「足立美術館」23年連続庭園日本一に!

 横山大観ら近代日本画の所蔵や庭園で知られる「足立美術館」(島根県安来市古川町、約16万5,000平方メートル)は8月25日、米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」(Sukiya Living Magazine / The Journal of Japanese Gardeningによる「2025年日本庭園ランキング」で1位に選ばれたと発表しました。2003年のランキング開始から23年連続となります。これはとんでもない記録です。2025年度は約54万5,000人が入館しました。国内外の庭園・造園専門家ら約30人が国内約1,000カ所の日本庭園を対象に、庭園の質や建物との調和、維持管理の状態などを総合的に評価し、毎年上位50位を発表していものです。2位は桂離宮(京都市)、3位は山本亭(東京・葛飾)で前年と変わらず、4位に松田屋ホテル(山口市)、5位に皆美館(松江市)が入りました。

 同美術館の足立隆則館長「現代に生きる人間の汗水たらして作り上げた造形美と山陰の風土が織りなす自然美との融合を体現しているのが足立美術館の庭園であり、そこに評価を与えてくれた」と語りました。ここで大切なのは、これは「日本政府が認定した日本一」でも、「日本人が投票して決めた日本一」でもないということです。日本庭園を専門に扱うアメリカの雑誌によるランキングです。実は、このランキングの評価方法が非常に興味深いのです。単純に、

・歴史が古い

・有名である

・敷地が広い

・国宝・重要文化財である

といったことでは評価しません。むしろ、「現在、実際に鑑賞できる庭園として、どれほど優れているか」を重視します。具体的には、

① 庭園そのものの質
② 建物と庭園との調和・維持管理の状態
③ 庭園を訪れる人への対応・ホスピタリティ

などが評価対象になります。つまり、桂離宮のような歴史的名園に対して、足立美術館は、「昔から有名だから1位」ではなく、「今この瞬間に見ても素晴らしいから1位」という評価を23年間続けて受けているわけです。

 最大の秘密は「手入れ」です。足立美術館の庭園について語る時、私はここが一番すごい点だと思います。庭園には専属の庭師さん(5人)がおられて、年間を通じて一日も欠かさず手入れをしています。さらに、毎朝の開館前には職員が総出で清掃します。これは単に「雑草を取る」というレベルではありません。庭木の剪定、苔の管理、芝生、池、石、白砂など、庭園全体を常に最高の状態に保つ必要があります。つまり足立美術館の庭園は、「完成した庭」ではなく、「毎日完成させ続けている庭」なのです。23年間もランキング1位を維持できている最大の理由の一つが、ここにあると思います。

 足立美術館には非常に面白い考え方があります。「庭園もまた一幅の絵」という発想です。これは、美術館の創設者である足立全康(あだち・ぜんこう)さんの庭園に対する考え方とも深く関係しています。足立美術館は1970年に開館しました。つまり、何百年も続く古い庭園ではありません。私は近くの広瀬町に住んでいたので、この頃をよく知っています。ほんの小さな小さな美術館でした。ところが、庭園を「日本画を見るための背景」としてではなく、庭園そのものを一つの芸術作品として見せるという非常に明確な思想が浸透していきました。特に有名なのが「枯山水庭」足立美術館の代表的な庭園です。白砂、石、松、刈り込まれた植栽などを組み合わせています。そして面白いのが、庭園の奥に見える山です。庭園だけを見ているようで、実際には、庭園+借景の山が一つの巨大な風景画になっています。

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 春は新緑、夏は濃い緑、秋は紅葉、冬は雪。つまり同じ庭なのに、一年で四つの「絵」に変化するわけです。足立美術館自身も、春・夏・秋・冬それぞれの庭園の表情を大きな魅力として紹介しています。2024年2月にNHKスペシャル「驚異の庭園~美を追い求める 庭師たちの四季~」で、その秘密が解き明かされました。

 足立美術館に行ったら、庭園の中を歩くだけでなく、建物の中から庭を見ることにも注目してください。これは普通の庭園鑑賞とは少し違います。美術館の窓が、「額縁」のようになっているのです。その「額縁」の中に、

庭園



が入ります。すると、庭園がまるで一枚の日本画のように見える。この「庭園を絵画として鑑賞させる」という仕掛けが、足立美術館の大きな特徴なんです。「生の掛軸」という有名な仕掛けがあります。窓から見える庭園を、まるで掛け軸のように見せるものです。

 これが非常に巧妙です。日本画を見る美術館なのに、「日本画の展示室を出たら、今度は本物の自然が日本画のように見える」という構造になっています。つまり、

日本画 → 庭園 → 自然

が一続きになっているのです。

 足立美術館は庭園だけの施設ではありません。横山大観(120作品所蔵)をはじめとする近代日本画のコレクションで有名です。また、北大路魯山人の陶芸などを展示する「魯山人館」も公開されています。島根県の観光情報によれば、コレクションは約2,000点に及びます。だからこそ、「日本画を展示する美術館」+「日本画のような庭園」という組み合わせが非常に効果的なのです。

 もう一つ、意外に重要なことがあります。足立美術館の庭園は、実は「見るための庭園」です。京都の有名な寺院庭園などには、「庭園の中に入って歩く」ことを前提にしたものもあります。しかし足立美術館の場合、美術館の建物から庭園を眺めるという鑑賞方法が非常に重視されています。

そのため、

●石の配置

●木の高さ

●白砂の形

●松の枝ぶり

●背景の山

などが、見る場所を計算して配置されています。これは「庭」というより、むしろ巨大な舞台装置に近いところがあります。

 2003年に1位になったときは、「日本一になった」というニュースだったでしょう。しかし、5年、10年、15年、20年……と続くと意味が変わってきます。これは、「一度だけ素晴らしかった」のではなく、「23年間、庭を最高の状態に維持し続けた」という記録だからです。特に日本庭園は、建物と違って時間とともに変化します。

木は伸びます。枯れます。
苔も変化します。
枝も伸びます。
雑草も生えます。
池も汚れます。

したがって、庭園の「日本一」を維持するには、毎日メンテナンスしなければならない。そこに足立美術館の本当の強みがあります。

 ちなみに、島根県の庭園はかなり強いのです。面白いことに、「足立美術館だけが例外的にすごい」というわけでもありません。2024年ランキングでは、50位以内に島根県の庭園が5つも入っています。

順位 庭園 所在地
1位 足立美術館 安来市
6位 皆美館 松江市
23位 由志園 松江市
39位 康国寺 出雲市
40位 湯之助の宿 長楽園 松江市

つまり、「島根県は日本庭園の隠れた名所」と言ってもよいでしょう。

 足立美術館の「23年連続日本一」を、単なるランキング記録として見るのは少しもったいないと思います。その本質は、「名園だから手入れする」ではなく、「毎日手入れするから名園であり続ける」というところにあります。そして、

日本画を展示する美術館

日本画のような庭園

庭園の向こうにある本物の自然

という三層構造になっています。これが足立美術館の非常に巧みなところです。

 なお、足立美術館の館長・足立隆則氏は、この庭園づくりと美術館改革の軌跡について『庭園日本一 足立美術館の挑戦』(日本経済新聞出版、2024年12月)という本にもまとめておられます。

 2030年の開館60周年に向けて、来館者を迎え入れ、送り出すエントランス棟を増築することが発表されています(『継承と挑戦』プロジェクト~百年先を見据えた大改修~」)。鉄筋コンクリート造り2階建て(一部地下1階)で、広さは延べ3318平方メートル。内部にはそれぞれ350平方メートル、300平方メートルの展示室と収蔵庫を配置します。❤❤❤

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