◎今週は英語語法特集!!
2026年10月に実施された「第2回ベネッセ・駿台記述模試」の第4問の評論文問題で、副詞・politicallyの面白い使い方が出題されました。こんな英文でした。単語の使い方を極めたい英語の辞書編集者の私には実に興味深い語です。
…Dogs can also act politically without humans being involved.…
ロサンゼルスの公園において、犬と人間が協力して犯罪者を追い出すことに成功し、人と犬が楽しい交流の場となっています。犬が交流活動の成功に不可欠だったのです。→Dogs can also act politically without humans being involved.(イヌはまた、人間が関与しなくても巧妙に行動することができる)→モスクワの郊外に住む野良犬の群れが定期的に地下鉄に乗って中心部へ向かい、食べ物にありつく実例が紹介されています。犬はいつ道路を渡ることができるかも知っており、信号を読み取ることもでき、どの人間に食べ物を求めるべきかを理解しており、特にボディランゲージを読み取ることや、服装の型を考慮に入れることにも長けている(40歳過ぎの女性を選ぶ)。犬は賢く器用で行儀よく振る舞い、地下鉄の座席の上や下で静かに座っている、と続きます。『ジーニアス英和辞典』には「①政治上、政策上 ②〔文修飾〕政治的には」としかありません。私たちの『ライトハウス英和辞典』でも同様です。しかし、上の politically は、明らかに「政治的に」では説明がつきません。文脈によっては「駆け引きしながら」「立ち回りを考えて」という意味になります。「巧妙に」と訳せる場合もあります。模試の「解答解説」集では、このpoliticallyを「巧妙に」と注釈しておられ感心したところです。昨年の「3年生7月進研模試」で、technicallyという副詞を「技術的に」ではなく、「形の上では」と見事に訳しておられたのに感心したことを思い出しました(⇒私の紹介記事「3年生7月進研模試で感心したこと」はコチラ)。
Dogs can act politically. 直訳:犬は政治的に行動することができる。
自然な意訳:犬も、人との力関係や利害を考えて、うまく立ち回ることがある。
ここでの politically は、人間の政治活動に参加するという意味ではなく、集団内の人間との関係や力関係を意識して行動するという意味で使われています。例えば、複数の犬がいる環境で、ある犬が強い犬には逆らわず、別の犬とは協力するような行動を指す場合もそうです。犬にも権力関係や立場を読みながら行動することがある、という意味で、「犬も巧みに立ち回ることがある」「犬も社会的な駆け引きをすることがある」と理解すると分かりやすいでしょう。
◆関連語を見ておきましょう。
英語
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意味・ニュアンス
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politically
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力関係や利害、人間関係を考慮して
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cleverly
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賢く、巧妙に
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strategically
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戦略的に、先を考えて
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diplomatically
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角を立てずに、如才なく
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したがって、文脈によっては politically を「巧妙に」「うまく立ち回って」と訳すことができます。権力やグループ内の利害関係をコントロールしようとする振る舞い全般を指す用法があります。国政や選挙などの狭い意味の「政治」ではなく、「人間関係(社会関係)における駆け引きや立ち回り、策を弄すること」という意味合いで使われています。状況に応じた利害的な立ち回り(「世渡り上手(巧みに)振る舞う」「立ち回りよく行動する」)や力関係や序列を意識した行動(「利害関係や力関係を意識して動く」「駆け引きする」)といった訳語を当てることができます。人間社会における「会社内の政治的(political)な動き」と同じように、グループ内の人間関係や利害を意識した「賢い巧妙な駆け引き」を指しています。「権力関係や人間(犬)関係を考えて、駆け引き的に」「犬も社会的な駆け引きをすることがある」と理解することができます。人間についても、He is very political.と言った場合には、「彼は政治家みたいだ」ではなく、「彼は組織内の力関係に敏感だ」「彼は社内政治がうまい」と訳すことができます。
さてここからは、「政治的に」と「巧妙に」は意味的にどうつながるのかを考えてみましょう。実は politically =「政治的に」→「人間関係や利害を考慮して巧妙に」という意味の発展があります。元々の 意味はもちろん「政治の」です。しかし、政治の世界では単に政策を論じるだけではなく、
・利害調整をする
・敵を作らないよう配慮する
・発言に細心の注意を払い言葉を慎重に選ぶ
・権力関係を読んで自分の立場を考える
といったことが求められます。そこから politically は、政治家のように立ち回って利害や人間関係を考慮しながら「巧みに・抜け目なく」という意味を帯びるようになりました。例えば、He handled the situation politically.を直訳すると「彼はその状況を政治的に処理した」ですが、日本語としては不自然です。実際の意味は、「彼はその状況をうまく立ち回って処理した」「誰も怒らせないよう配慮して処理した」に近いでしょう。同様に、She was being politically smart.は「彼女は政治的に賢かった」ではなく、「彼女は空気や利害関係をよく読んでいた」「彼女は抜け目なく立ち回っていた」というニュアンスになります。これは日本語の「政治力」にも似ています。「政治力がある」「社内政治がうまい」と言うと、国会議員の政治能力ではなく、人間関係や力関係をうまくさばく能力を意味しますよね。英語の politically が「巧妙に」「うまく立ち回って」という意味を持つのも同じ発想です。つまり、「政治的に」→「利害や力関係を意識して」→「巧みに・抜け目なく・駆け引きをしながら」という意味の広がりがあるのです。このように、「多義語は意味を丸暗記するのではなく、その意味のつながりを考えるようにすると、忘れずに定着するよ」。これは私がいつも授業で口を酸っぱくして言っていることです。
私がいつも言っていることですが、辞典類の副詞の扱いは実にお粗末です。形容詞をそのまま副詞に対応させた訳語でお茶を濁すのみであったり、英英辞典を写すばかりのもの、ひどい場合は~lyとして追い込みに入れるだけ、あるいは見出し語として全く記載のないものさえあります。かつて(株)研究社の辞書編集会議でこのことを申し上げ、改善を提案したこともありましたが、全く無反応。いつまでたっても事情は変わらぬままです。収録語数の競争よりも、中身の一層の充実が望まれます。❤❤❤
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