昨季限りで巨人を退団した桑田氏は、「上半身と下半身が一緒に動くと」開きが早くなると指摘。2024年と2025年の投球フォームを比べても映像では分からないのですが、プロのレベルではわずかな開きの早さが致命傷になりかねません。桑田氏は「時間でいうと0.1秒ぐらいなんですよね。0.1秒とか0.2秒早く見えるだけで(プロの)バッターってピタッとタイミング合わせてくるんですよね。とか、見切るんですよね」といい、「“翔征、今年スピード出ない”“もっと腕振れ”とか言われると。人間、“腕振れ”言われると体を振るんですよ。頭も振るんです。スピードは出るけど、今度は早くバッターにボールが見えてしまうので。ボールを隠すということなんですね。開くタイミングを少し遅くすることが大事なんです」と続けました。「本当に体を振って自分の力、力感だけで投げてたんで」戸郷投手。昨季の“失敗”を受け、体重移動の肝となる股関節の使い方を常に意識してサイドジャンプなどを練習に取り入れ、改善に取り組んでいるといいます。「悪かった年の次の年って凄い重要ですし。そこに向かっていく気持ちっていうのは全く違う気持ちはあります。何も怖がらずにやっていきたいなと思います」。プロ8年目の戸郷投手の真価が試されます。

◎完全復活は近い!!ところが…

 キャンプ後半には、投球フォームを見つめ直す大きな決断を下しました。不安と闘いながら、復活のきっかけをつかもうともがいています。「このままいっても、良くなる未来が見えなかった」悔いなくシーズンを迎えるために、思いきったフォームの改良に着手しました。「可能性を感じてもらえる投球ができれば、次の登板があると思う。それくらいの危機感を持って練習している」。スリークォーターから投じる直球の強さが持ち味でしたが、年々無意識のうちにリリースポイントが高くなり、良さが消えていたと感じており、スムーズに腕が振れていた好調時の理想の感覚を求め、リリースポイントを下げて時には300球近くネットスローを繰り返し、遠投とブルペン投球で新フォームを固めているところです。きっかけとなったのは、日米通算200勝を達成したレジェンド・田中将大投手でした。「翔征は年々リリースポイントが上がっている。気持ちいいところで腕が振れたら一番」と指摘されました。戸郷自身も「結果が出ている時には気づかない。。人の話を聞くのは、すごい大事」と真摯に受け止めました。ミットに突き刺さる出力の上がった力強いボールに自然と笑みがこぼれ、「やっと一つの光が見えてきた。いろいろ悩んできましたけど、いいものが徐々にできあがっていると思うので、そこは楽しみ」と語りました。球を受けたブルペン捕手も「よくなっていると思います」。球団の分析担当者によれば、「回転の軸は以前に似てきた。球の動きも変わってきている」と、徐々に成果が表れてきたようです。2月28日、韓国サムソンとの練習試合で先発し、1回無安打無失点で再出発を飾りました。フォークも2022年、2024年に奪三振王に輝いた時の切れ味が戻ってきました。不退転の「覚悟」を胸に試行錯誤を繰り返す右腕を応援したいと思います。

 2026年の復活へ向けて、真のエースになるために、巨人の大黒柱が初めて胸中と覚悟を明かした自身初の著書『覚悟』(講談社α新書、1,200円)が2月5日に発売されました。私はすぐに取り寄せて読みました(写真下)。

 故郷・宮崎県で過ごした幼少期から中学時代や、聖心ウルスラ時代のほか、プロ入り後の各シーズンの「あの日、あのとき、あの一球」に対する思いを振り返る自伝的な内容で、構想から一年以上をかけました。タイトルは講談社の担当者から提示されて「これでいきましょう」と即決したといい、昨季は8勝で4年連続の2桁勝利を逃す不本意なシーズンを送った右腕は、「去年がダメだったので、自主トレから今年に対する“覚悟”がある。(ファンに)読んでほしいなと思います」と語りました。復活を期する今季に懸ける思いも詳しく綴っています。発行元の講談社「戸郷選手の“緊張しないメンタル”に注目し、一般社会で生きるさまざまな人にも役立つメンタルの保ち方、整え方を伝えられる本になると思いました」と説明しました。「どんな苦しい状況であっても自分に負けないという『不屈のマインド』『闘争心』を磨いて、巨人のエースを改めてめざします」――挫折を経て巻き返しを誓う戸郷翔征が復活の逆襲への誓いを綴りました。マウンドに上がるための準備、イメージトレーニングのルーティン、失敗した後の切り替えのタイミングと心掛けるべきこと、若きエース候補が心掛けていることとは?

 かつて、「プレッシャーなんて感じない」「緊張なんてしたことがない」戸郷投手は公言してきました。ただ、その自信は2025年のシーズンで根底からもろくも崩れ去りました。読者の方はこの本を読み進める途中、「なんだ戸郷のヤツ、口ほどにもないじゃないか」と思うかもしれません。しかし、打たれたことや挫折も、野球人生における僕が歩んだたしかな「軌跡」なので、それは事実として受け止めなければなりません。「野球はメンタルスポーツ」だと言われます。「あの日、あのとき、あの1球」の足跡を振り返りながら、その時点での心境を忠実に記してみました」。どんなに苦しい状況であっても、自分に負けないという「不屈の精神力」「闘争心」をもう一度磨き、巨人のエースを目指すというう「覚悟」が書き込まれていました。「投球フォーム」「ストレートの質」「変化球の精度」「動じないメンタル面」を今一度見つめ直して再起を図る「覚悟」です。

 「神はあなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらない」という言葉を信じて、頑張ってもらいたいと心から願っています。あのまま順風満帆にいっていたら、天狗になっていたかもしれません。野球選手としても人間としても発展途上の戸郷投手に期待したいと思います。戸郷投手の復活がないと巨人の優勝はありませんから。

 ところが、オープン戦では打たれまくり(3登板で防御率9.00)、復調の兆しをつかめず、2軍再調整することになりました。やはり球威がないから、得意のとフォークボールも簡単に見切られていました人生は思うようにはいきません。「やってきたことを出そうと思っても、うまくいかないのが現状。練習中で良くなっても試合で出ない。出てるなと思っても打者の反応が弱い。僕がいい姿を見せ続けない限り、首脳陣もまた呼ぼうと覆わないでしょうし、自分をより見つめ直したい」と言葉を絞り出しました。「自分の中で納得して投げて勝つことが一番。これだったら1軍で勝てるんじゃないかって思えるぐらいまでいかないと1軍に上がらないと思いますし、それぐらいの覚悟ではいます」と万全の状態を作り上げてからの昇格を誓いました。「最近は自分にフォーカスしすぎて打者の反応を見てとか、全くできていなかった。変にドツボにはまっているのかなと思います。一番どん底まで来たので、あとは上がるだけ」と葛藤を明かしています。♥♥♥

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