鉄道きっぷの世界

 電車などを利用する人にとってはごく身近なものでありながら、特徴や仕組み、種類など数が多くまことに複雑怪奇な「きっぷ」。一方で、開業○○周年などに代表される記念日に発行される記念きっぷやICはそのつど大きな話題になり、その集客ぶりがニュースで取り上げられるなど、社会現象になることも少なくありません。そんな鉄道きっぷの世界を分かりやすく解説したムック本が出ました。『鉄道旅がもっと楽しくなる! 鉄道きっぷの世界』(イカロス出版、2024年7月)です。鉄道好きにとっては堪らない一冊でした。私はなめるようにして読み進めました。  

 話題に事欠かなくとも、謎の多い国内の「きっぷ」を分かりやすく解説した一冊です。多くの図解や写真を用いながら、一般の人でも楽しく読めるような内容となっています。「きっぷ」に関して、これでもかというぐらいの情報が盛り込まれており、本書を読むことで、普段利用している切符やICカードに思いを巡らせ、より鉄道に関心を持つことは請け合いです。

▲JR松江駅

 世間では、「きっぷ」=「切符」と思っている人が多いようです。JRでは上の写真のように「切符」ではなくひらがなで「きっぷ」と表示されていることに注目する必要があります。つまり、私たちが普段使っているものはたいてい「きっぷ」です。ちなみに、「きっぷ」がひらがなになっているのは、子どもでも読みやすいようにするためなどではありません。その命名は苦肉の策だったのです。きっぷ売り場は本来は「乗車券類売り場」と表記するのが正しいのですが、「乗車券類」という言葉はあまり一般的に使われているものではありません。そのため、「乗車券類売り場」と書かれていると、客が混乱してしまいます。しかし、「切符売り場」にしてしまうと、乗車券類以外のもの(例:列車内に手回り品を持ち込む際に必要な「手回り品切符」(290円)、駅で携帯品を一時的に預かる際に発行される「一時預かり品切符」(430円)、忘れ物の情報が書かれた「遺失物切符」、「諸料金切符」など)も販売していることになり、これは正しい表現ではありません。そこで考えられたのが「きっぷうりば」という表現です。これならば間違った表記にはなりませんし、お客さんも容易に理解することができるのです。要するに、「きっぷ」と「切符」は全く別の意味を指しており、両者は明確に使い分けられているのです。

 上の写真を見てください。「きっぷ」には、小さな紙切れの中にさまざまな情報が記載されています。左端の日付、その横の区間、真ん中上にJRの社名、真ん中の▶に運賃、右端に購入時間などが印刷されています。ただ私には、その下の四桁の数字の意味が分かりません。疑問に思ってJR松江駅やJR米子駅で聞いても、明確な答えを聞くことはできませんでした。笑いながら「お客様に割り当てられた番号です」と言われても納得できません。「券売機の中で振られた数字」と言われるのならその意味・仕組みを教えて欲しいのですが…。しまいには「お客様には関係のない数字です」などと言われると、ますます不信感(!)がつのります。果たして…?その後数週間、9334→9676→0009→0769→1083→1372→2539→4131→7647→8120(連休)→5351→6138→2459(連休)→8425→9229→4644→9905→0680→1002→7240→8627→9064→3401→3756→4062→4786→5095→5364→6193→4818→6819)と推移していきましたから、券売機の中で0000から9999までをカウントしているのだろうな、と推測しています。

 自動券売機の普及と共に、紙の「きっぷ」の主役になったのが「磁気券」です。裏面には黒色の磁性体が塗られており、磁気データが保存されています(写真右)。磁気で書き込まれている情報を読み込むことで、内容により自動改札機が閉じたり開いたりするのです。自動改札機は裏面にある情報を読み取りますが、「きっぷ」を裏返しに入れてもちゃんと普通に通過することができます(私は実際にやってみています)。自動改札機の中には、「きっぷ」の表裏を読み取る磁気ヘッドがついていて、表が上で入れられた「きっぷ」はそのまま、裏面が上で入れられた「きっぷ」は中で反転してから、データを読み取るしくみになっています。実に賢いですね(⇒この自動改札機のオムロンの開発秘話についてはコチラをお読み下さい)。

 JR東日本など首都圏の鉄道8社は5月、2026年度末(2027年3月)以降に、この磁気乗車券からQRコードを使用した乗車券(QRコード切符)への置き換えを順次進めていくことを発表しました(カズレイザーさんのテレビ番組「X年後の関係者たち」では、日本で発明された「QRコード」の苦労話・秘話がとても面白かった)。磁気券ではなく、QRコードを記載した乗車券を券売機で発行して、乗車可能となります。鉄道会社側のメリットの大きな部分は「コスト」であり、磁気切符を処理するための改札機の“メカニカル”で複雑な機構のメインテナンスが大きな負担となっていました。磁気の紙切符の自動改札機は、切符が上下左右どの向きで入れられても処理できるような複雑な紀行を内蔵しているために、単価そのものが高いのです。それでも詰まりが起こるのは避けられず、維持管理のコストも無視できないのです。また、磁気券に塗布された磁性体は金属成分を含んでおり、リサイクル時に紙の部分との分離が難しいという環境問題にもつながる課題があります。利用者側のメリットとして大きいのは切符の入手性です。当面は現状の磁気券と入手面について大きな違いはないものの、切符に使用されるQRコードそのものは汎用の仕組みであり、将来的には利用者自らが紙に印刷して所持したり、あるいは自身のスマートフォンなどの画面にQRコードを表示して改札を通過することが可能になります。磁気券の場合、仮にオンライン上でチケットを購入したとしても、必ず券売機や窓口にいちど顔を出して“物理的”に切符を入手する必要があり、この点が大きな違いとなります。

 全国的には、2014年に沖縄都市モノレールが切符を磁気からQRに切り替えています。2015年には北九州モノレールもQR切符を導入しています。磁気の紙切符を扱う複雑な機構が不要になれば、自動改札は単純なものにすることができ、この先10年ほどで、自動改札は形も市場も様変わりしていく可能性があります(顔認証、QR、タッチ決済等)。♥♥♥

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