「ギャンブラーの誤謬」

 授業で、毎年東京大学の2002年度の「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」に関する二次試験の入試問題を読んでいます。東大入試の英文は毎年本当に良く練られた質の高いものです。英文は、「神が世界を相手にサイコロ遊びをするなどとはとうてい思えない」というアインシュタインの有名な言葉で始まりますが、人生は理詰めで動くチェスではなく、一手ごとにサイコロを振る運任せのバックギャモン・ゲームなのだ、と展開します。しかし、日常生活では過去の出来事の経緯から、次に何が起こるかを予想することが有益である、という内容の英文です。

 「ギャンブラーの誤謬」というのは、コイン投げで表、表、表と連続して表が出ると、次は裏が出そうな気がするという心理傾向です。実際には、何回表が連続して出ようとも、コイン投げは、毎回独立事象(前回の結果と次のコイン投げは無関係)ですから、次に表が出る確率は1/2なんですが。日常生活においては、過去の歴史から、パターンを読んで、次に何が起こるかを予想する(ギャンブラ-の誤謬)ことは、意味のあることですし、またそうすべきです。私が過去の「センター試験」「共通テスト」を詳細に分析して、そこから次年度の試験の内容を予想するのもその一つの好例でしょう。過去のデータから、来週の天気を予想するのもそうですね。「歴史は繰り返す」もそうです。ところがそれが通用しない例外が一つだけあるので注意しなければいけません。それが「ギャンブル装置」です。出来事がそのような予想過程とは無関係に起こるように設計されている機械には、今言ったような過程は通用しないのです。そんな内容の英文ですが、人生で種々の決断を迫られる時にも役立つお話なので、毎年取り上げることにしています。

 少し前の話になりますが、例を挙げてみましょう。2021年の「共通テストリスニング」第1問 Question No.5に、Almost everyone at the bus stop is wearing a hat.という英文を聞いて、それを正しく描いた絵を選ぶ問題が出題されました(写真下)。基本語almostの意味がきちんと把握できているかどうかを試す良問でした。実は、2019年のセンター試験、第1回試行テスト、第2回試行テストにおいて、計4回もこのalmost~(もうちょっとで~になる)の用法が出題されていました。この事実をどう考えたらいいのか、私はじっくりと考えました。

 2019年の「センター本試験」の第2問Aの問3に、次のような問題が出題されていました。「基本語almostの使い方は分かっていますか?」という問いかけですね。かなりの受験生が間違えた問題です。よく見る単語でも、その正確な意味が案外分かっていないことが判明しました。

After (    10    ) dropping the expensive glass vase, James decided not to touch any other objects in the store.

    ① almost                    ② at most                    ③ most                ④ mostly

 「もうちょっとのところで高価なガラスの花瓶を落としそうになって、ジェームズは、店にあるその他の物に一切ふれずにおこうと決めた」という文章で、almostを埋める問題です。almostが「もう少しのところで~するところだった」という意味であることをきちんと把握していて初めて解ける問題でした。「ある動作をもう少しの所でやりそうになるが、結局はやらない」「ある状態にもう少しの所で達しそうになるが結局は達しない」という意味を持った単語がalmostです。ところが受験生のほとんどは日本語で「ほとんど」と覚えているので、この単語の意味するところを正確に掴むのが難しいのです。実際に、今年のセンター試験で、この問題の正答率は、ベネッセ調査で44.9%、河合塾の調べでも43.9%と低い結果が出ていました。「基本語の理解」を問う良問です。

 実は、そのちょっと前の2018年11月に行われた第2回目の「試行テスト」「リーディング」においても、第4問において、Surprisingly, we almost won, which was amazing as there were 20 entries in the competition.(驚いたことに、私たちはもう少しのところで優勝でした。カラオケ大会には20組が出場していたので、そのことは素晴らしいことでした)という英文を読んで、表彰台のイラストを参照しつつ、正解の「2位」となったことを選ぶ問題が出題されています(正答率64.5%)。さらには、第6問Bでは、By the 1940s, however, wolves had almost disappeared from Yellowstone National Park.「オオカミはもうちょっとのところで絶滅するところだった(→完全には絶滅しなかった)」とalmost用法が出題されています。また2018年2月に実施された第1回の「試行テスト」「リスニング」においても、almostの用法が問われていました。The boy is almost as tall as his father.の英文の内容に最も近い絵を選ぶ問題です。単語集などに出ているようなalmost「ほとんど」と機械的に覚えていると、正しい選択に苦労します(正答率9.9%とほぼ全滅状態)。「ちょっと足りない」というイメージで押さえておかないといけない単語です。

 これほど短期間の間に、4度も立て続けにalmostの用法が問われる、ということの意味を真剣に考えてみなくてはいけないと私は思いました。間違いなくそこには、「大学入試センター」の、現場に対するメッセージが込められていると考えました。「基本語は実際に使えるレベルにまで習熟しておきなさいよ」というメッセージと受け取ったのです。そのことを『ライトハウス英和辞典』(研究社)の販売促進パンフレット(2019年11月)にも、「この1年でalmostが4回も出題された!!」と題して論考を寄せています(写真下)。

▲ズバリ、的中!!

 授業でも何度も取り上げて、生徒たちに注意喚起を図ってきました。日常生活では「ギャンブラーの誤謬」を恐れずに、過去の出来事の経緯から、次に何が起こるかを予想することが有益である、という結論です。そしてその予想通り、「共通テスト」に出題されたのでした。

 かつて「センター試験」時代に第1問A,Bの発音・アクセント問題において、過去の問題が繰り返し出題されている実態から、「お色直し」が予想される、と毎年予言していましたが、やはり過去問からの出題が毎年かなりの語数に及んでいました。そこで私は1990年以来の「センター試験」に出題された全ての英単語を自費で一覧表にカラー印刷して、生徒たちに事前確認をさせていました。音声が欲しいという生徒たちの要望が多かったので、これも自費でCD化して配付していました。これも「過去の出来事の経緯から、次に何が起こるかを予想できる」好例でした。

▲センター試験発音・アクセント出題語リスト 沢山の先生方にも喜んでいただきました

 私が講演会等で強調している、(1)昨年度の追試(今年の場合には「試作問題」も)、(2)評価委員会の報告書の二つから次年度の問題の内容が予測できる、というのも同じことでしょう。よく「なぜ予想が当たるのですか?」という質問を受けるのですが、ちゃんと立派な根拠があり、「ギャンブラーの誤謬」を実践すればよいのです。来年の新課程「共通テスト」で、(1)NOT問題、(2)推測問題、(3)複数箇所を参照する問題、複数解答の問題、(4)物語文の「いい話」、(5)「事実」と「意見」を問う問題、(6)「つなぎ語」を問う問題、(7)要約問題、タイトル付け問題、などが出題されるであろうという私の予想も、これに基づいています。♥♥♥

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