多義語work

 workという単語をいつも「働く」と訳す生徒がいます。場合によっては、「(機械が)動く」「勉強する」「(計画が)うまくいく」「(薬が)効く」などと使い分けなければいけません。辞典に載っているこのような数多くの意味を丸暗記に走る生徒もいます。しかしネイティブスピーカーたちは、このworkを様々な意味を持つ動詞と捉えている人はまずいません。workの基本イメージは一つだけです。それは「(人・物)が本来の役割を果たそうとする」というイメージです。労働者が主語であれば、work「働く」となります。生徒ならば「勉強する」、機械であれば「動く」、計画であれば「うまくいく」、薬なら「効く」となるでしょう。また名詞のworkには「仕事」「作品」などの意味がありますが、本来の役割を果たす活動が「仕事」であり、役割がもたらした成果や産物を「作品」というのです。こんな風に、数多くの意味を持つ単語に関しては、「コア」(=中核的意味)をつかむことによって、記憶の定着率や学習効率が違ってきます。

 辞典や単語集では一つの単語に複数の日本語訳が提示されてしまい、結果的に単語の全体像がぼやけてしまい、機械的な丸暗記を強いることになっています。今ではこのようなコアミーニングに注目が集まるようになってきましたが、画期的な役割を果たされたのは、慶応大学田中茂徳(たなかしげのり)先生でした。『Eゲイト英和辞典』(ベネッセ)や数々の著作で、コアの基本理解のために、視覚的に見やすい図を数多く載せて、教育的な工夫をしておられました。残念なことに、この辞典は早々と姿を消してしまいました。いい物が必ずしもよく売れるとは限らないことを示す好例だと思いました。私は東京で田中先生とお話させていただく機会があり、以来いろいろと教えていただきました。

 もう一つだけ具体例を挙げてみましょう。昨年の「共通テストリーディング」第4問は受験生が一番てこずった問題(正答率低し!)でした。いろいろな場所に情報が点在しており、すみずみまで丁寧に記事を読み、それを統合するという力が求められていました。特に次の文章は読み違えた生徒がたくさんいたようです。

  the warranty is extended by four years (保証は4年だけ延長される)

このby 4 yearsの部分が分からなかった生徒がずいぶんいました。「4年だけ延長される」と読めれば、5年保証のつく店はすぐに分かります。ここに使われる前置詞のbyをどう理解しているかがカギを握っていました。次のような訳語の丸暗記に終始している生徒は、ここでつまづくことでしょう。byの主な意味です。ここでは④の意味ですね。

  ①~のそばに ②~によって ③~までに  ④~だけ

 私の恩師の安藤貞雄先生には、学生時代、by「近接」と理解するように教えていただきました。「X by Y」はXとYがすぐそばにあると理解せよという教えです。①は場所的にすぐそばにある。②では行為と人物がすぐそばにある。③「月曜日までに提出しなければいけない」は提出する行為と月曜日がすぐそばにある。この問題の④は、保証が延長されるということと4年間がすぐそばにあるということです。これは今から40年以上も前には画期的な考えで、安藤先生は当時「意義素」と呼んでおられましたね。当時、安藤先生には『英語の前置詞』(研究社)という新書版の大学入試参考書がありましたが、この小さな冊子が前置詞のコアを押さえた上で入試に出てくるさまざまな前置詞の用法を解説するという画期的なものでした。新しい学問の最新成果を教育の場に応用した点でも革新的な本でした。全ての前置詞の数ある用法を、こういった共通するコアの意味で押さえておくことが重要でしょう。♥♥♥

カテゴリー: 日々の日記 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中