田邉祐司先生

 島根県立松江南高等学校で教えていた若い頃、(株)東京書籍のご厚意で当時使用していた英作文教科書・指導書の著者故・河上道生教授(当時広島女子大学教授)を松江にお招きして、ご指導いただいたことはブログに書いた通りです(⇒詳しくはコチラをご覧ください)。その後もいろいろとお手紙等でお教えをいただき、ずいぶん可愛がっていただきました。英語の達人でした。そこら辺をブログにしたためたところ、河上先生のお弟子さんの祐司(たなべゆうじ、専修大学教授)先生からメールでご連絡をいただき、嬉しく思いました。先生が河上先生の生き様について詳しく書いておられることを知り、ご無理を言って抜き刷りを送っていただきました(「回想 英語名人 河上道生先生のこと」『日本英語教育史研究』第37号、2022年)。読ませていただき、改めて河上先生がどれだけすごい教育者・英語の達人であったのかを認識することができました。ありがとうございました。

▲改めて河上先生のスゴさに感銘!

 

 田邉先生の専門分野は、応用言語学の一分野である英語教育学。中でも、発音、リスニング、スピーチなどの「音声としての英語」の習得法・指導法を中心に研究しておられます。日本人の英語教育はどうあるべきか、実際に使える英語を身につけるためには何をすればよいかをテーマに、全国を飛び回ってセミナー等で、我々現場の英語教師にヒントを与えてくださっています。以前「読売新聞」オンライン(2015年1月19日)に掲載されたインタビュー記事に、先生の思いが凝縮されていました。

 「とにかく教育が大好きなんです。もちろん英語も好きですが、昔からそれを生かして何か別のことをしたいという思いが強くて。人を伸ばす手伝いをしたり、自分が持つ情報や知識を人と共有したりできるのは本当にうれしいことです。ずっと教育現場で仕事を続けて、最期は教壇で倒れたいですね(笑)」

 先生の教員としての出発点は、大学卒業後に赴任された工業高校だそうですが、実は気乗りしない就職だったといいます。すぐ辞めて大学院に戻るつもりが、ここで二人のすばらしい先輩教員との出会いがありました。一人は同じ高校、もう一人は他校の英語教員で、それぞれから英語の真髄と教育の真髄を学ばれます。以来、英語教育一筋の人生が始まりました。先生の教育観は次のようなお言葉の中にはっきりと見ることができます。

 「同じ高校の先輩教員からは、赴任して半月もしないうちに『あんたもっと勉強せんと、英語を教えるのは犯罪だよ』と言われましてね。それからはもう、英語修行の日々ですよ。他校の先輩教員の姿勢からは、まず自らが勉強しないと生徒には何も伝わらないという信念を教わりました」

 「講義でもゼミでも、私のモットーは『?→!』。『?』は発問を、『→』は思考や体験の過程を、『!』は『わかった!』、つまり理解を表します。私が問いを発し、学生に答えがわかるまで徹底的に考えてもらう。答えは、私の口からは決して言いません。わからなければ、学生が自分で答えを導き出せるまで発問を続けて理解へと導いています」

 「私は英語の学び方も指導方法も、教育現場を通じてたたき上げてきました。そのおかげで、英語教育に関しては自分なりの正解を見つけられたのではないかと思っています。今後も、日本の英語教育の底上げに取り組むとともに、教員としての自分もまだまだ鍛えていくつもりです」

▲私が楽しみにしているコラム

 先生は、現在Asahi Weekly(朝日新聞社)で隔週に、豊富な通訳経験に基づく英語のコラム「ハタと膝を打つ英語表現」を連載しておられます。これが私にはとっても勉強になる記事で、先生の英語の造詣の深さにただただ尊敬するばかりです。先生のブログ「常時英心 言葉の森から:2.0」も、常にタイムリーな言葉の話題を提供してくださっています(⇒コチラです)。最近では『句動詞のトレーニング―「普段着の英語」を身につけよう!』(大修館書店、2023年9月)を出版なさいました。句動詞は我々日本人学習者には一番苦手な分野で、なかなか使いこなすことができません。句動詞を使いこなせるようになると、英語力も英語コミュニケーション能力も着実に伸びていきます。先生は、big wordを「よそ行き服」、句動詞を「普段着」と呼ばれ、ネイティブが日常生活の中で「普段着の英語」に親しみ、その後成長するにつれて、学術用語や専門用語など難度の高い「よそ行き服の英語」を身につけていくという、自然のプロセスに回帰した学習法を提案しておられます。この本もずいぶん勉強になります。和文英訳問題を解いて気軽に解説を読み進めるうちに、英語表現の幅が大きく広がる一冊です。♥♥♥

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