ロビン・クック

 英語教員になりたての頃に読んだロビン・クック(Robin Cook、1940年~、84歳)の作品Coma(1977)の衝撃は忘れることができません。医師らが臓器移植、臓器売買を悪用し、金儲けのために秘密裏に患者を殺害している可能性に対する警告が織り込まれたショッキングな作品でした。世の中にこんな悪徳医者・悪徳病院が存在しているなんて!!医療現場での不正や陰謀を暴く作風に、以来ずっと虜になってこの作家の作品を読み続けてきました。実は、読みながら面白いと思うアメリカ英語表現をカードに取りながら、読んでいたんです。実に勉強になりました。

 ロビン・クックは言わずと知れた「医療ミステリー」を書かせたら右に出る者のいない世界的ベストセラー作家です。緻密なリサーチと緊張感のあるサスペンスを盛り込んだストーリーテリングで評価されています。自伝的な医学界を舞台にした処女作(売れませんでした)を書いたあと、「医療ミステリー」としての第1作『コーマ(Coma 昏睡)』を発表し、これがマイケル・クライトン監督・脚本で映画化されて大ヒットしたこともあり、一躍ベストセラー作家の仲間入りをしました。続いて古代エジプト学をテーマにしたサスペンス『スフィンクス(Sphinx)』を発表しましたが、評判は今ひとつだったことが、結果的に彼の方向性を決定することになったのは皮肉です。以後は、『ブレイン(Brain  脳)『フィーバー(Fever  発熱)』「医療ミステリー」に専念し、ときおり非医療物を書くことはあっても、ひたすら「医療ミステリー」を中心に活躍し、世界的な作家へと成長していきました。これまでに37冊のベストセラー作品を公刊し、全世界で40の言語に翻訳され、約1億部の売り上げを記録しています。新しく「医療ミステリー」というジャンルを確立することになり、メディア、一般大衆の医療に対する関心を、それまでのpedestalなものから、悪徳医者・悪徳病院が存在し避けなければならない存在、というふうに変えたのでした。もともと職業は医師であるため(ウェズリアン大学・コロンビア大学の医学大学院を卒業・修了、ハーバード大学医学大学院修了)、最新の医療科学知識を生かした作品はほとんど古びるところがなく読めるのは見事です。日本でも本国での刊行から間を置かずに翻訳され続けていたのですが(翻訳でも原題を変えないことという契約条件があるそうです)、2001年の22冊目の『ショック-(Shock 卵子提供)』を最後にパタリと紹介が止まってしまい、以降の8冊は翻訳されませんでした。日本を舞台にした作品に2010年の『キュア(Cure)があります。現代医療の技術的な可能性や、医療業界の内部事情や、それに伴う倫理的な問題を一貫して読者に提起し続けています。商売としての医療、医学よりも利益追求という問題を深く掘り下げた作品に次々と挑戦しておられます。最近は岡山丸善で、2冊の新刊ペーパーバックを買って帰りました。

 子どもの頃は、考古学者を目指しておられましたが、やがて医学を志し、軍隊勤務を経て、小説家を目指します。彼は小説家デビューをする際には、本を出すことなどたやすいものだと思っておられました。ところが、これがやってみるととんでもない大仕事で、もしそうと分かっていたら絶対に挑戦することはなかっただろう、と回想しておられます。処女作は成功しませんでした。プライド・競争心がずいぶん傷ついたと言います。「ニューヨーク・タイムズ」に載るベストセラーリストに挙がっている本を徹底分析することで、他の作家がやっていない作品を書こうとしました。それが「医療ミステリー」だったのでした。「ベストセラー作品を書くから」と同僚に言い続けておられましたが、みんなからは無理、無理、と非情にからかわれたものです。

 今ではちょっと信じられないことですが、彼は新作を書く度に、自信喪失に襲われるのだそうです。医師としては、そういう気持ちになったことは一度もないそうです。「新作が書けるだろうか?面白い話を思いつくことはできるだろうか?魅力的な登場人物を創造できるだろうか?」という危機感に苛まれながら、創作活動を続けているとインタビューで読んだ時には、ビックリしたものです。今では実業界にも進出しておられ、インターネットソフトウェア、スポーツ施設、不動産事業、レストラン、建設業などに投資しておられます。趣味はインテリア・建築デザイン、リノベーション、バスケットボール、テニス、そして今は自転車のツーリングです。♥♥♥

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