『オックスフォード英語辞典』に日本語が

 学生時代に英文学の故・小林定義(こばやしさだよし)教授の古典文学を購読する授業で、全ての単語を『オックスフォード英語辞典』(OEDで引いてくることが課されました。昔の文学作品に出てくる英語は現代英語とは異なる意味や使い方をする語が数多くあるので、それらをきちんと見極めなさいという教えでした。資料室に閉じ籠もってとんでもない分量を調べないといけないので、学生はそれはもう大変でした。自分で購入した時にはそれはもう何よりの喜びでした。あの授業で英語の辞典を引く大切さが叩き込まれた思い出があります。私たちは手分けをして調べることもできるのですが、小林先生はお一人で全部ノートに書き込んでおられました。そのせいで腰を痛められたというエピソードが残っていますが、OEDを引いたことのある人ならあの重さがお分かりでしょう。1928年発行で20巻を超える大辞典です。世界中の言葉の多様な英語の用法を記述するだけでなく、英語の歴史的発展をも辿っており、学者や学術研究者だけではなく英語を学習しようとするあらゆる人達に必須の辞典です。現在は、WEB版が普及しているので重い辞書を持ち運ぶことも無くなりましたが、その価値は英語研究者には変わりません。

 世界で広く使われる『オックスフォード英語辞典』を出版するイギリスのオックスフォード大学出版局は、3月の改訂に際して、「katsu(カツ)」「donburi(丼)」「karaage(唐揚げ)」といった日本語由来の言葉を新たに23個、ローマ字表記で辞典(電子版)に追加したと発表しました。その殆どが、食にまつわる言葉で、英国メディアは日本食店の増加や日本食材が身近になったことが影響したとの見方を伝えています。辞典の編者はウェブサイトで「英語にとって、日本語は外来語の宝庫だ」と語っています(⇒例えばコチラ)。今回の選考には、日本の東京外国語大学の教授が協力したということがホームページで写真が掲載されました(投野先生など)。

 karaage(唐揚げ)の定義を見てみましょう。

karaage =唐揚げ
A Japanese dish consisting of small pieces of chicken, other types of meat, or seafood, which have been marinated, coated in flour, potato starch, or cornflour, and then deep-fried in oil. Also: this style of cooking. Frequently as a modifier or postmodifier, esp. in karaage chicken and chicken karaage.(小さな鶏肉やその他の肉、魚介類をマリネし、小麦粉、片栗粉、またはコーンフラワーをまぶして油で揚げた日本料理。また、この料理スタイル。多くの場合、特に修飾語または後置修飾語として使用されます。唐揚げの鶏とか鶏の唐揚げ)

 英国では近年、日本の食文化に対する関心が急速な高まりを見せており、特に日本風のカレーライスにチキンカツや野菜のコロッケなどを乗せた「カツカレー」が事実上の国民食といわれるほどの大人気となっているそうです。

 ほかにも英国での本格的なラーメンの浸透ぶりを反映して、豚の骨を何時間もかけて煮出したスープを意味する「tonkotsu(豚骨)」や、英国でもファンの多い宮崎駿監督のアニメ映画「千と千尋の神隠し」で主人公が食べたことで広く知られるようになった「onigiri(おにぎり)」も追加されました。食べ物の関連では「takoyaki(たこ焼き)」「okonomiyaki(お好み焼き)」「yakiniku(焼肉)」「tonkatsu sauce(トンカツソース)」のほか、三徳包丁を意味する「santoku」が入るなど、英語圏での日本料理の人気ぶりが改めて裏付けられた恰好です。

 ほかには、日本の漫画やアニメの人気を背景に「mangaka(漫画家)」「isekai(異世界)」「tokusatsu(特撮)」も入りました。陶器の修繕技法である「kintsugi(金継ぎ)」や、絞り染めを意味する「shibori」も追加され、日本の伝統工芸への関心の高まりも伺わせました。今回、“異世界”(isekai)OEDに新たに追加されましたが、この言葉は、見知らぬ場所に運ばれる主人公のファンタジー物語として定義され、例としては宮崎駿『君たちはどう生きるか』(The Boy and the Heron) の映画が紹介されています。日本アニメの影響が見て取れます。ただしこの言葉を知らない日本人も多いと思われます。

 借用語の半分以上は、食べ物や料理に関するものです。

「Santoku(三徳=刃先が短くて平らな刃を持つ包丁)」

「Okonomiyaki(お好み焼=香ばしいパンケーキの一種。「好きなもの」を意味する「お好み」と、「揚げる、焼く」を意味する焼きとの組み合わせに由来)」

「Katsu (カツ=肉、魚介類、野菜を小麦粉、卵、パン粉でコーティングし、揚げて短冊状に切ったもの)」は、ブーメランワードと見なされ、再借用の場合です:Katsuはkatsuretsuの短縮形であり、英語の「カツレツ」を日本語に借用したものです。

「Donburi(丼=ご飯に他の具材をトッピングした日本料理)」

「Omotenashi(おもてなし=思いやり、細部への細心の注意、ゲストのニーズの予測)」

「Kintsugi(金接ぎ=不完全さを受け入れる…壊れた日本の洛黒鉢を金継ぎで修理したもの)」

 この辞典は定期的に日本語を加えており、今回は編集者が、東京外国語大の教授らと協力して選びました。載せている日本語は500語を超えます。♥♥♥

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