言行不一致

 教育現場でいつも正論を唱えて、組織や権力に屈することのなかった立派な先生が、管理職についた途端に変節して「今まで言っていたことと、やっていることが違うじゃないか!」という例を数多く見てきました。このような人には、部下は決してついてくることはありません。

 この度きわどい逆転勝利で総理大臣となった石破 茂(いしばしげる)さんは、鳥取県で初めての総理でもあり、最近の自民党にあっては、おかしいことにはおかしいと珍しく正論を唱える人物で、少し期待はしていたんです。鉄道を愛し、キャンディーズ押しも私との共通点で親近感を覚えていました。演説会場で「テレビで見るより怖くない、と言われる石破茂であります」と自己紹介するのを、野党時代から「つかみ」として遊説しておられます。さらに演説の中盤ではご当地ラーメン店の名前を次々と列挙して、集まった聴衆に親近感を持ってもらうテクニックを全国行脚で養っておられます。ラーメン議員連盟の会長さんですから。ラーメンが大好きなのも私と同じでした。

 総裁選挙前の野田立憲民主党代表との熱の込もったテレビ討論にはワクワクし、今後の白熱した議論を楽しみに心が震えたものです。プロレス好きの野田さんは、石破さんをプロレスラーのあのNWA最強世界チャンピオンのハーリー・レイスに喩え、ジャンボ鶴田ならぬ自分が「逆エビ固め」でギブアップさせたいという発言に期待を抱かせました。ところがその後、「堂々とチョップを胸で受け止めてくれるハーリー・レイスだと思っていたら、今は、リングに上がるや、ガウンも脱がないままサーベルを手に殴りかかってきたタイガー・ジェット・シンみたいになっちゃった。悶絶し苦渋の決断なのだろうが、本来の彼ではない」と趣味のプロレスで喩えてピシャリ。「だからこそこちらはリングのど真ん中で、逆エビ固めであぶくを吹かせ、タップさせたい」と追い込む構えを示しました。

 決選投票直前の5分間スピーチで(これが当選の決め手になったと言われています)、前任者の岸田総理の功績を讃え、歴代の政権に批判的だった自分の過去について詫びておられたのは一体何だったんでしょうか(変節の予兆?)。

 衆議院議員の石破茂であります。冒頭、お正月の震災、そして先般の豪雨、犠牲になられた方、そういう皆様方に心からの哀悼の誠を表し、お見舞いを申し上げる次第です。そして、今、この瞬間も懸命に職務にあたっておられる多くの皆様方に心からの敬意を表します。この総裁選挙にあたりまして、ここまでこさせていただくことができました。大勢の同士議員の皆様、そして全国の党員党友の皆様、そして広く国民の皆天方に賜りましたご厚情に心から熱く御礼を申し上げます。この総裁選挙は、岸田総理総裁が、自由民主党に対する多くの不信、そういうものにけじめをつけるために、自ら身を引かれたということに大きな要因がございます。岸田総理総裁が三年にわたりまして、内政そして外交を果たしてこられた大きなご功績に同士の皆様ととともに心から敬意を表します。総理総裁、誠にありがとうございました。わたしは至らぬものでありまして、議員生活38年になります…。

 「お前たちは何のために政治家を志すのか。先生と呼ばれたいのか、勲章や金が欲しいのか。そんなヤツは去れ。『勇気と真心をもって真実を語る』。それが政治家の仕事だ」 石破総理が銀行員から政界に転じる時に、背中を押してくれたのが、師事した渡辺美智雄元副総理のこの言葉でした。言うべきことは物怖じせずにはっきりと言う。物事にはきちんと筋を通す。時の政権の政策に反対することも辞さない。閣僚でありながら麻生太郎首相に退陣を要求した。当時の安倍晋三首相にも批判を辞さず、歯に衣着せぬ舌鋒で国民の人気を集める一方で、党内からは煙たがられ、「後方から鉄砲を撃つ」と警戒され、干されて長らく党内野党に甘んじた人物でした。そこら辺が国民の絶大な人気につながっていたはずです。

 石破さんは総裁選の当初は、10月27日投開票を念頭に早期解散を強く主張した小泉進次郎氏をたしなめるように、国民に判断してもらえる材料を提供するのは新首相の責任で、一方通行の代表質問ではなく、予算委員会での一問一答の丁寧なやりとりが必要だと主張していました。それがいざ総裁に当選すると、首相就任と組閣も待たずに、コロッと自説を曲げ、過去最短日程での衆議院解散しての総選挙実施を表明しての異例の船出です。解散前の国会論戦の重要性を繰り返し訴えてきたのは一体何だったのでしょうか?のっけからこのような手のひら返しでは、信頼回復への歩みは、おぼつかないでしょう。たとえ党内基盤の弱さからとは言え、このような変節は理解されることはないでしょうから。国会論戦で野党に準備の機会を与えず、新政権の勢いのあるうちに選挙になだれこみたいというのは、党利党略に他なりません。総裁となるや、永田町の論理に取り込まれてしまい、独自色をすっかり失ってしまいました。報道各社の世論調査で、次期首相として石破さんへの支持が高かったのは、党の都合を優先したり、党幹部に忖度したりしない「正論」への評価が高かったからでした。党首討論で、批判が強い政策活動費を今回の衆院選で使うかと問われ、「適法の範囲内で、現在許されているものを使うことは可能性としては否定しない」と答弁していたものが、これまたフジテレビ系の番組に出演した際には「選挙に使うことはございません」と軌道修正しました。またブレるのか?!!明らかに野党の批判が強まったのを受けての方針転換です。このように発言がコロコロ変わったり、「言行不一致」は、確実に国民からの信頼という資産を損なうに違いありません。党利党略に目を奪われ、国民よりも同僚受けを優先して信念を曲げたとなれば、国民の期待は失望へと変わります。間違いなく「納得と共感」を得られることはないでしょう。

 言っていることと行いが違えば恥ずかしいという美意識が生まれ、どうしてでも自分を律しようと努力するはずです。ところが、単なる権力欲でリーダーになっている人であれば、その地位を守ること自体が目的になっているので、「言っている」ことと「やっている」ことが違っても恥ずかしいとは思わないのです。それでも当面はリーダーの地位は守れるかもしれませんが、そのような自分を律する「誠実さ」がないと、リーダーは信頼も尊敬もされないので、いつかその地位から追われることになる、というのが尊敬する故・稲盛和夫さんの教えでした。

 裏金議員の公認問題に関しては、世論の逆風を踏まえて、党の重い処分を受けるなどした議員への非公認方針を発表しましたね。比例選への重複立候補も認めないとしました。党内(特に安部派)は騒然としています。裏金議員に甘い対応をしたと見なされれば、衆院選に負け、野党に政権交代を許しかねないという危機感に駆られたのでしょう。予想に反して一見厳しい判断基準のようですが、野田さんが指摘していたように、「相当程度に」非公認されるのではなく、大半は公認されるのですから、だまされてはいけません。「偉い人は正邪じゃなくて損得で動く」と言ったのは田原総一郎さん(90歳)でした。総選挙の結果次第では、総理の立場も危なくなりかねません。

 もう一つ文句を言いたいことがあります。スカスカの内容の原稿をただ棒読みするだけの石破総理にも非はありますが(もっと自分の言葉で熱く語っていた人です)、初心表明演説の国会のあの野党議員たちのヤジのひどさは何でしょう。これが日本を代表する国会議員のレベルかと思うとゾッとします。人の話を聞くでもなく、汚いヤジの連呼です。実に見苦しい。時代を担う子どもたちは、あれを見て何を思うことでしょうか?♥♥♥

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