「いいなあ~」「うらやましいなあ!」という意味で、日本人がよく使う表現に“I envy you!”があります。辞書や参考書にも堂々と載っている表現です。もちろん文法的には何ら問題はありません。
I envy you. あなたがうらやましい [ライトハウス英和、コンパスローズ英
和]
I envy you. うらやましい、いいなあ《素直にうらやましい気持ちを表現》[ア
クシスジーニアス英和]
I envy you. うらやましいよ、いいなあ《素直にうらやましい気持ちを表現;
相手に不快感を与える言葉ではない》[ジーニアス英和]
しかしネイティブは、この表現をほとんど使いません。ちょっと重い不自然な感じがして良くないし、人によっては引いてしまうかもしれません。
日本人がこの “I envy you!” という表現を使うようになったのは、たぶん辞書で「うらやましい」を引いて、そこに書いてあった例文からだと思います。しかし、英語のネイティブ・スピーカーは違う言い方の方を好みます。’envy’ というのは、他の誰かのものを欲しい、うらやましい、というだけでなく、その対象となる人に悪意すら持っている、というもともとのネガティブなニュアンスがあります。日本語でいう「ねたむ・そねむ」に近いと思います。現代ではネイティブもここまで細かく意識はしませんが、それでも “I envy you!” は使わないほうがいい表現です。私たちが日常会話で使う「うらやましいな」という気軽なニュアンスとはかけ離れているからです。
ほかに「うらやましい」を辞書で引くと、出てくる英単語に ‘jealous’ があります。英語ネイティブには、 “I envy you!” よりも “I’m jealous.” という表現のほうが一般的です。 副詞の ‘so’ を付けて “I’m so jealous!” と表現することが多いようです。soをあえて強調して言うことで、カジュアルなニュアンスが伝わりやすくなります。面と向かって “I envy you!” と言うネイティブはほとんどいません。この表現を使ってはダメだということもないのですが、ネイティブは “I’m jealous” と言うので、それに倣うほうが無難だと思います。「いいな〜」や「うらやましい」を英語で表すには“jealous”を使うのが最もナチュラルな言い方です。辞書や学校の教材などでは「jealous」=「嫉妬深い・焼きもち・妬ましい」など、ネガティブな表現で解説されることが多いかと思います。人の性格を表すときや状況・使い方によってはそれらを意味しますが、一般的に日常会話では、相手に良いことがあった時に言う「I’m (so) jealous」はネガティブな意味合いは全くありません。相手の良いニュースに対して使う「jealous」は「いいな、うらやましい」とポジティブな意味を持ちます。cool, awesome, greatなども使えるでしょう。
最新刊の、高橋基治・阿部 一『ビッグデータ英会話』(西東社、2021年7月)では、「I envy you.は、嫉妬に聞こえるので要注意!」として、アメリカ人の日常会話300万語のコーパスデータでの使用率を挙げておられました。それによれば次の通りです: That’s nice.(64.9%)/ I’m jealous.(18.1%)/ Lucky you.(8.5%)/ You’re so lucky.(6.4%)/ I envy you.(2.1%) 上で述べたことが裏付けられますね。この本、とても勉強になります。
「うらやましい」をI envy you.と覚えている人もいるでしょう。でも実はこれ、ニュアンスは「嫉妬しちゃう、悔しい」ということで。場合によっては相手のもっているものを欲しがるという意味にもとられることがあるので要注意。気心の知れた親しい相手同士で、冗談ぽく使われることはありますが、面識のない相手には避けたほうがいいかもしれません。(p.32)
友達や同僚の嬉しいニュースには、一緒に喜んであげる方が自然だということです。尊敬する山岸勝榮先生の『スーパーアンカー英和辞典』(学研)が、「注意 日本語の「うらやましい」はしばしば他人をほめる社交辞令に用いられるが、英語のenvy, enviousはしっとの感情を含むことが多いので、その使用には注意が必要」と書いておられるのはさすがと思います。ネイティブの意見を下に挙げておきます。♥♥♥
This phrase is by no means a mistake; in fact, the meaning of ‘envy’ is correct in this kind of context. It’s not the phrase that native speakers use, however, and the actual phrase we prefer has interesting origins.
The reason why “I envy you” is used by Japanese people is perhaps not so strange. There are two words that share a similar meaning – “envy” and “jealousy”. The interesting thing is that the perception and understanding of ‘jealousy’ has been warped over time by native speakers. So what do these words mean? “Envy” is felt when someone else has something that you don’t have, like when your friend is going off on holiday to Barbados. “Jealousy”, however, originally means the fear of losing something or someone to someone else, e.g. a man who feels threatened that his girlfriend might be stolen by another man.