Blue Wall of Silence

 刑事物のドラマを見ていると、警察組織内部の隠蔽体質に立ち向かう刑事の奮闘ぶりを描くシーンがよく出てきます。今日はこれを表す英語表現を取り上げます。

 「Blue Wall of Silence」(ブルー・ウォール・オブ・サイレンス)とは、主に警察組織に関して使われる表現で、警察官同士が不正・違法行為・不適切な行動を見ても、仲間を守るために外部に告発せず、調査で尋ねられても「知らない」と偽証して沈黙を守る慣行・文化を指して使われます。アメリカのドラマや映画あるいはニュース番組で警察の不祥事が扱われる際、必ずと言っていいほど登場する重要なキーワード表現です。英語では、“Strict secretiveness maintained by members of a police force with respect to information which might be contrary to their interests”(仲間の不正に関する情報を秘匿する警察内部の秘密主義)ということです。仲間の非行に沈黙し、かばい合う体質を意味します。警察文化に根ざした非公式な表現で、社会学・犯罪学の文献や報道で頻出します。語の成り立ちとしては、Blueは多くの警察官が着用する制服の色(→警察組織)で、青は警察を象徴する色として広く認識されています。Wallは外部からの調査や批判を遮断する「壁」、Silenceは沈黙・隠蔽の意味。直訳すると「沈黙の青い壁」。 実質的には「警察内部の口止め文化/不正隠蔽体質」というニュアンスです。blue wall of silence (沈黙の壁)は「警察内部で不正を守るために築かれる沈黙の壁」という意味で、問題行為・不正を外部に漏らさない、という透明性を遮断する比喩表現です。警察官という仕事は常に危険と隣り合わせで、お互いの命を預け合う強い結束力が求められる反面、それが「仲間を売ることは裏切りである」という極端な倫理観にすり変わってしまった状態を指します。また、不正を内部告発しようとする警察官は、組織内で孤立したり、嫌がらせを受けたり、最悪の場合は現場でバックアップを受けられなくなる(=命の危険にさらされる)といった恐怖から、沈黙を選ばざるを得ない構造・体質があります。使われる文脈としては、次のようなものがあります。

  • 警察の暴力行為

  • 汚職・不正捜査

  • 内部告発者(whistleblower)が孤立する問題

  • 警察改革・人権問題の議論 

 ニューヨーク州の弁護士・旦 英夫さんの『米語ウォッチ アメリカの「今」を読み解くキーワード131』(PHPエディターズグループ、2024年)でもこの表現が取り上げられていました。ニュース、学術論文、社会問題の議論でよく使われます。使用例を見てみましょう。

The Blue Wall of Silence makes it difficult to hold police officers accountable for misconduct. (沈黙のブルーウォールは、警察官の不正行為の責任追及を困難にしている)

Breaking the Blue Wall of Silence is essential for police reform. (警察改革にはブルーウォール・オブ・サイレンスを打破することが不可欠だ)[break the blue wall of silenceの形でよく使われる]

Many officers knew what happened, but the Blue Wall of Silence prevented them from speaking out.(多くの警官は何が起きたか知っていたが、沈黙の壁が発言を妨げた)

The police officers formed a blue wall of silence around their colleague’s misconduct.(警察官たちは同僚の不正を守るために沈黙の壁を築いた)

日本語で近い表現としては、次の物が該当するでしょう。

  • 「警察内部の 不祥事隠し体質」

  • 「組織防衛の沈黙」

  • 「内部告発を許さない文化」

  ただし、Blue Wall of Silenceは、特に「警察」に特化した表現です。専門的な社会科学用語・慣用句のため、一般の語彙辞典では扱われない場合が多いようです。オンラインの Wiktionary YourDictionary などの公開辞書には記載が見られます。

 この語が一般社会や報道で大きく広まった契機として、警察の不正・暴力事件が表面化した事例が挙げられます。1970年代のニューヨーク市警の汚職腐敗告発(Frank Serpico事件」など)で、 内部告発が困難だった警察内部の文化を象徴する出来事として語られました。1991年のロサンゼルス警察によるロドニー・キング暴行事件(LAPD)では、 同僚同士が互いに証言せずに、結果として大規模な抗議・暴動へと発展しました。これらの事件がきっかけで、メディアや研究者が “blue wall of silence” という表現を使って、警察の「内部の沈黙コード」を批判・説明するようになりました。

 「Blue Wall of Silence」は、20世紀前半〜中盤のアメリカの警察組織内で自然発生的に形成された文化・慣行に由来するとされています。もともと、警察官同士の忠誠心や連帯意識が強い文化が存在し、仲間の不正を報告しない・隠す傾向がありました。この慣習が非公式に語られるようになり、やがて言語化されたのが「Blue Wall of Silence」です。「警察官は仲間を裏切らない(Cops don’t tell on cops)」という考え方が文化として浸透。語そのものは1970年代頃の警察研究や報道で広まりました。特に「Blue Code (of Silence)」「Blue Curtain(青いカーテン)」と並んで使われています。

 2021年12月、ミネソタ州の裁判所で、黒人ジョージ・フロイド氏を膝で抑えつけ殺害した白人警官に対して、殺人罪による有罪の評決が出されました。裁判で、この警官の上司が、問題の行為は警察の訓練指針に違反すると明確に糾弾したことが、評決の決め手となりました。2023年、ミネソタの上級裁判所は、白人警官からの控訴を退け、有罪が確定しました。この裁判にアメリカ社会は安堵し、専門家からは、Blue Wall of Silence、つまり「沈黙の青い壁」が崩壊する前兆かもしれないというコメントが聞かれました。この公判中にも、裁判所近くで黒人青年が白人警官に撃たれて死にました。その女性警官の上司は、彼女がTaser (スタンガン)と「間違えて」ピストルを撃ってしまったと弁護しました。連邦議会においてフロイド氏の名を冠した警察改革法が論議されています。容疑者の拘束方法などの規制や警官の責任強化など、法的な改革は達成できるでしょう。しかし、Blue Wall of Silence という壁が崩れ、警察そのものへの信頼が取り戻せなければ、社会が望む真の警察改革にはなりません。近年では、警察官の胸に取り付けられた「ボディカメラ(body cams)」の普及や、市民によるスマートフォンの撮影などによって、この「壁」が物理的に壊され始めています。

Investigators found it difficult to break through the blue wall of silence within the department.(調査官たちは、部署内の沈黙の壁を打ち破るのが難しいと感じた)

The blue wall of silence makes it hard to hold officers accountable.(沈黙の壁のせいで責任追及が難しくなる)

 この句は、本来は警察文化を指して使いますが、「特定の集団が仲間の不正を守るために沈黙する文化」「組織ぐるみの隠蔽体質」という意味で、比喩的に使われることもあります。♥♥♥

There seems to be a blue wall of silence in the company’s management.(会社の経営陣にも沈黙の壁があるようだ)

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