渡部昇一先生のエピソード(38)~本の読み方

 学生時代に、故・安藤貞雄(あんどうさだお)先生から、日本では手に入らないオランダのイディオムに関する研究書をお借りして読んだことがあります。本を読み進めていると、要所要所に「Yes!」「No!」「?」という書き込みがあり、その理由が簡潔に書き込まれていました。「あ~そうか、本というのはこんな風に読むものなのだな」ということを、お借りした本からまざまざと教えていただきました。以来、私もそんな読み方をずっとしてきました。そのためにも、本というものは図書館で借りるものではなく、自分で買い求めて手元に置かねばならなかったのです。何か疑問点が生じた時に現物が手元にあれば、手っ取り早くあたることができます。また読みながら自分でコメントを本の中に書き込んでいくこともできます。したがって、本は身銭を切って買わなければならないものと考えているのです。そんな訳で、松江に帰ってきて、自宅を新築した時には、大枚をはたいて別注の書庫を作って本の置き場を確保したつもりでしたが、もうその書庫にも収まりきらずに、八幡家では本が溢れ出しています。

 読書において何よりも大事なのは、本を読むことです。読んで著者と知的・情的に交流することです。そしてできれば感動して、自分の人生に潤いや滋養を得たい。このような見地から、渡部先生の薦める読書法は次の通りでした。まず、読みたい本は必ず購入すること。形式として自分のものにしてしまう、これは知的手段を私有財産とするための第一歩です。後は実際に読み込んで、内容を自分の財産にできるかどうかということになるでしょう。そのために一番いいのは、本に直接マークを書き込んでいくことです。第一段階として、読んで感心した(あるいは自分にとって重要だと思った)箇所には、赤線を引きます。次に、もっと感心した箇所には線を引いた上に丸印をつけます。さらに感心したらこの丸印を二重丸にします。圧倒的に感服した場合は三重丸。また、読んでいて疑問を感じたところには、疑問符を書いておくのもいいかも知れません。あるいは、自分が関心を抱いている問題について特に重要だと思うことが出てきたら、本の表紙の裹などの余白に、そのページ数とテーマをメモしておくのも役に立ちます。例えば、森 鷗外に関心のある人が、本を読んでいて、彼についての新しく面白い知識があったならば、表紙の裹の余白に「鷗外○○ページ」などと記しておけばよいでしょう。以上述べたような読書法は、ほとんど手間などかかりません。極端に言うなら、寝転がってでもできるものです。しかも、このようにして印をつけながら読んだ本は、再読・三読の際には、線を引いたり丸印をつけたりした箇所に重点的にアクセスすればいいわけですから、知識の固定や活用には便利なのです。それに、何かの時に「確か、あの本に書いてあったな」ぐらいのことは、さすがに思い出せるものなのです。ただし、ここまでやって読了した本にもかかわらず、後日、記憶の片隅にも全く残っていないようであるならば、「自分の知的財産とはなり得なかったのだ。まあ、仕方あるまい」と、潔くあきらめるしかないでしょう。相性のいい著者のものを読んでいると、非常によく頭に入るし、また気づかされる点も多いのです。この相性というのも、たくさんの本を読みこなしていくうちに、自然と身についていくものです。この三段階渡部式読書法、実に参考になりました。私も若い頃からこうした「読書法」を真似て実践してきました。

 自分の本を買って、重要だと思われる部分に線を引き、メモを記入し、それを自分の蔵書としておけば、何かの機会に「あの本ではどうだったか」と疑問が湧いた時、書棚に行ってページを繰るだけで、自分が考えていたことが生き生きとよみがえってきます。自分自身による、自分自身のための、かけがえのない思考の蓄積になるのである。そのような本を揃えていけば、それは自分にとっての最良の「書庫」となり、その場所が自分にとって最高に居心地の良い「書斎」になります。自分自身の思考の蓄積が、目に見えるかたちですぐ手に届く場所にあることは、便利なことこのうえないし、成果も一望できて気分もよい。自分の関心を中心に据えて書庫を充実させていけば、六畳一間、八畳一間でも十分に威力を発揮するのです。

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▲先生の名言のエッセンスが満載の一冊!!

 渡部昇一先生『渡部昇一一日一言』(致知出版、2016年)の11月24日付には、「読書が人を強くする」と題して次のような言葉が挙げてありました。♥♥♥

 絶えず本を読むことです。人生について書かれたものや、成功談というのは、やはりその人の長い人生での経験がつまっているものですから、それらに接している人はやはり他の人とは違ってくる。それは、立身出世主義だとかあるいはお説教じみているとか、道徳臭いとか何とか、悪口をいう人はいっぱいいる。だけど、心掛けて、そういったものを読み続けた人というのは、やはり何かの時には強いと思います。

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