リーダーの条件

  私はあの「ななつ星」をはじめ、水戸岡鋭治(みとおかえいじ)先生のデザインしたJR九州の数々の観光列車が大好きで、一列車ずつ制覇していっていますが、その仕掛け人が尊敬するJR九州名誉顧問唐池恒二(からいけこうじ)さんでした。愛読する月刊『致知』の2017年9月号は、その唐池さんが表紙を飾り、巻頭インタビューに登場されており、面白く読むことができました。その中で組織のトップとしてリーダーを務めるためには三つの力が必要だとおっしゃっておられました。一つは「夢見る力」、二つ目は「気を満ち溢れさせる力」、三つ目は「伝える力」。この三つがトップとして、リーダーとして、必須の力だと考えておられます。今日はそれを考えます。

 その一。「夢」は展望や理想という言葉にも置き換えられますが、そういう目指すべき姿を明確にしないと組織は発展していきません。唐池さんがいつも例に引かれるのが、ソフトバンクグループ会長兼社長・孫正義(そんまさよし)さんの話です。さんがソフトバンクの前身となる会社を創業したのが、福岡です。1981年のことです。 創業したその日に、若いアルバイト社員二人を前にして、みかん箱の上に乗って、「五年後には百億円、十年後には五百億円、三十年後には一兆円にする」と言ったんです。呆れたバイトの二人は程なくして辞めたそうですが、さんの会社はどうなったかと言うと、三十年後に一兆円どころか三兆円の売り上げ企業になりました。もちろんさんの実行力や経営感覚には、目を見張るものがあります。しかし、それでもまず「夢」を見なければ、「ここに行きたい」と思わなければ、到達するわけがないですよね。まず思うところから全ては始まるのです。「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢無き者に成功なし」(吉田松陰)

 その二。繁昌するお店と繁盛しないお店を分ける一番の要素は、その店に「気」が溢れているかどうかだと気づきました。7年間JRの外食事業に携わった唐池さんは、8億円の赤字を抱えていた外食事業部を3年で黒字化へと導いておられます。そのために実行したことは、月刊『致知』9月最新号(2025年)によれば、①夢見る力、②スピードあるきびきびした動き、③明るく元気な声、④隙を見せない緊張感、⑤貪欲さ、の5つを徹底的に現場に浸透させることでした。「気」というのは、規模の大小、業種の違いに関係なく、どんな組織でも共通するものだと確信しておられます。気を満ち溢れさす五つの法則ですね。

 その三。その夢や自分の考えをいかに社員に伝えるか。これがとても重要です。よく口にされるのが、「伝えても伝わらなければ伝えたとは言わない」です。一方的に書きました。一方的に喋りました。これじゃあ伝えたことにはならないんですね。まずこちらが伝えたいメッセージに関して、相手に興味を持ってもらう。次にそのメッセージの内容を理解してもらう。それだけではダメで、相手に「感動」を与えなければいけないのです。感動とは要するに、行動に移すこと。相手がこちらのメッセージに感動し、行動に移さなければ本当に伝えたとは言えません。企業のコマーシャルもそうですよね。まず「どんな商品だろう?」と興味を持ってもらい、「なるほど、こういう商品なのか」と理解してもらった上で、「この商品はすごいな!」と感動してもらって初めて購入に繋がります。ここまで行けば100点満点です。

 唐池さんによれば、トップリーダーの大事な資質というのは、一、夢見る力 二、気を満ち溢れさせる力 三、伝える力 の三つです。これは言い換えれば人をその気にさせる三つの力であり、あの豪華観光列車「ななつ星」は、この三つの力が全て凝縮されて誕生したものでした。世界一という列車の「夢」に、つくり手の「気」が満ち溢れて、その本気の思いがお客様に「感動」というエネルギーの形で伝わったのです。旅行業界の権威で富裕層を中心に、約300万人の読者を誇る雑誌『コンデナスト・トラベラー』が、毎年行う読者投票のトレイン部門において、2021年から2023年の間、三年連続世界一に選ばれました。

 夢に向かって、気を満ち溢れさせるところから、閃(ひらめ)きも生まれます。閃きというのは何もないところからは絶対に生まれません。そのことについて毎日ずっと考え抜いているうちに、頭の中にアイデアの鉱脈のようなものができ、それが何かの拍子にポッと外に出てくるんです。唐池さんはこれまで数々のD&S列車を手掛けてこられ、素晴らしい特急列車の名前を次々と考案してこられました(「ななつ星」「ゆふいんの森」「あそボーイ」「いさぶろうしんぺい」「指宿の玉手箱」「或る列車」等々)。いいネーミングもパッと思いつくわけではないと言います。何度も現地を訪れ、現地の人の話に耳を傾け、現地の歴史や文化を詳しく調べ、その地域のことを徹底的に勉強し、とことん考え抜き、そしてまた勉強し……。そうやって大変な時間と労力を懸けて初めて、ネーミングの神様が降りてくるというのが、体験を通じて得た実感でした。これからも経営者として、今お客様が何を求めているかを一所懸命勉強し、悩み、考え抜き、次々に閃いていけるよう努めていきたいと結んでおられました。♥♥♥

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