エイプリルフールの英語

 今日は4月1日「エイプリルフール」の日です。この「エイプリルフール」の英語表記に関して、日本で初めて問題提起をしたのは私です。岩崎研究会の研究誌に掲載された、八幡成人  「語法ノート:April Fool’s Day」  Lexicon, No.17 (1988)(岩崎研究会)でした。今からもう36年も前󠄂のことです。かいつまんでまとめてみましょう。 

 「四月バカの日」(エイプリルフール)に相当する英語表現には「揺れ」が見られるのです。当時、我が国の英和・和英辞典の圧倒的多数が、April Fools’ Dayを(複数形)見出し語にたてていました。便宜上、これを[A型]としておきます。ところが、当時私が、英米の新聞や百科事典を見ていると、[B型] April Fool’s Dayが(単数形)よく使われていたので疑問に思いました。教員になりたての頃に、このことに気がついた私は、ずいぶんこの問題を追いかけたことがあります。「(株)海外新聞普及」から、4月1日付けのアメリカ・イギリスの新聞を片っ端から取り寄せて、細かく検討してみました。今からもう30年も前のことです。1984年にフィラデルフィアに滞在中であった三木悦三教授(熊本女子大学)のご好意で、少なくともアメリカでは、両方の形が意味の差なしに使われていることを確認していただいています。我が国の主な辞典の扱いは下記の通りでした。

◎April Fools’ Day ―  『和英大辞典』(研究社) 『新英和中辞典』(研究社)『ルミナス和英辞典』(研究社) 『ライトハウス和英辞典』(研究社) 『アドバンスドフェイバリット和英辞典』(東京書籍) 『エースクラウン英和辞典』(三省堂)  ◎April [All] Fools’ Day ― 『オーレックス和英辞典』(旺文社) 『新和英中辞典』(研究社) ◎April Fools’ [Fool’s] Day ―  『グランドセンチュリー和英辞典』(三省堂) 『英和大辞典』(研究社) 『リーダーズ英和辞典』(研究社) 『E-ゲート英和辞典』(ベネッセ)  ◎April Fool’s [Fools’] Day ― 『ジーニアス和英辞典』(大修館)『ジーニアス英和辞典』(大修館) 『フェイバリット英和辞典』(東京書籍) 『スーパーアンカー英和辞典』(学研) 『ウィズダム英和辞典』(三省堂) 『ライトハウス英和辞典』(研究社)  『コンパスローズ英和辞典』(研究社)

  当時、私たち『ライトハウス英和辞典』の編集顧問のロバート・イルソン博士(ロンドン大学)に調べてもらったところでも、イギリスでは両型が見られるとのことでした。ブリティッシュ・カウンシルが使っているのも[B型]です。アメリカ辞典界の老舗メリアム・ウェブスター社ミッシュ編集長(当時)によれば、同社編集部の用例ファイルでは、[A 型][B型]の比率は3:1だということでした(ただし用例が少々古いので現代英語を反映しているかどうかは疑問だ、と断っていらっしゃいましたが)。1987年に、八幡がアメリカの4月1日付けの新聞13紙を調べたところでは、逆に2:3で[B型]の方が多かったんです。私たちの編集顧問・故ボリンジャー博士(ハーバード大学名誉教授)ご自身の好みも[B型]だということでした。で、博士は、地元新聞(Palo Alto)の編集者たちに聞いてくださったんですが、やはり同様の結果が得られました。句読法の研究で知られるCharles F. Meyer教授(マサチューセッツ大学)にご協力をいただいて(1987年12月)、先生のクラスの学生の反応を調査してもらいました。[B型]を好む者13名、[A型]を好む者が8名、ということでした。[B型]の方が一般的のようです。少なくとも、[B型]が無視できなくなっていることは、次の記述からも分かりますね。

 The occasion celebrated on the first day of April is officially called April Fools’ Day in the United States. Each word of the titled is capitalized and the fool is plural possessive. The singular fool’s is listed as a variant spelling. However, this is not standardized and the main listing seems to vary from dictionary and dictionary (i.e., whether the plural or the singular is listed as the main spelling). Actual usage seems to support this non-preference, with both spellings being used about the same frequency. (Grammaristより、下線は八幡)

 間違いなくApril Fool’s Dayの綴りの方が優勢です。この件については、あまり英米の辞書は役に立たないのですが(私が英語研究で最も頼りにしているロングマンもApril Fools’ Dayだけです。ところがそのアメリカ版であるLongman Dictionary of American EnglishではApril Fool’s Dayとなっています ね)。Oxford Advanced Learner’s Dictionary (9th ed. 2015)では、見出しがApril Fool’s Dayとなっていました。グーグルで検索してみても(Google Ngram Viewer)、やはり[B型]の方が[A型]よりも優勢となっています。グーグルに出現する頻度を比較してもやはり[B型]の方が[A型]よりも圧倒的優勢となっています。私はこのような実態を受けて、『ライトハウス英和辞典』(第6版)『コンパスローズ英和辞典』では、上記のように、[B型]を主見出しとして扱いました。

 現在優勢なはずのApril Fool’s Dayという綴りが、英和・和英辞典からすっぽりと抜け落ちているのは一体どうしたわけなんでしょうか?他辞典の「孫引き」ではなく、自ら裏付けを取ることの重要性を忘れてはなりません。今流行のChatGTPでも次のような誤った回答が出てきます。

 両方の綴りが使用されることがありますが、一般的には「April Fools’ Day」がより一般的です。これは、この日が複数の人々によっていたずらや冗談が行われる日であることを示しています。ただし、一部の文書や使用例では「April Fool’s Day」という単数形も見られます。

   この語の起源に関しては、諸説があって定かではありません(Morris & Morris (1962),  Ciardi (1980), Hendrickson (1987)参照)。どうしてこのような異形が生まれてきたかについての歴史的背景や、そして優勢になる訳については、コチラ“What’s the correct spelling of April Fool’s Day?”という優れた解説が出ていますので、興味のある方はご覧ください。

 最新のCOBUILD Advanced Leaner’s Dictionary (10th edition, 2023)では、見出し語はApril Fool’s Dayです。最近では、【C型】April Fools Dayという表記も見られるようになりました。頻度はApril Fool’s Day > April Fools’ Day >  April Fools Dayであることは、下のGoogle Ngram Viewerからも明らかです。❤❤❤

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