シケ単

 私が高校時代に英語の勉強に使ったのは、赤尾好夫さんの「豆単」(マメタン、旺文社)でした。入試頻出単語がABC順に並べられていました。教員になってから生徒の受験指導に重宝したのは、森 一郎先生『試験にでる英単語』(青春出版、通称「シケ単」)です。日比谷高校(当時は東京大学合格者数が日本一)にお勤めだった森 一郎先生(1923~1991年)が、1967年に出版され、受験生の間で大ベストセラーになりました。それまでの大学受験用の英単語集がABC順だったのに対して、森先生は過去の入試問題を調査・分析して「最も重要な単語」から配列し、収録語を約1,800語に絞り、一つの単語に一つの訳語、語源から記憶法を記すという画期的な受験参考書となりました。日本の大学で英語の入試問題を作るのは大学の先生たちであり、彼らはいつも論文などの難しい高級な文章を読んでいて、そこから出題されるのが試験の英語なので、一般の日常生活の英語とは違い、レベルの高い抽象的な単語ばかりだ、というのが森先生の新発見でした。試験に出る単語にはバイアス(偏り)があるという森先生の哲学は、1902年以降の旧制・新制大学の入学試験問題をご自分で調べられた結果、たどり着いた結論でした。今ならコンピューターを使えば、簡単に調べることが可能ですが、当時は全部手作業でまとめられたというのがすごい仕事ですね。そこら辺の森先生とのやりとりを、ベストセラー『超整理法』で有名な野口悠紀雄先生(一橋大学名誉教授)「毎日新聞」「経済プレミアムインタビュー」(2021年12月4日・7日)*で詳しく語っておられました。野口先生は大学生の頃、喫茶店に呼び出されて、森先生のシケ単の「実験台」にされたというエピソードはとても興味深く読みました。森先生は、野口先生が一年生の時に日比谷高校に赴任され、二年生の時には担任の先生でした。当時の日比谷高校ではあまり先生が授業をされず、生徒が勝手に発表し、先生が聞いているといった感じの風景だったそうです。「受験なんかクソくらえ!」という雰囲気の中で、生徒は実際には勉強しているのですが、受験勉強よりも、人生について語り合うことの方が重要だと思っていました。森先生の授業の副読本は、ジョージ・オーウェル(George Orwell)『動物農場』(Animal Farm)だったそうです(私の大好きな作品です)。

*このインタビュー記事を私にご紹介いただいたのは、Z会ソリューションズ竹村武司さんです。厚くお礼申しあげます。ありがとうございました。

 「シケ単」が大ベストセラーとなった後、森先生「朝日ウィークリー」「覚えよう英単語」(1984年10月~1987年3月)という連載記事を書かれました。この連載は、後に次男(英語学者です)の森 基雄先生の手により『英単語はこう覚える この急所を知らないとど忘れする』(青春出版、1993年)にまとめられました。「どうすれば英単語を凝縮して覚えられるか?」、また「一度覚えたものを忘れなくできるか?」、さらに「初めて出会った単語でも意味を読み取れるか?」という、「英単語の覚え方の王道」を整理した画期的な名著でした。英単語を構成要素(語根)にまで分解することで本質から理解できるようになっていました。受験生が最も苦労する英単語記憶法に、森先生が全力を注がれた一冊です。

 英単語を増やすのに最も手っ取り早い方法として森先生が提唱されるのが、日本語になった英語(「カタカナ英語」)をうまく利用することです。語根も、新しい単語を語根に基づいて覚えるというよりは、すでにある程度知っている英単語を、語根を利用して頭脳の中にはっきりと定着させるという活用法がベストであること。とりあえず一つの単語に一つの意味を確実に覚えようとすること。逆に言えば、欲張って辞書に載っている一つの単語のたくさんの意味を一度に覚えようとしないこと。英単語を覚える基本は、やはりできるだけ多くの英文を読んで、自分になじみ深い単語の数を増やしていくことです。発音・アクセントも大切にすること。これらは、私も全く同感です。

 私は今新学期の始まりにあたって、単語の重要性と(「花よりタンゴ」「アクセン(ト)身につかず」のギャグで)、その暗記法についてオリエンテーションをやっています。生徒に使う教材は、竹岡広信先生『LEAP』(数研出版)清水建二先生『英単語の語源図鑑』(かんき出版)の二冊です。♥♥♥

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