渡部昇一先生のエピソード(42)~できない理由を探さない

 尊敬する故・渡部昇一先生が、小学校6年生の時の担任の先生の教えで、その後ずーっと守ろうとひたすら懸命に努力されてきたことがあります。それは、「できない理由を探すな!」ということでした。何か「これは!」と思うものをやろうとする時、人は必ず二つの壁にぶち当たります。それは、自分の「能力の壁」「環境の壁」の二つです。「能力の壁」とは、自分自身の問題、いわば「内なる壁」と、言ってもいいでしょう。これは自分の努力次第でどうにでもなる場合もあるだろうし、ならない場合もあります。「環境の壁」とは、自分の置かれている状況が、その目標に向かって進むことを阻んでいるということです。金銭的な問題や、両親が反対しているといったケースが考えられるでしょう。「内なる壁」に対比させるなら、これは「外なる壁」と言えるかもしれません。さて、こうした壁にぶつかり、それがちょっとした努力では乗り越えられそうもない時、人はたちまち無条件降伏してしまいがちです。まさに「できない理由」を探し始めるのは、こういう時なのです。その熱心さたるや驚くべきものがあります。むしろその情熱をやりたいことにひたすら注げば、「内なる壁」「外なる壁」もたちまち崩れ去ることもあると思うのですが、壁にぶつかっていくことを恐れ、失敗を恐れるがゆえに、人は挑戦することをやめてしまうのです。

 例えば、専門分野を本格的に勉強するために、外国の大学に留学したいと思ったとします。当然、さまざまな心配・不安・苦労を強いられることでしょう。慣れない異国での生活、金銭面の問題、言葉の問題、勉強の辛さ、対人関係等々。しかし、そこでさまざまな悪条件をあげつらって、やはり無理だと諦めてしまっては、結局何も得ずに終わってしまいます。そこで、もろもろの悪条件を乗り切ることは、ただ平凡に国内で勉強を続けるよりもはるかに自分のためになるし、その辛い経験は、結局は自分の血肉となるのだ、とこう考えるべきなのです。物事を簡単に諦めるという傾向は、最近の若い人によく見られることです。それは、一つのことに真剣に取り組んだことがないために、臆病になっているだけなのではないでしょうか。「できない理由」など、探し始めたらそれこそきりがありません。そんなことを言っていたら、何一つできなくなってしまいます。ならば、「できない理由」、すなわち諦める口実を探すより、「やれることに着手せよ」「やれない理由など探してはならないのだ。どこかで決然と、断乎として始める」と、渡部先生は強く主張されておられました。できない理由を探すから、不可能に思えるのです。できる理由を探していけば、不可能を可能にする方法が必ず見えてくるのです。

 私は学生時代に、渡部昇一先生の『知的生活の方法』(講談社現代新書)に魅せられて以来の大ファンで、この本は私の生き方を大きく変えた一冊と言えます。今でも、生徒たちにこの本を勧めているんです。渡部先生が、人生で一番大切なことを一つだけ挙げよ、と求められた時に、いつも口にされたのが、「できない理由を探すな!」でした。どんなに困難なことであっても、努力を絶やさずに頑張っている人には、不思議なことに、天の一角から「助けのロープ」が降りてくるのです。私もそんな体験を今まで何度も経験してきました。これは至言です。

 鉄砲撃ちの名人に、電線の上と地面にいる鳥とどちらが簡単に撃ち落とせるか?と聞いてみる。一見、地面にいる鳥のほうが撃つのはたやすそうである。しかし彼は、電線の上にいる鳥も地面にいる鳥も、撃つには同じくらいの労力と技量が要るというのである。難しさとしては大差なく、むしろ電線の上にいる鳥を撃つほうがかえって楽かもしれないということである。ならば、目標は高く掲げたほうが良い、ということになる。

 私のような素人考えで見れば、地面にいる鳥を撃つほうがいかにも簡単そうですが、専門家から見れば、実際に要する集中力と技量は同じということです。これは素晴らしい教訓を含んでいる話だと思います。つまり、一見難しそうに見える目標でも、そこへ到達するのに必要な努力は、一見易しそうな目標とさして変わらないということです。逆に言うならば、一見たやすそうな目標も、難しそうな目標を達するくらいの努力が必要だ、ということです。目標が高かろうが、低かろうが、必要な努力は同じということなのです。ならば…。そんな訳で、「できない理由を探さずに、目標を高く掲げて、努力せよ!!」と、毎日生徒たちには口を酸っぱくして話しています。

 “寝食を忘れる”という言葉がある。大きな事をなしとげるにはそのくらいの覚悟がなくてはならないということだ。終了時間ばかり気にしている人には大きな仕事はなしえない。これは確かに“若い人たちの一番覚えておくべき”ことに違いない。(渡部昇一)

 どんな逆境にあっても決して天を怨まず人を咎めず、自分を信じて心穏やかに道を楽しむ。これは天命だと受け入れることが大事なのである。すると、霧が晴れるように視界が開けてくるものである。(渡部昇一)

 私にはここで思い出す話があります。「小枝にしばられたゾウ」のお話です。

 サーカスで使われるゾウがまだ小さな子供の頃、足には細いロープがつけられ、地面に刺さった小さな杭に結ばれていました。幼いゾウは何度も逃げ出そうとしましたが、その力ではロープを引きちぎることができませんでした。やがてゾウは「自分には無理だ」と諦め、挑戦をやめてしまいます。時が経ち、ゾウは大人になり、その力はかつての何倍にもなりました。しかし、大人になった今でも、ゾウは小さな杭と細いロープに縛られたまま動こうとしません。なぜなら、子供の頃に学んだ「自分にはできない」という思い込みが、今でも彼の行動を支配しているからです。

 この話が伝えている教訓はとてもシンプルです。過去の失敗や経験が、現在の自分を縛りつけている可能性があるということです。かつての状況では「できなかった」ことが、今のあなたにはできるかもしれないのに、その思い込みによって行動を制限してしまっているのです。ビジネスや家庭の生活場面でも同じことが言えるでしょう。「自分には無理だ」と決めつけてしまう前に、「本当にそうなのか?」と問い直してみてください。実際に無理なのは、細いロープではなく、あなたの心が作り出した見えない「ロープ」かもしれません。「どうせできない」と思ってしまう瞬間は誰にでもありますが、その背後には過去の経験や思い込みが潜んでいます。「小枝にしばられたゾウ」の話が教えてくれるように、私たちを縛っているのは、実はその細いロープではなく、心の中の見えない枷です。まずはそれに気がつき、小さな行動から挑戦してみることが大切です。そうすれば、あなたの可能性は無限大に広がるはずです。まず「自分にできる」と信じることです。例えば、新しいプロジェクトに挑戦する際、たとえ失敗した経験があったとしても、それは過去の自分です。今の自分は、努力を重ね、成長し、多くの経験を積んできたことを思い出しましょう。

① 過去の思い込みに気づく

 自分が「無理だ」と感じていることを全部書き出してみます。次に、それがどのような過去の経験に基づいているのかを振り返り、今の状況と本当に同じかどうかを考えます。過去との違いに気がつくことで、「思い込み」を手放すことができるでしょう。

② 小さな挑戦を始める

 過去の失敗に基づいた思い込みを打破するために、小さな挑戦から始めてみましょう。どんな小さな挑戦でも、まず第一歩を踏み出すことが大切です。小さな成功体験を積むことで自信を育てましょう。

③「できる」と信じる

 自分が変わったこと、成長したことを意識し、「自分にはできる」と肯定的に捉える習慣を持つことが大切です。特に、過去の思い込みが顔を出したときは、意識的に「今の自分は違う」と思い直すことが重要です。

④できることから断固としてやる

 自分にできる身近なことからやり始めることが大切です。

 この本の著者がこんなことを言っています。♥♥♥

僕はかつて、平凡な人生に縛りつけられ、そこから抜け出せないかのように感じていました…。まるで自分を向上させる力などどこにもないかのように…。しかし、今では、その力が自分に備わっていること、すべてのひとにその力が備わっていることを知っています。誰でもしようと思えば何でもできるし、どこでも行けるし、なりたい自分になることができるのです。人間の可能性は無限にあり、人はそれぞれ、困難な状況を打開して未知の世界を創造する能力を与えられています。僕たちはその力を自覚し、それを活かす努力をすればよいのです」

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