「コロンブスの卵」

 

 イタリアの探検家であるコロンブスが新大陸を発見してスペインに帰ってくると、朝野を挙げて熱狂的して出迎えました。ところが、どの世界でもそうですが、あまりにも評判が高いと、これに反感を持つ者もいたのです。ある日、数人の貴族富豪がコロンブスを招いて盛大な宴会を開きましたが、みんな尊大で傲慢で、彼のことがしゃくにさわり妬みを持っている連中ばかりでした。お酒が回るとだんだん無礼なことを言い始めます。「君はアメリカを発見した。もちろん結構なことだが、いわば当たり前のことじゃないか。誰でも西へ西へと行けば、アメリカにぶつかるに決まっているのだ。ただ偶然に、君が最初にぶつかったというだけのことじゃないか。自国には優れた人材が豊富なので、あなたじゃなくても新大陸の発見は誰にでもできる」といった具合に嫌みを言われ、中傷されました。それがまた、この宴会の目的でもあったのでした。コロンブスは黙って、この無礼な発言を聞きながら、静かに立ち上がって、ゆで卵を一つ持って、こう言いました。「皆様、どなたでも、この卵を真っ直ぐに立ててみてくださいますか?」一人ひとりが試みますが、卵のことですからころころと転がってしまって、うまく立ちません。最後にコロンブスが「それでは私が立ててみましょう」と言って、卵の端を少しだけ割って平たくして、そこを下にして卵を立てました。それを見て人々は笑います。「なんだ馬鹿馬鹿しい!それなら誰だってできるじゃないか」すかさずコロンブスは言い返します。「そうです。誰にでもできる容易なことです。しかし、この容易なことを、たった今、どなたもできなかったのです。他人のしたことを見れば、誰でも容易なことだと思いますが、誰もやらない時に真っ先にそれをやるということが貴いのです。真似ることは全く易しいんですがね」この言葉にさすがに皆の者はシュンとしてしまいました。

 有名な「コロンブスの卵」の話ですが、それが生まれる経緯は、以上のようなことでした。できたものを真似するのは実に簡単なこと、あるいは改良を加えて性能を向上をさせることはそれほど難しいことではありません。誰かが成功させた後に続いて実行するのは、すでに解決策が分かっているので容易にできるでしょう。しかし最初に行う場合、思いもよらないトラブルに遭遇する可能性もあります。前例が全くない状態で、手探りで成功へのルートを探し出さなければなりません。一番大変なのは、最初にそれを行うことです。したがってオリジナルを完成させた人は貴いのであり、十分な尊敬を受けるに値するのです。「創見は難く、模倣は易し」ということですね。このことから、「コロンブスの卵」は逆転の発想や他人が気が付かない盲点、という意味としても捉えられるようになりました。

 私が日赤で心臓の手術を経験して退院したばかりの病み上がりの時に、当時ラーンズの社長、編集責任者、島根県営業担当の三人がわざわざ松江に訪ねて来られました。当時「センター試験英語」の問題集は山ほどありましたが、私は若い時から、各大問の「解き方」をまず徹底してから演習をすると効率が上がるので、自分でその「解き方」のノウハウを自費で地元の印刷屋さんにお願いして「英語センター試験対策本」として冊子化して、毎年生徒たちに指導していました(第14版まで発行)。当時そのような教材は全く出ていなかったので自分で作るしかなかったのです。私が依頼されたのは、そのような「解き方」を解説する小冊子を『センター試験重要問題演習』(ラーンズ)のために書いて欲しいという内容でした。思うようにやらせてもらえるのなら、とお引き受けして、執筆に入りました。いざ出版されてみると、他社にはない貴重な冊子だということで、先生方に好評を博し全国で非常に多くの高等学校でご採用いただき、現在に至っています。『共通テスト重要問題演習』(ベネッセ)の「ナビゲータ&チェック」がこの冊子です。今ではどこの会社の問題集にもこうした「解き方」のポイントを解説する小冊子が付くようになりましたが、最初にやったのはこのラーンズの英断でした。その来年度版『2026共通テスト対策【実力養成】重要問題演習英語(リーディング)』(ベネッセ、1,060円)が届きました。新課程に準拠したどこよりも早い出版です。どうぞよろしくお願いします。♥♥♥

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