私は現役の頃、「北高の強みは集団の力」ということを何度も何度も職員会議で発言してきました。個人ではできないことも集団でなら可能になる、という実例を数限りなく見てきました。当時は「受験は団体戦」という言葉をよく聞きましたが、本当にその通りだと実感しています。以前に北高を卒業した生徒が、私に次のような言葉で「共に闘う仲間」の大切さを痛感した、と寄稿してくれたことがあります。
よく「受験は団体戦だ」と言いますが、私は浪人するまであまりピンと来ていませんでした。しかし浪人生の時はクラスメイトと相互添削をしたり、良い参考書を教え合ったり、と互いに切磋琢磨しあい、その言葉の意味がよく分かりました。共に同じ目標を持ち、足を引っ張り合うのではなく、高め合うことのできる仲間は私の宝物です。
一人ひとりの力はそれほどではないけれども、みんなで一つの目標に向かって取り組むと、すごい力を発揮するものだとして、「受験は団体戦だ」という言葉が、以前の北高の教室では飛び交っていたものです。かつて教えていた東大・理Ⅰに合格した生徒(この生徒のお母さんは私が教員1年目に担任した生徒でした)が、「一人では妥協してしまうことでも、みんなで一緒にやるなら頑張りぬける。これが「受験は団体戦」の意味だと思う」と名言を残してくれました。「集団(組織)の力」こそが北高パワーの源泉だということを、先輩の先生方から叩きこまれてきた八幡は、そのことを、生徒諸君・若い先生方にお伝えしておかねば、と奮闘していました。
松江北高では、県総体で男女総合優勝した時だけに、白地にスクールカラーのエンジで「疾風迅雷」(しっぷうじんらい)の横断幕を掲げます(写真上)。通常はその逆で、エンジに白字の「疾風迅雷」です。私が現役の頃の北高は、「文武両道」を掲げ、勉強だけでなく部活動にも全力投球をしていました。県総体が近づいてくると、学校は一週間前から全校を挙げて総体一色に染まります。文化部や部活動のない生徒達は、クラスごとに放課後各部の活動場所に行って、クラスメートを応援する「総体応援激励週間」が始まりました。そして総体本番の2日間では、授業を全部カットして松江市内で展開される大会会場に全校生徒が応援に繰り出します。この時必死に応援してもらった生徒たちは、総体後今度は文化部の活動の応援に回ります。総体が終わると、三年生は切り替えて今度は受験に向けてスタートを切るのでした。
コロナ禍で数年間は全校で応援に出かけることが困難な時期もありました。これは仕方がありません。コロナも落ち着いた二年前に私が頭にきたのは、総体本番当日、「応援に行きたい生徒は行け、学校に残って自習したい者は学校で過ごす」などという、あり得ない中途半端な全校指示が出たことでした。何を考えているのか?そして誰もこれに声を上げる者がいない、ということにも失望したものです。北高の伝統であった「組織の力」はどこへ行ってしまったんでしょう?私は北高の弱体化の兆しが始まりかけていた現役時代に、職員会議で何度も北高の強みは「組織の力」だということを繰り返し申し上げてきました。これがなくなってしまいました。伝統として引き継がれてきた「文武両道」は口先ばかりの学校になってしまいました。総体男女総合優勝を何度も勝ち取り、連覇も成し遂げた学校です。それが、高校入試でも定員割れが続いています。以前は住所を移してでも(以前の松江市は、住んでいる場所で入学する高校が決まっていた)、北高に行って勉強も部活動も両方とも頑張りたいという中学生が多くいた学校です。国公立大学の合格者数日本一を三年連続で成し遂げた学校でもあります(3年目に甲子園出場)。実に淋しいことです。今年の総体当日2日間は、なんと学校自体が休みになったそうです。やりたい者だけがやればいいということなんでしょう。これでは学校が一丸になることも期待できません。14位→12位→5位と今年は成績が良かったと喜んでおられますが、近隣の松江東高、松江南高にも負けており、何を目標にしているのかと問いたい気持ちです。
10年前に定年退職して、よんどころない事情から、常勤講師として復帰して一人でやった仕事が、この総体の全校応援態勢を計画立案する仕事でした。実に緻密さを必要とする骨の折れる仕事です。1週間前の「応援激励週間」の全校体制計画、壮行式の計画、報告集会の計画といろいろなものが含まれています。中でも一番大変だったのは、本番当日二日間の「全校生徒応援」態勢の立案です。これが結構気を遣う大変な労力の要る仕事なんです。まず居残った全校生徒たちに、当日はどこの会場に応援に行きたいか?を第3希望までアンケート調査をして、各応援会場に振り分けます。500人以上の生徒を競技会場のキャパを勘案しながら、上手に振り分けていきます。それぞれの会場の応援場所や駐輪場地図、集合時間、会場で応援する際の注意事項などを詳細に書き入れて、各生徒たちに連絡徹底をします。当日学校に残って引率・点呼をしていただく先生方の配置計画も作成します。点呼名簿を作るだけでも一苦労です。事前に、駐輪場の手配に松江市役所に届けを出しに行ったり、実際にこの目で駐輪場所や応援会場の観覧席を確認に出向いたりして、当日の混乱が起こらないように配慮しました。当日の朝、生徒から学校に欠席連絡が入ると、会場におられる点呼担当の先生に電話連絡をします。点呼に来ていない生徒がいると連絡が入れば、自宅に確認を入れます。困ったのは自宅も出ている、しかし会場には来ていない、という行方不明の生徒が出た場合です。途中で自転車事故に逢っていた生徒もいました。サボる生徒もいます。午後、各会場から「解散点呼無事終了」の電話が入るとホッと胸をなで下ろしたものです。こうやって総体の二日間を無事に乗り切って、私の大仕事が終わったものでした。このように総体を学校全体(組織)で応援する態勢が組まれており、そしてその応援に応えて各部が頑張ってくれました。優勝する種目は少なかったものの、ベスト8、ベスト4を積み上げてダントツの男女総合得点を記録したものです。まさに「集団の力」でした。このパワーは受験に切り替わってからも十分に発揮されたのです。一斉に休みにしてしまえば、こうした面倒くさい仕事もしなくていいから楽チンということなんでしょう。しかしその苦労に見合うものははるかに大きいのだということを決して忘れてはなりません。私に言わせれば、学校が一つになる絶好の機会を自ら放棄しているのです。♥♥♥
楽すれば 楽が邪魔して 楽ならず 楽せぬ楽が はるか楽々



