特急「やくも」新型車両公開

 JR西日本は10月17日、2024年春から順次切り替わっていく特急「やくも」岡山~出雲市、220km)に投入する新型車両「273系」を、報道陣に公開しました。国内初という「車上型の制御付自然振り子方式」を開発・実用化し、「特急はくも」「ぐったりやくも」などと揶揄されて、今まで悪評の高かった乗り心地を向上させました。現在の381系電車は、伯備線が電化された1982年から使用されており、約40年ぶりのリニューアルとなります。楽しみです。コロナ禍前の2019年には、1日約4,000人の乗客を運んでいました。現在は4種類の歴代特急「やくも」が走っています。通常の「ゆったりやくも」、紫色を基調とした「スーパーやくも色」(1994~2008年)、クリーム色と赤のツートンカラーの「国鉄色やくも」(1982~1998年)、緑色と黄色の帯が特徴の「緑やくも色」(1977~2011年)の4種です。「スーパ-やくも色」は4月5日に運行を終了します。「国鉄色」「緑やくも」は6月末に運行を終了します。非リバイバル塗装「ゆったりやくも色」の車両については、運行終了時期は未定で、273系に置き換わった後も運行する場合があるとしています。

 『鉄道ジャーナル』(成美堂)『鉄道ファン』(交友社)の1月号(2024年)がこの車両の特集を組んでいますので、ご紹介してみたいと思います。

特急「やくも」用の新型車両「273系」

 車両のデザインは、イチバンセン代表の川西康之さんと、近畿車輛デザイン室が担当しました。川西さんは、同社の「WEST EXPRESS 銀河」や、2024年に投入するキハ189系改造の観光列車なども手がけたデザイナーです。273系が走るエリアの社員の意見も反映しつつ、この車両のデザインを考案したといいます。デザインのコンセプトは、「沿線の風景に響き自然に映える車体、山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」。外観は、「山陰や伯備線の風景に響き、自然に映える車体」を目指し、大山に昇る朝日や宍道湖に沈む夕日の「鬱金(うこん)色」、奥出雲たたら製鉄の「黄金(こがね)色」、大山夏山開き祭の松明行列を表す「銅(あかがね)色」、山陰地方の風物でもある石州瓦の「赤銅(しゃくどう)色」のグラデーションからなるイメージカラーの「やくもブロンズ」が採用されました。「沿線の自然・景観・文化・歴史を尊び、お客様と交感する色」と説明しています。塗装はメタリック風味で、JR西日本の社員は「晴れの日や曇りの日、雪の日で、印象が大きく変わりそう」と話していました。山陰らしさや伯備線の沿線らしさを演出し、一目で山陰に行く列車だと分かるデザインとしました。

 前面・側面に「やくも」のロゴと「モダンに八雲立つ、伝統を継承」したアイボリーのシンボルマークを配置しています。室内のコンセプトは、「山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」。LEDによる間接照明や、ダーク系の木目調の床模様により、暖かみが演出されており、従来の「やくも」よりも大幅にアップデートされた空間となりました。グリーン車は、2+1列で座席を配置。座面に赤銅色、背もたれにうこん色を用いて、明るく空間の広がりを感じられ、富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をイメージした「積石亀甲」(つみいしきっこう)模様をデザインしたシートとなっています。「積石亀甲」とは、沿線の亀にまつわる伝説(米子市の亀甲神社など)や地名(亀嵩)にちなみ、富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をモチーフとしています。六角形と正三角形を重ね合わせたもので、床の絨毯も共通の柄を拡大して使用しています。足下にフットレストを設置したほか、枕は可動式で、快適性に配慮。また、肘掛けには電源コンセントが設置されました。

1号車のグリーン車肘掛けにはコンセントを設置

 肘掛けにはコンセントを設置。普通車では、緑と青の背もたれを隣り合わせで千鳥状に配し、麻の葉柄をあしらっています。沿線の山々をイメージした緑色をベースに、古来から神事に用いられ、人を守る魔除けの意味がある「麻の葉」の模様をあしらったシートを2+2列で配置。神話の国を走る「やくも」沿線の自然と風土をイメージしています。こちらも、可動式枕やコンセントが設置されています。座席の間隔(シートピッチ)は1040mmと、新幹線と同等の数値に拡大しており、在来線特急用車両の普通車としては、最大級の間隔となり座り心地を改善しています。普通車とグリーン車の座席には、上下調整可能なヘッドレストが付き、リクライニングと連動しています。リクラインイングは背面の傾きに連動して座面が前後に動き、楽な姿勢を保てる「チルト機構」が搭載されています。

2~4号車の普通車車内

 こちらも両サイドの肘掛けにソフトパッドが付き、電源コンセントが設置されています。また、これまでの「やくも」に無かった設備として、グループ向けの座席「セミコンパートメント」が導入されました。4人掛けと2人掛けの計4席が用意され、緩やかな仕切りを設けることでグループでも使いやすい形にこだわっています。車内Wi-Fiも導入。車いすスペースも拡大し、多目的室や大型荷物置き場、フリースペースやユーティリティスペースを設置、バリアフリーや利便性も考慮し、車椅子のまま利用可能なトイレなど、幅広い利用層を意識して設備の充実を図っています。LED照明等による省エネ化に加え、よりエネルギー変換効率に優れたVVVF制御装置も搭載し、環境負担の軽減も図っています。

1号車の連結面寄りに設置された「セミコンパートメント」

 1号車の連結面寄りに設置された「セミコンパートメント」は、グリーン車と同じ1号車の半室に設置するもの。2人用と4人用のボックス席で、大型テーブルや簡易的な仕切りが設置されています。また、座面をスライドさせると、フラットなスペースに生まれ変わります。

 座面をフラットにした状態このセミコンパートメントは、普通車指定席と同額で利用できるということです。2人用は2人利用、4人用は3~4人利用時に限り、きっぷを購入できます。各コンパートメントには「11」「12」といった番号のみが振られており、「A席」「B席」といった座席位置の英字は使用されていません。このほか、バリアフリー対応や、空気清浄機の設置による快適性向上、防犯カメラ設置による車内安全性の向上など、近年の鉄道車両らしいアップデートも図られています。側面の表示器は、フルカラーLEDを採用。その他車体構造の強化と機器の二重系化による安全性・安定性の向上、車内防犯カメラの設置による車内セキュリティ向上、空気清浄機の搭載と抗菌・抗ウィルス加工による安心した車内環境作りにも努めます。

 振り子式とは、カーブで車体を傾けて走ることで、遠心力を打ち消し、乗り心地を改善させるもの。自転車に乗る際、曲がる際に体を傾けるのと、原理的には同じです。これにより、一般車両よりも速度を上げても乗り心地の悪化を抑えられるため、速度向上が可能となるのです。従来の381系では、振り子式車両の黎明期であったため、遠心力のみで車両の傾斜を制御する「自然振り子式」が採用されていたので、乗り物酔いしやすいと言われていました。当初から揺れがひどく、これまでは「本を読もうと開いたが、酔いそうで、ずっと目をつぶって寝ていた」「弁当を食べていたら気持ち悪くなった」と悪評の高かった「やくも」。洗面所には「ご気分の悪いときにご利用下さい」と書かれた「エチケット袋」が備え付けてありました。これに対し、近年の振り子式車両では、遠心力を用いつつも、アクチュエーターにより事前に傾斜を制御させる、「制御付自然振り子方式」が採用されてきました。273系では、さらに一歩進んだ形で、「車上型の制御付自然振り子方式」という、国内初の最新方式が採用されています。

 これまでのシステムでは、ATS(自動列車停止装置)用の地上子などをもとに、位置情報を検知・補正し、車体を傾斜させるタイミングを計っていました。しかしこの方法では、車輪の空転などで距離が正確でなくなった場合、その後の地上子による位置補正が正確に働かなくなるおそれがあったといいます。加えて、地上設備である地上子は、工事などで設置位置が変わる可能性があります。その場合、車上のデータベースを更新しなければ、正確な補正ができなくなってしまいます。これを解決する新システムは、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)、JR西日本、川崎車両が共同開発したもの。車両のデータベースに、走行路線のカーブの情報を持たせ、従来方式の欠点を改善しました。車両は走行中、速度情報と、搭載したジャイロセンサーにより、現在走行している区間のカーブの情報を取得。これをデータベースの情報と突き合わせることで、地上設備によらない位置取得・補正が可能となりました。これにより、キハ187系などの既存の制御付自然振り子方式よりも、乗り物酔い評価指数で最大23パーセントの改善を実現しています。

 273系の営業運転開始は、2024年春以降を予定。今回公開された編成と同じ、半室グリーン車を含む4両1編成を、計11本製造する計画です。投資総額は160億円。JR西日本管内の地方路線は収支を公表した全30区間が営業赤字と苦しい状況が続きますが、新型「やくも」への投資に踏み切りました。この車両のデザインを担当した川西さんは、「1人あたりの居住スペースをできるだけ確保し、フリースペースやバリアフリー設備など、さまざまな設備を車内のあちこちに配置した。ぜひお気に入りの場所を見つけてもらいたい」とコメント。JR西日本車両部の関谷賢二車両部長も、「この車両に乗ることで山陰地区を思い出してもらえるような存在になってもらえれば」と思い入れを話していました。「ただの移動手段としてだけではなく、車両に乗ること自体が旅の醍醐味になるのではないか」というのが錦織良成映画監督のコメントでした。

 先日、岡山駅のホームで電車を待っていると、何とこの新型「やくも」の車両が入線してきました。試験運転をしていたようです。安来駅米子駅でも試運転中の新型車両を目撃しています。4月6日のデビューを控え、頻繁に伯備線を疾走しているようです。これを受け、この車両に抱きついたり、連結器の部分に乗りポーズを取ったりする悪質な画像がネット上で広がり物議を醸しています。また間もなく運行を終了するリバイバルやくも」の撮影に訪れるマナーの悪いファンがいることも報じられいます。復刻塗装をした「やくも」の運行が始まった昨年頃から相談が5倍ほどに急増したとのことです。私有地への立ち入り、車で猛スピードで走り抜ける、樹木の伐採の横行、電動のチェーンソーを持った人も見かける、など不安の声が上がっています。危険ですから、気を付けたいものです。

 JR西日本鳥取県米子市は、人気音楽バンドの 「Official髭男dism」(愛称:ヒゲダン)の代表曲が、2024年4月6日よりJR米子駅の発車メロディと特急やくも新型車両(273系)の車内チャイムにて使用が開始されると発表しました。「Official髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)」は島根・鳥取・広島出身の男性4人組のバンドです。メンバーのほとんどが島根大学出身ということから「島根発」というイメージも強い彼ら。ボーカル藤原聡さん、ドラム松浦匡希さんの出身地である島根県米子市の陸の玄関口で、自身の曲が使用されることとなり、地域の方やヒゲダンファンに喜ばれそうです。

 JR米子駅では、「Official髭男dism」がはじめて紅白歌合戦に出場した際の曲、「Pretender」が列車の発車の際のメロディに使用されます。使用されるのりばは、1番(主に岡山・鳥取方面)と2~5番のりば(主に出雲市・益田方面)。列車は、やくも / サンライズ出雲 / スーパーおき・スーパーまつかぜ / 山陽本線・伯備線の普通列車です。2024年4月6日のやくも10号岡山行発車時(9時35分発)から使用を開始し、3年間の予定です。

 さらに、岡山~出雲市間の各駅で発着時に「特急やくも新型車両」の車内で流れる案内放送前の車内チャイムでは、上りは「Pretender」(オルゴール)、下りは「I LOVE…」(ピアノ)が使用されます。山陰外からのお客さんの利用が多い「特急やくも」では、岡山へ向かう場面は、多くの方が帰路となることから、情緒的な楽曲の雰囲気が旅情にマッチすると考えたことによります。一方、縁結びにゆかりのある地が多い山陰に向かう人が多い下りは、多くの人の胸を打った恋愛を歌った楽曲が旅情にマッチするとして採用されました。今から新型車両に乗るのが楽しみです。♥♥♥

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