日本のコンビニ業界は、セブンイレブン・ジャパンが1974年に国内1号店を開業したのを皮切りに、1975年にローソン、1978年にファミリーマートが出店したのが始まりです。現在大手の国内店舗数は計5万5千店を超え、昨年の市場規模は百貨店業界の2倍以上の11兆円。中でもセブンイレブンは、小売業で世界一の店舗数(国内外8万店超)なんです。昨年は国内で本格的なコンビニが誕生して50年になります。大半が24時間営業で、品揃えは豊富だし、私たちの日常生活には欠かすことのできない存在となっていますね。吉岡秀子『セブン-イレブンは日本をどう変えたのか』(双葉社、2016年)を読んで、その源泉を見た思いがしました。
セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文(すずきとしふみ)さんは、セブン-イレブンでさまざまな試みを成功させ、「小売の神様」と評されてきました。私は鈴木さんが実権を握っておられる時分からずっとセブン-イレブンを追いかけてきました(解任騒動が起こった時には実にショックでした)。鈴木さんの著書もずいぶん読んでいます。そこにはどんな経営哲学があるのか?なぜ他社を圧倒する実績を残せるのか?についていろいろと考えてきました。鈴木さんは「私はいつも『お客様のために考えるのではなく、お客様の立場で考えろ』と言ってきた」と言っておられました。コンビニエンスストアを始めたときも、最初は周囲に大反対されました。「すでにたくさんの小売店や商店が潰れていっているじゃないか」って。「こんな状況で小さな店をつくって、それが拡大していくなんてことはあり得ない」。業界の人たちは、みんなそう考えて反対しましたね。
セブン-イレブンは、アメリカから持ち込んだものと思っている人が多いようです。もちろん、それが間違っているわけではなくて、鈴木さんがアメリカを訪れた時にセブン-イレブンを見たのが始まりです。ただ、アメリカからノウハウを持ち込んだということではありません。アメリカのセブン-イレブンと日本のセブン-イレブンとでは、本質的に全然違うものなんです。アメリカのセブン-イレブンを最初に見たとき、これはいわゆる「便利店」なんだなと鈴木さんは思いました。ただ、サービスも商品も非常に限られていました。24時間やっている便利店だけれど、並べられている商品の質やラインナップはとても十分とは言えませんでした。便利店と言いながら、全然便利じゃなかったということですね。だったら、日本のセブン-イレブンでは、いろいろな商品を扱えばいいじゃないかと考えました。アメリカでセブン-イレブンを展開するサウスランド社(現・セブン‐イレブン・インク)とライセンス契約をしますが、実際の経営ノウハウはあまり参考になりませんでした。あとは全部、鈴木さんが日本的発想で思い付くことをやってきたのです。2005年には、日本がセブン-イレブン・インクを完全子会社化しています。今ではアメリカのセブン-イレブンが、日本のセブン-イレブンの仕組みをいろいろと学んだり、協力したりしています。
スタートしてからも、周りからは反対だらけでした。例えば、おにぎりを初めて売り出した時も、みんな最初は賛成してくれませんでした。「鈴木さん、おにぎりは家庭で作るものだから、売れませんよ」と言われました。社内でもそういう声がものすごく多く聞かれました。「家庭で作るから安心して食べられるんだ」「誰がにぎったか分からないものなんて、食べられない」と言うわけです。だけど私は、「いや、そんなことはない」と言い続けました。買い物は毎日のことです。昼間の時間帯だけにしかできないのはとても不便。だったら、家の近くで、24時間いつでも買えるようにすれば便利じゃないか。おにぎりは昔から日本にあって、みんなが食べているものです。今日も明日も、日本中どこでも食べられている。だったら、それを家庭で作るものだって決め付けることのほうがおかしいのだ、いつでもどこでも買える状態にしたら、逆にとても便利なんじゃないか。便利なものであれば、あったほうがいい。だったら、それを実現するにはどうしたらいいか?ずっとそういう考え方をしてきたのが鈴木さんでした。「お客さんの立場で考える」ということです。あるいは、我々が作るものも、ただ便利であればいいというものでもない、と鈴木さんは言い切ります。例えば、最近コンビニに「自動レジ」が導入され始めています。もっと進んで、商品にICチップが付いて、店の外に出るだけで自動的に会計がされる「無人コンビニ」なんていうのも開発が進んでいます。ある意味では非常に便利ですけれど、本当に普及させるべきものかと言われれば、そうではないと言い切ります。セブン-イレブンでは、基本的にはこれまで通り対面で、会計だけをセルフでするレジを導入しています。より省力化した店舗も考えていますが、それも「無人コンビニ」ではなく必ず店員が常駐する形を考えています。やはりみんな「人と接したい」という本能があり、新しい商品のことなどについて、店員に聞きたいということもある。それをなぜ遮断しなくてはいけないのか。そこにある種の不便さを感じるのが鈴木さんなのです。正解です。「お客様のために」では、お客様が何を感じているのかは分かりません。「お客様の立場」というのは、「お客様がどう感じるか」を考えるということです。その姿勢でしか見えてこないものがある、お客様の立場に立ちながら自分で発想するということを、忘れてはいけないのです。ここら辺が他のコンビニとは違うセブン-イレブンの哲学なんですね。では大手コンビニの現在の概要を見てみましょう。
■コンビニ大手3社の概要
セブンイレブン ファミリーマート ローソン
チェーン店全売り上げ 5兆3452億円 3兆692億円 2兆4162億円
(2024年2月期)
1店舗当たりの1日 69万1000円 56万1000円 55万6000円
の売り上げ
国内店舗数(9月末) 2万1615店 1万6268店 1万4627店
(「産経新聞」調べ)
セブン-イレブンの一人勝ちですね。かつて松江市にはセブン-イレブンの店舗はまだありませんでした。松江市に第1号店がオープンした時にはとんでもない規模の大行列ができたものです。しばらくして、私の自宅の近所にもセブン-イレブンのお店ができてとても便利になりました。スポーツ新聞や冷凍食材を買いにほぼ毎日のように立ち寄っています。コンビニなんてどこも同じと思っている人は多いでしょう。確かに品揃えや配置などに大差があるようには見えません。それでもやはりコンビニの中では、セブン-イレブンが一番だと私は思っています。それには幾つかの理由があります。
1.美味しい商品が多い
セブン-イレブンの利用者達の声・意見で多いものが、「セブンイレブンはPB(プライベート・ブランドのこと)の食べ物が美味しい・高品質」というものです。セブン-イレブンはPB商品の開発に特に力を注ぐタイプのコンビニであることで知られていて、PBの食品は普通の食品よりも値段がやや高くなりますが、そのぶん美味しさ・品質には定評があります。セブン-イレブンでは、「セブンプレミアム」「セブンゴールド」という独自ブランドを立ち上げ、そのブランドの特徴に合わせたオリジナル商品の開発と販売を続けています。セブン-イレブンの人気PB商品の「金シリーズ」は特に美味しいですよね。味で他のコンビニを寄せ付けないとところが、人気の秘密なんです。
2.手軽さの中に「上質さ」を含める、という独自路線
一般的なコンビニのイメージと言えば「安くて、手軽」というものですが、セブン-イレブンは「上質で、手軽」という路線を選択しました。手軽さ・安さを追求し続けると、安くなる代わりに商品の品質は落ち続け、さらに同業他社との値下げ競争が続くことで、業界全体が疲弊してしまいます。一方、高級さ・高さを追求し続けると、それはコンビニ本来の意義からどんどん離れていってしまうので、上手く行きません。セブン-イレブンは、商品やサービスの品質・鮮度などに注力することで「手軽なのに、上質」「上質さの中に、値段や買いやすさという手軽さが込められている」といった独自の商業展開をしているのです。
3.店員への教育が行き届いている
セブン-イレブンへ入店すると、「よく磨かれた床」「商品の陳列がしっかりしている」「店員の接客態度が懇切丁寧」など、店の質の高さを実感できます。セブン-イレブンでは、各店舗に以下のような4つの「接客ルール」の基本原則を守らせています。
1. 品揃え(お客様の欲しい商品をそろえる)
2.鮮度管理(常に新鮮な商品をそろえる)
3.クリンリネス(清潔で気持ちのいいお店にする)
4.フレンドリーサービス (感じの良い接客をする)
セブン-イレブンでは、それぞれの加盟店に指導員「OFC(オペレーションフィールドカウンセラー)」が付き、経営指導・接客指導を行い、セブン-イレブンが長年の経営で蓄えてきた各種ノウハウが、各店舗へ迅速に伝播していきます。そのおかげで、どのセブン-イレブンの店舗も、接客や店内環境のクオリティーが高く保たれているのです。セブン-イレブンでは週に一回本社でスーパーバイザー会議を行っています。何十年も毎週一回全国からスーパーバイザーが集まって会議を開いています。たかが週に一回、されど週に一回。それをやり続けるというのはよほど意識が高くなければできることではありません。お客様のため、社会のため、という高い意識を持って努力を積み重ねた重みでしょう。
セブン-イレブンが提供している、好評のサービスの一つに「セブンカフェ」がありますね。「セブンカフェ」とは、「おいしく飲みやすい本格派コーヒー」がコンセプトになっている、セルフ式のドリップコーヒーが飲めるサービスです。レギュラーサイズで120円と手頃な値段で、使用する豆は各国の最高グレードのコーヒー豆に限定し、上質のコーヒーを楽しむことができます。喫茶店で提供される本格コーヒーに勝るとも劣らない味のコーヒーなので、高い人気がありますね。他のコンビニのコーヒーとはやはりひと味違います。⇒私の「セブンカフェ」の解説はコチラをお読み下さい 最近では最高級のブルーマウンテンブレンドも250円で飲むことができます。信じるべきは自分の基準であって、自分が美味しいと思わないなら、売ってはいけない。そして、その基準がお客様と同じでなければいけない。だからこそ、お客様の立場で考える。ここだけは、絶対に外してはいけない、と考えるのがセブン-イレブンの哲学なのです。ここら辺が他のコンビニとの差別化です。

▲私の家の近所のセブンイレブン 便利!
セブン-イレブンの1店舗当たりの1日あたりの平均売上額は、他のコンビニチェーンと比べて、約15万円高くなっています(2020年度決算の比較)。隣に他店が並んでいたとしても、売り上げが全然違います。この差は先ほど述べた理由で、そう簡単には縮まらないと感じています。しかし、人口減少によるお店の人手不足や需要の先細りは、どこのコンビニも避けることのできない課題となっています。店の数も飽和状態になり、不採算な店の整理が進んでおり、前年同月比のマイナスが2年以上続いています。セブン&アイ・ホールディングス(HD)への買収の動きも、業界再編へのきっかけになる可能性も取り沙汰されています。そんな中で、セブン-イレブンはスーパーの要素を融合させた生鮮コーナー、ファミリーマートでは店内の電子看板やアプリを通じて多彩な情報を配信し、広告収入の強化を図り、ローソンは、新規出店数の約2割を山間部などの過疎地とし、人工知能(AI)や通信技術を使い、商品を手に取り店を出るだけで買い物を決済できる無人店舗を開設するなど、次世代店舗の構築がどんどん進んでいます。♥♥♥
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