イタリアカラカサマツ?

 やれコミュニケーション活動だ、ICT教育だ、探求的学習だ、という昨今の英語教育の流れで、いわゆる「訳読」方式の授業を、「化石だ」「前時代的だ」「日本語を介さずに英語を理解させないとダメだ」などと言って、さんざんコケにする時代です。それなりに何となく言っていることが分かればそれでよい、速く読むことが大切だ、というのが昨今流行の教育です。私は日々の授業で、生徒達に英文の意味をしっかりと述べてもらいます。一応日本語にはなっていて、単語レベルでは合っている、文法も分かっている、でもその英文が言わんとする意味は全くチンプンカンプンということがしょっちゅうあります。「それを自分の言葉でどういうことか説明してごらん」と尋ねても、どんな意味なのかをさっぱり説明できません。「何を言っているか分からない」のです。ここでは自分が訳したものをもう一度じっくり読み直して、疑問点ははないのか?、改めてそれがどんな意味なのかを考えて、自分が納得する、というプロセスを経て初めて理解ができるのです。「訳せる」のに「意味が説明できない」のは、結局「意味が分かっていない」ということなのですね。私は毎日の授業で、「キチンと読む」ことを大切にして、ブレることなく長年英語教育に携わってきました。大学に合格することが目標ではなく、英語の力をつけるために汗をかいてきました。その意味で、最近増補改訂版が出た、山本史郎・森田修『英語力を鍛えたいなら、あえて訳す!』(アスク、2024年10月)を読んで意を強くしました。

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 辞書さえ引けば何とか意味ぐらいは分かる、「学校英文法の基礎知識」+「英和辞典」さえあれば、「英語の意味」を正しく理解できるかというと、決してそんな甘い世界ではありません。言語や文化の壁が存在するのです。「訳すことはできる」のに「意味を説明できない」という生徒を私は毎日見ていますが、これってつまり、「意味が分かっていない」ということなのですよね。Asahi Weekly(朝日新聞)に隔週で連載されている、山本史郎先生(東京大学名誉教授)「英文読解それってどんな意味?」を愛読していますが、そのような例がふんだんに出てきて実に勉強になります。

 お盆明けの今日の授業は、京都大学1995年の入試問題からです。ポンペイのベスヴィオ火山の大噴火を描写した部分です。

Pliny the Younger (whose uncle, Pliny the Elder, was nearby and was among those killed) vividly described the eruption: it looked like *an Italian umbrella pine ― a tall “trunk” spreading out at the top to a dense cloud shot with flashes of lightning. (訳文:小プリニウスは鮮明にその噴火を描写した(その叔父の大プリニウスはそばにいて犠牲者の一人となった)。噴煙はイタリアカラカサマツのように見えた。-その背の高い『幹』がその頂上のところで稲妻のせん光を放つ厚い雲に向かって広がった。)

一応これで生徒の訳文は成立です。でも何を言っているのかさっぱりわかりません。授業の中でダッシュ(――)は前の文の説明をしている(「すなわち」)ことを、何度も経験していますから、「イタリアカラカサマツのように見えた。」の説明が「その背の高い『幹』がその頂上のところで稲妻のせん光を放つ厚い雲に向かって広がった。」ということになります。そうすると、この部分を理解しようと思ったら、「イタリアカラカサマツ」がどのような木なのかを知らなければ納得することはできないでしょう。今はインターネット上でこれがどのような木なのかを容易に調べることができます。この英文は、火山の噴煙を「イタリアカラカサマツ(Italian umbrella pine)」にたとえて描写しているのです(写真上)。 和訳してみましょう:それはまるでイタリアカラカサマツのように見えた ― 背の高い「幹」が上の方で広がっていて、濃い雲のような部分に稲妻の閃光が走っているようだった。

 「イタリアカラカサマツ」は、英語で「Italian umbrella pine」または「stone pine」と呼ばれる木で、学名はPinus pinea。地中海地域原産で、特にイタリアやスペインに多く見られます。特徴としては、(1)まっすぐで高い幹(trunk)、(2)てっぺんで傘のように横に広がる枝葉(canopy)、(3)上から見ると「傘(umbrella)」のようです。遠くから見ると、下の方には枝がなくて、上の方にだけ「もこもこ」とした部分があるのが特徴です。

  “a tall ‘trunk’ spreading out at the top to a dense cloud shot with flashes of lightning”

この描写は、たとえば次のような場面を想像させます:空に高く伸びた何か(噴煙)があり、それが頂上付近で横に広がり、まるでイタリアカラカサマツのように「幹と傘状の枝葉」に見える。そして、その「広がった上部(dense cloud)」の中には「稲妻(flashes of lightning)」が走っている。つまり、この表現は、何かの形状や現象(爆発の煙)を、イタリアカラカサマツの形にたとえているのです。

幹(trunk)=柱状の何か=噴煙  ※比喩で“木の幹”と引用符でくくっている

広がった上部(dense cloud)=雲のように見える噴煙

稲妻(flashes of lightning)=光の走る様子=幹から派生した小枝

この文は、「空に高く伸びて上で広がる形状」を「イタリアカラカサマツ」にたとえているのです。さらに、その「広がった部分」が「雲のようで、雷の光が走っている」様子を描写しています。イタリアカラカサマツの実物を知っていれば、その「幹と広がった傘状の樹冠」のイメージが、空の現象(火山爆発)と重ねられていることが理解しやすくなります。火山の噴射物が空に舞い上がり、真っ黒な雲と結びつき、稲妻の閃光のようだと言っているのです。もっと詳しくイメージしたい場合は、ネット上にある写真を見ながらその形と文の比喩を見比べると一層わかりやすいですよ。勝田ケ丘志学館の生徒が、いろいろと考えて、下のようなイラストをホワイトボードに描いてこの英文を説明してくれました。これでみんな納得です。英語が読めるというのは、こういうことを含んでいるのです(明日へと続く)。♥♥♥

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