直井明さん亡くなる

 文芸評論家で海外ミステリ研究の第一人者である直井 明(なおいあきら)さんが、2月2日にインフルエンザ感染症のため、東京都内の病院にて93歳でお亡くなりになりました。合掌。

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▲こんな精緻な研究書は見たことがない!

 直井さんをご存じない人のためにちょっと触れておくと、1931年生まれ。東京都出身。東京外国語大学インド語科卒業後、商社の海外駐在員としてニューヨークなど世界各地で勤務され、アメリカ人推理小説家・エド・マクベイン87分署シリーズを中心に、海外ミステリの研究に取り組みました。エド・マクベインの87分署シリーズについて詳細に研究した『87分署グラフィティ―エド・マクベインの世界』(六興出版)で、1989年に「第42回日本推理作家協会賞(評論部門)」を受賞されました(この本、出版直後に読んで衝撃を受けました。ここまでマクべインを読み込んでおられる人を私は知りません)。マクべインの作品を熟知しておられ、マクベイン本人とも深い交流があり、彼が新作を書く度に「過去の自作についての情報」を、直井さんに尋ねる(!)ほどでした。その他にもマクベインについての研究書や、海外滞在歴の長さを生かしたミステリ研究書が数多くあります。特にマクべインに関しては、全作品を隅々まで読み込んで熟知しておられ、その分析・評論たるや世界的な業績をお持ちです。かつてはマクべインのウェブサイトでも、新しい発見を発表し続けていらっしゃいました。作者本人よりも作品について詳しいというとんでもない人だったのです。

DSCN3532 学生時代に、故・大谷静夫先生三島房夫先生から、ミステリー作家のエド・マクベイン(Ed McBain)の面白さを教えていただき、のめりこんで読み耽りました。マクべインの文体は簡潔そのものですが、アメリカ文化を知らないと何のことかさっぱり分からない箇所がたくさん登場します。山田政美・田中芳文(編)『エド・マクベイン英語表現辞典』(2005年、英語の言語と文化研究会)にはそのような例がたくさん紹介されています。

 私は彼の作品によく出てくる警察のten codesがどうしても分からないので(10-20, 10-34など私の調べた意味と一致しないのです)、直井さんにお尋ねしたら、ご親切にも、わざわざマクべインご本人に確認を取ってくださって、ご教示をいただいたことがあります(⇒ご教示の内容はコチラです)。お世話になりました。エド・マクべインのことに世界一詳しいのは直井さんなんです。そのことは、マクべインのホームページで公表された“The 87th Precint with Akira Naoiに、発表し続けておられた数々のエッセイを読むと実感します。何という緻密な読みだろう、といつもため息が出たものです。2005年に、マクべインは咽頭がんでお亡くなりになり、もう新作は読めないのが残念です。

 直井さんは、晩年にはエド・マクベイン本人とも交流があり、彼の新作執筆にあたって登場人物の過去作品の情報を確認するために、作者本人が直井さんに相談することもあった、というエピソードが残されています。早川書房は、直井さんが『エド・マクベイン読本』の編纂や、ミステリマガジンでの連載コラム「海外ミステリ風土記」、評論連載「ヴィンテージ作家の軌跡」などに寄稿されていたことを紹介し、長年にわたる貢献に感謝の意を表しました。直井さんの著作には、『海外ミステリ見聞録』『本棚のスフィンクス 掟破りのミステリ・エッセイ』『スパイ小説の背景』などがあり、彼の業績は今後も多くの読者に影響を与え続けることでしょう。

 心よりご冥福をお祈りいたします。♠♠♠

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