マギー司郎さんの魅力

 (公社)日本奇術協会の季刊誌『Newワン・ツー・スリー』のNo.14最新号に(写真上)、私の大好きなマギー司郎(78歳)さんのインタビュー記事(インタビューアーはケン正木)が巻頭特集され面白く読みました。メガネにヒゲ。黄色い燕尾服に、茨木弁の客いじり。通算の高座数は25,000回を優に超えています。これまで1回も舞台を休んだことはありません。今のマジック界にあってオンリーワンの異質な存在ですよね。マジシャンなのに会場をほんわかさせる「おしゃべりマジック」とでも言うのでしょうか。いつも柔和な表情でお客さんの心を癒しています。「昔はハデなイリュージョンに憧れたよ。でもね、この年になるとあの大がかりな仕掛けは大変なんだ。やらなくてよかった」とおっしゃいます。座右の銘は「自分の弱点は武器になる。弱点をさらけ出せば人は強くなれる」「芸人は、犯罪でなければ何をしたって構わない」だそうです。マギー司郎『生きてるだけでだいたいOK~”落ちこぼれ”マジシャンが見つけた「幸せのヒント」』(講談社、2007年)は、マギーさんの履歴書のような本です。

 完璧じゃないから伝わるものがあるし、めげない人、貧乏に負けない人っておもしろいんだよね。味があるっていうの?それは芸人に限らず、一般の人もそうだよ。完璧で隙がない人って近づきにくいじゃん。だけど、学のある人ほど、完璧じゃない自分に悩んじゃうみたい。もったいないよね。僕の場合、人と比べるってことがほとんどないの。それは出発点の違いがあるかもしれないね、。生い立ちは貧乏で、子供の頃はお金持ちの家のゴミから食べられるものを探したこともあったし、マジシャンになっても華々しさなんか何もなかったからね。

 以前、NHKテレビで、マギー司郎さんのこれまでの芸能人生を振り返るという番組をやっていましたが本当に苦労人なんですね。今の話芸は、ストリップ劇場に1日4回、1ヶ月に120回、15年間に2万回以上立ち続けた賜物です。舞台に立った数では誰にも負けない、という自信でしょうね。そこに来ているお客さん(?)は、一筋縄ではマジックなんか見てくれませんから、生きるため食べるために、話芸を磨かれたわけです。その努力たるや壮絶を極めたと言います。

 だから、他の誰かと自分を比べる必要もないし、賢く立ち回って競争に勝つ必要もないんじゃないかな。世の中、完璧な人がいるように見えるけど、じつはその時、すごいだけだから。いつ失敗するかわからない。結局ダメな人も、スゴイ人もいないのがホントだなって思うの。本人が「オレはダメだな」と思っているところが、時代の流れでいいところに変わることもあるからね。

 マギーさんは中卒の16歳で家出して、最初は池袋にあったキャバレーでボーイやバーテンをしておられました(家賃4,500円、給料10,000円)。その後マジック・スクールに通い、20歳からストリップ劇場の舞台でマジシャンとして働き始めます。幼少期の貧乏生活と、15年ものストリップ劇場での下積み、という不幸を背負ったからこそ出せる味なんですね。1日4回出演のストリップ劇場、お客さんはストリップを見に来ているから、マジックは邪魔です。見ないのが当たり前で、おねえさんの裸はまだか、と。舞台に出た途端そんな無言の嫌われているオーラをひしひしと感じながら、「これからボク、20分、手品やるんですけど、嫌われているのもわかっているから、しんどいなと思った方は、これを自由に見てください」と舞台の袖に新聞や週刊誌を置きました。舞台に出ている本人が勧めるわけだから、お客さんも手に取りやすい。終夜営業の週末には6回出番があって、最後の回は夜中の3時。寝ているお客さんをいかに起こさずにマジックをやるか。そんな舞台を1ヶ月に120回、15年間で2万回以上やった下積み時代が今の芸風につながっています。舞台に出なければ稼げない。でもお客さんは一筋縄では見てくれない。そんな葛藤を毎日繰り返していると、すごい手品で驚かせたいとか、完璧に決めたいとか、ほめられたいとかは、全部忘れてしまったと言います。芸というのは、社会のゆとりで生かしてもらっていく世界。お客さんのゆとりを失わせてはいけない、見たくないなら無理して見なくていいですよ、寝ているなら静かにやりますよ、って。駆け出しの頃ネタがなかなか受けず、「ボクも大変なのよ…」「ごめんねー。じつはボク、手品が下手なんですよ。」と呟いたら、ドッと受けたことから、客いじりとぼけた味の芸がゆとりにつながっています。

 マギーさんの代名詞ともいうべき十八番オハコの例の「縦縞のハンカチが横縞になりました!」も、昔は、ハンカチを一度空箱に入れて演じていました。「何にもありませんよー」って空箱を見せておいて、そこに縦縞のハンカチを入れて、おまじないをかけて取り出すと「横縞になっていますよー」という感じでやっておられたんです。箱を持って行くのが面倒なのと、お客さんがうれしいのは仕掛けじゃないだろうと思ったので、いつの頃からか箱に入れるのをやめてしまいました。直接手の中でやるようになったら大変大ウケしたのです。計算や理屈ではなくて、芸をずっと長くやっていると、芸がいろいろなことを教えてくれるんだそうです。踏んだ舞台の数だけは誰にも負けないという自負が、ゆとりを生み出しているのだと思います。なるほど、教師の世界もそうだと思います。

 芸人はお客さんのゆとりの部分で生かしてもらってる。弟子にはまずそのことを肌で実感させるの。マジックなんかよりも大事なのは、「おはようございます」「ありがとうございました」などのあいさつやマナー。人としての最低限のルールなんだよね。それと、「頭が悪いのに、いいふりしちゃダメだよ~」「できないものをできるというのはダメだよ~」それから「言い訳は後出しじゃんけんと同じで卑怯だから、そういうクセはつけちゃダメだよ~」とも言ってる。弟子たちに教えるのは「芸は生き方そのもの」普段の生活を正せば舞台なんていつものまま出ればいいんだから。   ―『生きてるだけでだいたいOK』(講談社,2007年)

 島田晴夫先生に教わった「テクニックは追い越される、だけどキャラクターは追い越されない」が、今の芸風を支えています。どこか自信のなさ、物足りなさ、臆病さが、「申し訳なさ」そうな立ち振る舞いに現れています。

 一流のホテルで一流のお客さんの前でパッとポーズを決めるとするじゃん。でも演者より観てる人のほうが心も生活の豊かなのよ。そこでパッとやっても偽物じゃない。これに早く気が付かないと。芸人はとにかく嫌われたら駄目なんだから盤石でない方が良いと思うのね。とにかくお陰様でという気持ちを忘れてはだめだよね。常に感謝の気持ちを持ってないと。パッとポーズを決めるのも大事だけれどその裏に感謝の気持ち、お陰様で今日も無事に生きられましたという気持ちを持ってポーズを決めるという事が大事だね。

 マギー司郎さん、芸歴50年近く、無遅刻・無欠勤です。1981年・1982年放送演芸大賞ホープ賞受賞。1997年日本奇術協会天洋賞受賞。第31回日本賞教育番組国際コンクール最優秀番組東京都知事賞受賞。第38回アメリカ国際フィルム・ビデオ祭シルバースクリーン賞受賞。2005年ゆうもあ大賞グランプリ受賞。2008年第24回浅草芸能大賞。♥♥♥

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