100-1=0

 極端にいえば、一軒のお得意を守り抜くことは百軒のお得意を増やすことになるのだ、また逆に、一軒のお得意を失うことは、百軒のお得意を失うことになるのだ、というような気持ちで、商売に取り組んでいくことが肝要だと思います。(松下幸之助)

 お客様対応においては、100-1=99ではありません。100-1=0」になってしまうのです。これは接客業の基本です。100人のお客様のうち、99人笑顔を見せても、1人に無愛想にすれば、そのお客様にとっては笑顔0点です。100人のスタッフのうち、99人が笑顔でも、1人が無愛想ならば、そのスタッフが対応したお客様にとっては、そのお店は無愛想なお店となります。社会人では100引く1が99ではなくゼロになる場合もあるのです。一つの失敗が、会社全体のイメージにつながるのです。100人の従業員中99人がお客様の立場に立った素晴らしいサービスを提供できたとしても、たった一人がお客様を不快にさせる行動をとってしまえば、それだけでその企業に対する評価と信頼は、がた落ちしてしまうのです。一瞬の油断や気の緩みが、99%の努力を0にしてしまうのです。それは個人の評価だけにとどまらず、お店の評価も0にしてしまいます。何とももったいない話です。1本の金属の鎖を引っ張ると、一番弱いところが切れます。たった一人の従業員のせいで、鎖が切れるごとくに、企業が存続の危機に見舞われることすらあるのです。そしてこのことは仕事の世界だけでなく、人生を物語る図式でもあると思います。

 最近、私は吉野屋」でこんな体験をしました。席についても一向に注文を取りに来てくれません。しばらく待った後で、仕方なしに手をあげて呼びかけました。ようやく水を持って来たのは「実習生」でした。最近話題の「親子丼」を注文しました。しかし持って来たのは「牛丼」です。違っていますよ、と言うと「だって…」ふてくされた顔。目の前では会計のレジ機械が思うように動かせず、固まっています。待たされるお客さんはたまったもんではなく、いらいらがついています。店長が出てきてようやく処理しました。私の隣のお客さんも、注文と違ったメニューが出てきて、文句を言っておられました。料理を持って来た時に、物を落としてガシャンと大きな音が。いくらアルバイト店員とはいえ、こんな店員をお店に出してはいけません。お客さんに失礼です。私は二度と行かないでしょう。まさに100-1=0」の体験でしたね。

 その昔、国友隆一『帝国ホテル サービスの真髄』(経済界)を読んで衝撃を受けたのを思い出します。お客様に気づかせない「おくゆかしさ」、それが感動を超える「深い満足」を生み出す。「100マイナス1はゼロ」がホテルのサービスだ、というのが犬丸元社長の哲学でした(『帝国ホテルの流儀』(集英社新書))。世界最高のホスピタリティを体験するために、「帝国ホテル」には一度泊まってみたいとは思っていますが、まだ残念ながらそのチャンスに恵まれていません。

 俳優キアヌ・リーブスが、映画の中でアドリブで言った「洗濯に出したい。できれば帝国ホテルのランドリーに」というセリフの意味も、納得できますね。どんなシミでも抜いてみせる、ただ綺麗にするだけでなく、場合によってはシャツのボタンをあらかじめ全部取り外してから洗濯し、アイロンがけの後に縫い付け直すこともあるといいます。そのために世界中のボタン・糸を揃えておくのだとか。30分ごとに手袋を交換するベルボーイ、エレベータの中に鏡と一輪挿しが設置してあるのはなぜか?お客様の部屋のゴミを全室24時間保管しておくなど、あり得ない心遣いではないでしょうか。忘れ物をしても、決してホテルから連絡することはない、といいます。これがいかに奥の深いサービスであるかということに気づくには、少し時間がかかりました。再び国友さんの『帝国ホテル お客さまが感謝する理由』(経済界)を読んで、「感動」よりも「深い満足」の提供を目指すという、世界最高のホスピタリティーの全貌がより一層見えてきました。上には上が、ということですね。そんなサービスを体験すれば、間違いなくお客様の心をとらえて、ずーっとファンになってもらえます。

 「100-1=0」「一度の失敗も許されない」というわけではありませんから、勘違いのないように。一生懸命な失敗はちゃんと周りにも伝わりますし、事後の対応一つで、逆転満塁ホームランにもつながります。先の吉野屋でも、会計時に「先ほどは失礼しました。まだ慣れないもので、不快な思いをさせてすみませんでした。これに懲りずにまたいらっしてください」くらいのお詫びがあれば、ちょっとくらいは挽回できたのにね。♥♥♥

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