一青窈~サウンドスペースS

 BS-TBSの歌番組「Sound Space S」で、久しぶりに台湾生まれの実力派女性シンガー・一青 窈(ひととよう)さんのライブを堪能しました。深い表現力で名曲、セルフカバー、最新曲を一夜限りのアレンジでセッションする番組でした。彼女の生の歌声、一流のアレンジャーやミュージシャンの方々による生の音が創り出す演奏は迫力がありましたね。デビューから20年以上積み重ねてきた道のりと、歌い続けることへの誇りが溢れ出た特別のひとときでした。かつて1974年4月から1981年3月までTBS系列で放送されていたこの番組は、当時の歌謡曲のみならず、ジャズ、ソウル、アメリカンポップスなどを独自のアレンジで取り上げ、その音楽性の高さから人気を博した本格的な歌番組でした。惜しまれながら終了した34年後の2015年、BS-TBSの番組として復活を遂げて、「時を超えた、ここでしか聴くことのできない上質なサウンド」のコンセプトのもと、一流の歌い手、アレンジャー、ミュージシャンが一同に会し、世代やジャンルを超えて心に響く音楽を届けています。ここでしか聴くことのできないリハーサルの様子がドキュメンタリーとして描かれるのも、この番組の大きな魅力でもあります。普段は見ることのできない「音づくり」の現場です。

 2002年に「もらい泣き」で鮮烈なデビューを飾り、日本レコード大賞「最優秀新人賞」をはじめ数々の新人賞を総なめにしたアーティスト・一青 窈さん。サビの出だし「ええいああ~」は、一度聴いたら一生忘れられないほど染みてくる楽曲でした。伸びやかでありながら心の奥深くに染み入る独特の歌声は、デビュー当初から多くの人々の心をとらえてきました。「もらい泣き」でのデビューから23年、「平成で一番歌われた曲第1位」(第一興商カラオケ「DAM」集計)に輝いた名曲「ハナミズキ」(2004年)を始め、聴き手の心に深く浸透する歌を歌い、届け続けている一青 窈さんが、9月28日(日)放送のライヴ番組「Sound Inn S」に登場。作詞:一青窈、作曲:マシコタツロウ、編曲:武部聡志という「ハナミズキ」を作り上げたチームが集結したことでも話題の最新曲「アレキサンドライト」(7月12日発売)を含む、今届けたい3曲を3人のアレンジャーが紡いだ一夜限りのアレンジで披露しました。手練れのミュージシャンが揃った大編成のスーパーバンドと一青 窈さんのセッションは、今回の収録でしか聴くことのできない名アレンジでした。

 1曲目は彼女を国民的シンガーへと押し上げた代表曲「ハナミズキ」。この曲は2001年9月11日のアメリカの同時多発テロの際に、ちょうどアメリカにいた友達からメールが送られてきたのをきっかけに20分くらい、ひたすら世界の平和を願って書いた歌詞です。内容は一見恋愛の歌のように見えますが、「平和への願い」ソングです。この“カラオケで平成に一番歌われた曲”を、この日は名匠・船山基紀さんがアレンジ。船山さんは「歌詞が本当に素晴らしくて、アレンジを考える前に詞の世界にすごく入り込んで、うるうるしながらアレンジしました」と語っているように、船山さんの溢れる思いがアレンジに昇華され、ストリングス、ホルンが木管の温かい音色を加え、幾重にも重なり、美しいメロディと平和への祈りを込めた一青さんの歌声を包み込み、スタジオに感動が広がっていきます。この曲を何百回と歌っている一青さんはどんなシーンで歌っても、ある強い思いが自分の中に現れるといいます。「毎回やっぱり泣きたい気持ちになるんです。ピアノ1本で歌ったり、アカペラで友達と歌うときもあるし、こうやって船山先生にアレンジしていただいたり、どんなスタイルの時でも、私は自分がまるで小さな孤島にいて、その前に大きな海原が広がっていて、そこでみんなの幸せを祈り、叫んでいる…そんなすごく尊い気持ちになるんです」と語り、ミュージシャンを始めスタジオにいる全ての人、そしてカメラの前のリスナーの幸せを祈りながら、優しくも力強い歌を披露しました。彼女の内側から湧き出るハッピーなオーラに、繊細で柔らかく透明な歌声が、壮大で温かい楽器の音色に調和して、思わず息を呑む演奏でした。靴を履かずに裸足で歌い上げる姿も懐かしかったです。

 2曲目は「骨」(2023年)をセルフカバー。アレンジは笹路正徳さん。この曲は一青さんのプロデューサーでもある武部聡志がプロデュースを手掛けるシンガー・堀優衣のために、一青さんが作詞を、ゴスペラーズ北山陽一さんが作曲を手掛けた作品です。「北山さんは大学の先輩で、当時私が書く詞を気に入っていただけて、『俺が曲をつける』と言ってくださったことがきっかけで、本格的に作詞を始めました」という恩人とのタッグが実現しました。大切な人のことを思うこの曲を、最初はピアノとアコギで滔々と歌い、途中からストリングス、バンドサウンドが加わりドラマティックな音像になっていきます。このアレンジについて笹路さんは「この曲に関しても自分なりに解釈すると、日常の中にちょっとギザギザ感があるといいなと思いました。そこはかとなく、ちょっと捻じれたような、そんな感じを目指しました」と説明すると、一青さんは「そのギザギザ感が色気を知った感じになる」と絶賛。年月を経て一層深みを増した歌唱力で、自身の原点に立ち返るようなステージを繰り広げ、豊かな表現力の歌の世界に引き込まれます。「気持ち的にはちあきなおみさんの気持ちなんですよ。こういう物語がある時は芝居をしながら歌う感覚で、この曲は特にその要素が強いので、ライヴで歌う時もちょっと動きが派手になるんです。この番組は自由に動き回って歌っても許してくれるので(笑)、気持ちよく歌えました」と、笑顔で語りました。

 ラストは最新曲の「アレキサンドライト」を、大嵜慶子さんのアレンジで披露しました。この曲は「大きな決断をしたママ友に向けて、彼女が強く生きていけるような詞をプレゼントしたいと思って書きました。これから先、何が待ち受けているかわからない、アレキサンドライトのように光によって色が変わるかもしれないけど、本来のあなたが持っている輝きを思い出して欲しいという思いを込めました」と語っているように、自分よりも誰かを大切にして生きてきた全ての女性に贈る応援ソングです。

 実は、一青さんと大嵜さんはこの日が25年ぶりの再会でした。大学生時代に、大嵜さんのバンドに一青さんがボーカルとして参加した懐かしい思い出があるそうです。ギャルのような当時の写真も紹介されました。この日偶然に再会した大嵜さんと会話をしていく中で、忘れていた記憶がどんどん蘇っていき、当時の自分のあの頃の想いと歌詞とがリンクし、歌合わせのリハーサルでは、一青さんが思わず涙ぐんでしまい歌に詰まるシーンも放映されました。「当時、母を亡くした中で孤独な気持ちを抱え大学受験に臨んで、何のために大学生になるかもわからず、歌手になりたかったけどなれるかもわからず、不安の中をさまよっていて、そんな時音楽が支えになった。でも今はこんなにたくさんの人に囲まれて、幸せな音に包まれているんだなって。色々な記憶が蘇ってきて涙が出てきました」と、思わぬ再会に音楽が記憶を繋ぎました。大嵜さんのアレンジは温かさと素朴さが際立ち、前半はシンプルに、後半は力強さを感じさせてくれ、声とメロディに様々な角度から光を当てているようでした。今回のアレンジについて、大嵜さんは「新曲なので、原曲の込められた思いやサウンドに込められた思いはそのまま踏襲しつつ、でも後半に向けてぐわーっと大きい波が作れるように、前半は極力引き算して弦とギターだけ、徐々にバンド一人ひとりが加わっていくっていうようなイメージでアレンジしました。エッセンスとしてティン・ホイッスルとフルートを入れさせていただきました」と、愛情あふれるアレンジを作り上げました。一青さんは「とっても素敵なアレンジで、自分で歌いながら、こんな風に自分個人の人生を投影して何かを歌えるとは思わなかったので、そこも発見でした」と貴重なセッションになったようです。そして「こんなに長い時間を経ても、すぐにあの頃に戻れたり、また未来の希望のようなものをつかみに行けたり、本当に不思議。音楽って時間も泳げるというか、時を経て、何か不思議な縁を感じることができ感謝です」といかにも感慨深い様子でした。共にひたすら夢を追いかけた二人の歩みが、このステージで音楽として実を結びました。全てのセッションを終えた一青さんは、「夢のまた夢じゃなくて、夢に次ぐ夢が音楽には起こる。そんな番組で歌えることができて、私はほんとうにめちゃくちゃに幸せだっ♥」と、改めて音楽の素晴らしさを感じていました。

 この一青 窈さんのパフォーマンスが楽しめる音楽番組「Sound Inn S」は、TVer(ティーバ)で9月29日(月)~10月19日(日)17:59の期間、未公開部分を追加した特別バージョンが見逃し配信されています。⇒コチラでもう一度見ることができます。ぜひご覧ください。私はつい最近『理念と経営』10月号(コスモ教育出版)という雑誌を読んでいたら、この一青さんの知られざる「慈善活動」のことを初めて知りました。これについてはあらためて詳しく取り上げたいと思います。♥♥♥

▲一青さんのインタビュー記事が!!

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