『時は待ってくれない』~100年インタビュー

▲2018年に出た単行本

 最近、小田和正『時は待ってくれない』(PHP文庫、990円、2024年4月)が書店に並びました(写真上)。これは、NHK・BSプレミアムにおいて、2017年8月13日に放送された番組「100年インタビュー完全版/アーティスト小田和正~時は待ってくれない~」をもとに原稿を構成した単行本(2018年5月刊行)を文庫化したものです。このような長時間にわたるインタビューを受けるのは、小田さんには非常に珍しいことだったんですが、そこは自身のプロフィール欄に必ず「趣味・オフコースの世界」と書くほど“小田和正・命”な、NHKアナウンサー・阿部 渉(あべわたる)さんの熱意とアナウンス技術で、とっても素敵な番組になりました。50年近いキャリアの中でもほとんど応じてこなかったという、貴重なロングインタビューが実現したのです。事務所の方から「小田はシャイなので、会ってすぐにインタビューするのは難しいと思います。少しずつ信頼関係を築いていきたいので、ぜひ会いに来てください」と言われたそうです。それから全国各地のコンサートに足を運び、小田さんと会いました。初めて対面した時は緊張して、汗でシャツがグショグショだったそうですが、3時間近いコンサートを終えた後なのに、阿部さんの来るのを立ったまま待っていて、阿部さんを本当に感激させます。インタビュー収録の前日には、小田さんから「わかりきっていることを聞くような、予定調和のインタビューではダメだ。自分の言葉で聞け」とのメッセージが伝えられました。ただでさえ緊張していたのに、さらにハードルが上がりました。が一方で、その厳しさから小田さんの真剣さが伝わりましたし、それくらい真摯に向き合ってくださったのだと感じていました。インタビューの中では次のような事実が明かされています。

・歌詞の中に「風」がよく出てくる背景(本当によく出てきます)

・「本番まで高いキーで歌わない」(もうお歳なんですから無理をなさらずにステージで最高のパフォーマンスを見せてもらえれば僕達は充分です)

・「行け!という気持ちで歌っているから聴いている人達に伝わっていると思う」(はい、小田さんの気持ちは痛いくらいに伝わっております(盲目的だな)。でも、何事も成せばなる、と57歳にして信じている小田さんの熱意に脱帽)

・「周囲の人間に助けてもらうのはいいが、頼ってはダメ。頼ると回りの人間が離れて行く。自分の力でのたうち回っても頑張る。」(名言だと思いました。頑張っている人には自然と周囲からの助けがあるのかも・・・。ただ助けを待っているのは頼っているのと同義だと思いました。)

・大学・大学院で学んだ建築と音楽における作品作りには相通ずる共通点があった

・「いい思い出を作る。人生はこれに尽きると思います。でも、いい思い出ばかりだと死ぬのが辛い。この辺りの兼ね合いが難しいのです。」(「生きる」って事は楽しい事ばかりじゃないんだよ、という小田さんのメッセージが伝わってきます。いい思い出。人それぞれにものさしは違うけれど、僕は今はの際に「お前のおかげでいい人生だった」と必ず言いたい。(byさだまさし「関白宣言」))

・「(同年代以上のリスナーに対して)優しさなんて持っていない。むしろ蹴飛ばすくらいの感じで、もっと頑張ろうぜ!って」(さすが、小田さん。厳しいです。あくまで前向き発言。でもね、小田さん。疲れたら少しくらい休んでもいいですよね・・・。)

 2022年~2023年にかけて、全国ツアー「こんど、君と」「こんどこそ、君と!!」を実施し45万人を動員し、自らの持つ国内アーティスト最年長アリーナツアー記録を更新しました。年を重ねるごとに高い声は出なくなっていくものですが、77歳になった今もあのハイトーンボイスが衰えていないのは、本当に驚くべきことです。 オリジナルに近い感じでファンは聞きたいわけですから、その期待は裏切りたくない。 キーを下げなきゃ歌えなくなったら、潔く身を引くのがいいなってぼんやり思っているんだけど、と語りました。 そして、キーを下げる時=引退する時という覚悟を、うっすらとはいえ持っているということにとても驚かされます。 

 1998年に小田さんは、雨の中ゴルフコンペに向かう途中、東北自動車道で、アーティスト生命の危機ともいえる交通事故にあい重傷を負います。鎖骨と肋骨を3本骨折。首の骨がずれ、神経を圧迫する絶対安静の重症でした(⇒事故の詳細はコチラの私の解説をお読み下さい)。心配したファンの人たちから「とにかく生きていてくれただけでよかった」という手紙をいっぱいもらって、小田さんは人生観が変わったと言います。感動しましたね。身内でもないのに。そんな風に思ってくれるのだから、喜んでもらわなきゃと。そこで初めてそういう風な考え方になりました。小田さんは「こんな風に思ってくれるんだから、喜んでもらわなきゃ」と。その後、小田さんはファンとの距離を縮めるためにさまざまな試みを行ってきました。コンサートでお客さんの近くに物理的に近づいていくと、本当に喜んでくれます。花道」を作って歌いながら歩いてったら(時には通路に降りていくことも)、本当に嬉しそうな顔してるんだ。昔だったら照れくさいし恥ずかしいし。それが笑顔なんか作っちゃってね。触ってきますね。できるだけ腹立てないように(笑)やっぱシャイだから、手を振って歌うなんてありえないんだけど。どうしてそんなことができるんだろって。「生きていてくれるだけでよかった」って言葉はすごい(印象に)残りました。小田さんがコンサートの開催地をめぐり、地元の人たちと触れあうシーンを撮影して会場で流す「ご当地紀行」も、そんな小田さんからのファンサービスです。ご当地紀行」は、そもそも、そのライブのために自分はいるんだという証を残したい、みんなと共有したいなと。サンキュートーキョーなんて、俺は言わないから。外タレが言うとみんな喜ぶんじゃないか。ほんとにみんなが住んでいそうな街角、喫茶店にいたら、「あぁ、来てくれたんだ」と思ってくれる。長年ファンが楽しみにしているコンサート合間での「ご当地紀行」はこうやって始まったんです。コンサートの中でも歌いながら客席に向かって手を振る。MCにも力を入れて話します。昔の小田さんだったら考えられないくらいの変わり様です。

 時は待ってくれないから、小田さんは目いっぱい走ってきました。「時は待ってくれないから、急げ」ということではなく(小田さんの曲には「time can’t wait」があって、その中に「夢を追いかける人のために、時は待ってる」という歌詞が出てきます)、何かを一生懸命やろう、何かをスタートするということが大事なんだ、だからとにかく頑張るんだ、というのがメッセージです。本当にやりたいなと素直に思うことがあるならば、時はきっと待ってくれます。本当に頑張っている人には、夢を追いかける人たちのためには、時は待っていてくれるのです。そんなことを教えてくれる一冊でした。♥♥♥

カテゴリー: 私の好きな芸能人 パーマリンク

コメントを残す