「水中の陣」

 私の尊敬する鍵山秀三郎さん(イエローハット創業者)は、揮毫を頼まれるとよく「水中の陣」という言葉を書かれます。普通なら「背水の陣」という言葉なんでしょうが、鍵山さんの場合はそれよりもっと厳しい「水中の陣」に身を置いておられました。「背水の陣」ならば、後ろの川に入ればまだ下がることができますが、鍵山さんの場合はもう水の中に入っているので、一歩でも下がれば命がもたない。もう前に進むよりしようがないという状況でずっとやってこられたのです。しかし人間とはすごいもので、そういう後がないところでも本気で覚悟、決断をしてやっていると、それまで見えなかったことがものすごくよく見えるようになるのです。そのおかげで次々と大ヒット商品を生み出すことができました。

 お客様のたったひと言をヒントに、商品をヒットさせたこともあります。千葉県柏市で近隣のガソリンスタンドに商品を卸していた時、ある店長さんから、お客様から頼まれた商品が手配できずに困っていると相談を受けました。私がアメリカの田舎町の会社で作られていることを突き止めてお持ちすると、大変喜ばれました。私は店長さんの喜びようを見て、きっとこの商品を欲しがっている人は他にもたくさんいるはずだと思い、その商品をたくさん輸入して爆発的にヒットさせたのです。他にも次々とヒット商品を生み出しましたが、その中には同業他社が見落としていた既存の商品に光を当てて大ヒットさせたものもたくさんあります。鍵山さんにそれができたのは、「水中の陣」とも言うべき厳しい環境に身を置いていたからであって、もしぬくぬくと恵まれた環境にいたら、決してそういうものを見出す力は引き出されなかったでしょう。

 さて、受験生は「共通テスト」が終わり、これから私大・国公立大学の二次試験に向かっていくことになります。この一ヶ月は必死の「水中の陣」でやるんだよ、と気合いを入れています。

 この時期になると、多くの先生方から「D判定やE判定でも合格する生徒がいるとおっしゃいますが、そのことについて教えていただきたい。可能性があると判断する目安があるのでしょうか?」という質問が寄せられることがあります。D判定でも二次力のある生徒はバンバン合格していますし、「エーッ、この点で通るの?」という例も、昨年は特に多く見られました。私は昨年の「共通テスト」の直後にこんなことを書いています。

 今年のような荒れた入試のときには、なおさら判定の意味はありません。団子状態になっている集団で、Aだ、Dだと言ってみても何の意味もないでしょう。A判定でも落ちますし、C、D判定でも合格を勝ち取る生徒が出てくるでしょう。さらには大きく難化した「共通テスト」の結果を受けて大幅に志望校が動きますから、そこをしっかりと見極めておかねばなりません。実際、河合塾の調査によれば、志望校変更が相次いでいる実態が報告されています。「安全策を取って志望変更した先の大学や学部に、新たに志願者が集中し、倍率が上がって結果的に危険策となってしまった」現象が、大きく平均点を落とした平成25年の大学入試センターでも見られました。「歴史は繰り返す」のです。

 業者のリサーチ結果票をそのまま鵜呑みにして生徒に返却したり(かつての松江北高では一切返却しませんでした)、二次出願を前にパソコンの判定システムや「データリサーチ」の冊子を見せながら「A判定だから頑張れ!」「B判定だから何とかいけるだろう」「C、Dではチョットきついな」といった生徒面接を見ていると、進路指導に長年関わった人間としては、非常に違和感を感じます。あの各社の「判定システム」のAだBだは、自己採点時の志望校を基にした分布での数字であって、あれから大きく受験生の志望は間違いなく動いてきました。今年もそうです。A判定でも落ちますし、C、Dでも合格を勝ち取る生徒がたくさん出てくると予想しています。ジタバタせずに、このことを心にしっかり刻んで、二次試験に向けて、集中して過去問を10年分解いていくように、と松江北高補習科&勝田ケ丘志学館の生徒達には話しています。以前にそのことを「あむ-る」に書いたことがあります。

 私の退職時に、「退職を祝う会」開いてくれ、こんな言葉を贈ってくれた当時の教え子がいます。二次科目とにらめっこして緻密な計算の上に送り出した生徒です。読み通り、逆転合格を果たしてくれました。


 センター試験が終わって先生との進路相談に進路指導室に行ったとき、センターがボーダーにもかかっていなかったのに、「お前は二次の力があるから大丈夫だろ」と一言で終わりました。今では塾で生徒に接する立場にいながら、あの一言が言えるくらいに生徒を育てたことがなく、今もその言葉を追いかけているように思います。直接感謝を述べたいところですが、またの機会を楽しみに、お体を大事にしてくださいね。♦♦♦


▲退職時に教え子たちが贈ってくれた私の宝物です

 そもそも、この時期に必要な指導とは何でしょうか?私は長らく担任や進路部長をしていた頃は、この時期には二つのことを特に意識して指導していました。一つは、二次で逆転できるのは、二次試験の配点の1割と考えること。二次配点が大きい大学(難関大学に多いですね)ほど、逆転の幅も大きくなります。二次配点が100点しかない大学は、10点しかありませんから、まず無理ですね。使う二次科目が得意科目かどうかを、そのこととにらめっこして作戦を立てていました。一応予備校等が設定しているBライン(合格可能性50~60%)までの自分の得点差がこの10%以内に入っておればひっくり返すことができます。もちろんその範囲内であれば、逆にひっくり返される場合もあるということですから注意する必要があります。二次科目の学力が重要になってきます。上の生徒の場合は、二次科目が数学だけで、理系でめっちゃ数学には強い生徒でした。センター試験の得点は足りませんでしたが、この1割以内にちゃんと入っていましたし、いくらでも二次試験でひっくり返せると確信して送り出したのでした。

 もう一つは、「共通テスト」での自分の持ち点が出ています(もちろん自己採点が正確であることが前提ですが)。自分の志望大学・学部・学科の配点(傾斜配点)に応じて、自分の「傾斜得点」が分かります。各大学はそれぞれのホームページでここ数年間の「合格最低点」を学部ごとに公表していますから(ほぼ例年同じ様な点数です)、それから自分の「傾斜得点」を引き算します。すると、これから自分が合格を勝ち取るために「二次試験」で取らなければいけない最低得点が出てきます。それを、自分の二次科目の得意・不得意に合わせて、二次配点とにらめっこしながら、どうクリアするのか戦略を立てるのです。不安な生徒にはきちんと時間を計って過去問をやらせてきて、この目標点に届くかどうかを、その都度確認していきます。かつての松江北高の2日がかりの「最終志望校判定会」では、これを生徒一人一人にやっていましたから、時間がかかり、終わるのは翌日の深夜2時・3時ということもざらでした(終わってからみんなで焼き肉を食べに行って朝まで!)。自分の得点を活かすために、具体的に志望校と向き合うということが必要です。もうこの時期に「精神論」は必要ありません。

 こうした荒れた入試の時には、経験が物を言います。「共通テスト」の結果でショックを受けている生徒たちと一緒になってジタバタしても始まりません。一人一人の生徒に関して、上で述べたような声かけをして、二次試験に向かって火をつけてやることが最も大切なことです。私はこのようなことを、何度も失敗を経験して先輩の先生方から学んで来ました。「経験は最良の教師である。ただし授業料は高い」のです。来年の新課程入試に向けて「安全志向」が働くと予想していた受験界ですが、予想に反して「強気の出願」が目立つと言います。「移行措置」の存在が要因のようです。必死のバッチ、「水中の陣」でこの一ヶ月を乗り切らなくてはいけません。そんな状況なのに、松江北高補習科勝田ケ丘志学館も休みだらけ。私には信じられません。❤❤❤

 

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