ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブ

 かつて、ある出版社の営業責任者の方が私の自宅に講演の打ち合わせに来られた際に、「八幡先生の生き方のポリシーは何ですか?」と聞かれたので、「give and giveです」とお答えしました。今の私ならもう一歩進んで「give and give and giveです」と答えることでしょう。見返りを求めず、周りの人のために行動していると、神様は必ず見てくれていて、必ず自分に戻ってくる、というわけです。これは、私の亡くなった母の生き方に学ぶところが多かったせいかもしれません。母は実際、おせっかいなくらいに人のために行動していました。人助けです。そうすると不思議なもので、その倍くらいになって戻ってくるものなんだよ、といつも私に教えてくれたものでした。母は信仰心のあつい人だったので(日蓮宗、毎年夏になると最上稲荷奥之院」で修行していました)、神様の教えとしてそれを実践していたのかもしれません。そんな母もずいぶん人に裏切られたり、だまされたりもしたことを、子供ながらに間近に見てきましたが、母は気にすることもなくそのような生き方を生涯貫き通していました。やはりそのDNAもあり、影響を受けているのでしょうね。見返りを求めずに人のために動いていると、自分自身も多くの人に助けてもらっているのです。

 学校では生徒たちには、「人が先、成績は後」と言っています。点を取ればあとは何をしてもよし、では困ります。人の道にはずれるようなことを平気でする生徒がいます。礼儀の全くかけらもない生徒もいます。点数のためならどんな汚い手を使ってもOKという生徒がいます。約束を平気で破る生徒がいます。提出物の締め切りを平気で破る生徒もいます。掃除時間中に単語集片手に英単語の勉強をしている生徒がいます。努力・準備も全くせずに楽をして「富士山に登ろう」としている生徒も目立つようになりました。こういった人たちには、きちんと「人の道」を教えてあげないといけません。大人になってから困ります。そんな気持ちでずっと教えてきました。私が大好きなクロネコヤマト小倉昌男社長は、「サービスが先、利益は後」と喝破されました(理由:良いサービスを提供すればお客様に喜んでいただける。お客様に喜んでいただければ荷物が増える。荷物が増えると、エリア当たりの荷物の個数が増えて密度化が進む。密度化が進むと生産性が上昇し、自然に利益が出る。とにかく良いサービスを提供することが肝要だ)。お客様のための数限りない改革を、この精神で貫き通した人です。本当に大成功をおさめられましたね(ただ最近のクロネコ宅急便に関しては、少しサービスの低下が疑問視されます)。

 経営コンサルタントの故・船井幸雄(ふないゆきお)さんと、将棋の羽生善治(はぶよしはる、現将棋連盟会長)さんの対談集で、船井さんがこんなことを言っておられるのを読んだことがあります。

 ツキをつけるもうひとつの効果的な方法は、実は「与え好き」(ギブ&ギブ)になることです。与え好きになると、一見損をするように思えるのですが、不思議とツキはすぐにやってきます。私にはじめて「与え好き」が良いことであると教えてくれたのは、私の家内でした。私自身は、家内と結婚する以前はどちらかというと、与えるよりも、もらうほうが好きでした。結婚当初は家族が食べていくだけでもやっとの生活だったのです。それなのに、「差し上げ好き」の家内の行動に、私はいささかショックを受けました。しかし、しばらくたつと、その行動は意味のないことではないようだと気がつきました。「差し上げ好き」は、一見損をするように思えますが、間違いなくその何倍ものお返しが来るのに気づいたのです。たいていの人は、もらうことは好きでも、あげることはしたがりません。そのため、何かをいただいた場合は、自然とそれをくれた人に好意を持つようです。その行為自体に、エゴがなく、見返りを期待しない場合は、なおさらうれしく感じるものです。少し長い目で見ると、「与え好き」になると、あげたものが何倍にもなって返ってきます。これは金品だけに限らず、親切や恩情など、どんなものでも見返りを期待せずに与えることで、何倍にもなって返ってくるようです。「類は友を呼ぶ」というように、自分のまわりには自分と似た人が集まってきます。若いうちは与えるよりも、もらうほうが好きだというのも、多少はいいかもしれません。しかし、いつまでたっても、「テイク&テイク」の気持ちでは、まわりにツキのある人はいなくなってしまうでしょう。一緒にいて居心地の良い「ギブ&ギブ」の精神を持つ人と一緒に過ごすには、まずは自分から「与え好き」になることが、一番の方法のようです。  ―船井幸雄・羽生善治『人間力』(ビジネス社)

 400冊以上の著書のある「経営の神様」と称されたカリスマ・船井幸雄さんの言葉だけに重みがありますね。私は尊敬する鍵山秀三郎先生(イエローハット創業者)から、人間の幸せには三つあることを伺いました。一つ目の幸せは「してもらう幸せ、二つ目は自分で「できる幸せ、最後の三つ目は、人に「してあげる幸せ」で、相手の喜びを我が喜びとする、三つの中でも最高の幸せです。してもらう幸せ」から「できる幸せ」へと進んで、そして「してあげる幸せ」を味わえる人生をおくりなさい、という教えでした。経営の極意も「ギブ」の連続だといいます。普通の人は「お客さんにもっと来て欲しい」「もっと買って欲しい」「もっと儲けたい」といった具合に「もっと、もっと……」と「テイク」の連続を望んでしまい、実際にそのような言葉を口にしているのでうまくいかないのです。これは「テイク・アンド・テイク」の世界です。反対に、「どうぞ、ごゆっくりと過ごして下さい」「どうぞ、ごゆっくりお試し下さい」「どうぞ、お気に召さなければ、いつでもご返却下さい」「どうぞ、好きなだけ持っていって下さい」「どうぞ、ご遠慮なく召し上がり下さい」と「ギブ・アンド・ギブ」の接点を持つことで、経営も人生も楽しいものになってきます。

 先日も、2日連続で知り合いにごちそうをしたところ、家に帰ると思いもかけぬ所(野村證券)から、その何倍ものお金が振り込まれていました。本当に不思議ですね。何の見返りも期待せずに人に尽くしておくと、きっと思いもかけずいいことが帰って来ます。かつて、博多で開催された研究会のお土産に、私が島根県立松江北高等学校で作った英語指導資料(約350本)を全部収録したデータCD 集「英語は絶対に裏切らない!」(写真下)を無料で配布しました((株)ラーンズが、この研究会のためだけに作ってくれた貴重なものです)。たくさんの先生が喜んでくださって、当日のアンケートや、帰りましてからもメールで、お礼の言葉をたくさん頂戴しました:とても貴重な国宝級の資料、ありがとうございます」「先生のこれまで蓄えてこられた資料、情報をたくさんいただき本当に感謝です。是非有効に活用させていただきたいと思います」「お土産の資料は本当にすばらしく無料で本当にいいのかなという内容です」「先生の資料もたくさん頂け、自分の研究の成果を他にも無償で提供される先生の姿勢に感動しています」今でもこれらの先生方と仲よくさせてもらっています。

▲講演会に参加された先生方に無料で配付された指導資料集CD

 私の生き方の大きな支柱となっているものに、「たらいの法則」があります。 水を張った「たらい」で、自分の方に水を寄せようとすると、 返って反対側に行ってしまうでしょ。逆に自分の反対側に水をやると、しばらくすると自分のほうに返ってくる。同じように、「自分が、自分が」という気持ちが強いと、逆にあまり自分は得をしない。相手にただ奉仕をする気持ちになると、巡り巡って自分のためになる、 というものです。これは私の大好きな経営者・稲盛和夫(いなもりかずお)さんの「利他の心」の実践版ですね。

 おまえ、ここに水が入ったたらいがあるだろう。両手でその水を自分の方へ左右から送ってごらん。水は初め、自分のところに集まるけれど、すぐに自分の手元から離れていく。反対に、水を左右に送ってみなさい。水はおのずと自分の方へ集まってくるだろう。自分の幸せばかり考えているとな、その人の幸せはどこかへ行ってしまうのだよ。だから人が喜ぶようなことを、無理せず、少しずつ積み重ねていくことがとても大切なんだな。これを「損して得取れ」と言います。

 たらいに大きな水を張る。手前から人差し指一本で水を向こうに押しやる。水の波紋は途中で消えてしまう。それでも、ただひたすら押し続ける。やがて、波紋は大きくなり反対側の壁にぶつかって自分に返ってくる。与えて、与えて、それでも与え続けること。それはすべて自分のためになる…。そんな生き方をしなさい。

 こんなところから、私の人生哲学である“Give  and give and give”は生まれたのでした。♥♥♥

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