企業哲学

 エジプトで三人の労働者が大きな石を運んでいました。一人の旅人が、一体この人たちは何をしているのだろうかと疑問に思って「何をしているの?」と尋ねました。すると一人の労働者は額から落ちる玉のような汗をふきながら、こう答えました。「この石をあそこまで運んでいるんだ」。二人目の労働者はこう説明しました。「あそこをご覧。建物を作りかけているだろう。その建物を作るための石を運んでいるのさ」。三番目の労働者は、目を輝かせながら胸を張って、こう言いました。「私は今、エジプトの文化を築く仕事の一翼を担っているんだ」と。同じ仕事をしていても、この話が示すように、言われたことだけをやっている者もいれば、やっている仕事にレベルの違いはあっても、それなりの意義を認めながら誇りを持って行っている人もいます。集団組織に関して言うならば、自分のやっている仕事にそれなりの意義・誇りを認めている、そんな組織は強いと言えます。我々は何のために仕事をするのか?組織の存在使命をハッキリさせるのが、経営理念」=哲学に他なりません。「基本的にわが社は何のために存在していて、どういう責任を果たす必要があるのか」という哲学があるのとないのとでは、雲泥の差が出てきます。昨年お亡くなりになった京セラの創業主・稲盛和夫(いなもりかずお)さんは、これを「フィロソフィ」と呼びました。仕事の熱意やモチベーションの素となる「行動のものさし」となるのです。彼の起業した京セラは経営の理念として、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」と掲げておられることに注目したいと思います。稲盛さんの手掛けた第2電電の成功、破綻したJALの再生は、このフィロソフィーによるところが大であったと言われています。しっかりしたフィロソフィーを掲げて、みなが「組織の力」で万事にあたる、これが強い集団です。社員の本当の「熱」になり人を動かすのは、お金やノルマではありません。その意欲をかき立て、やる気を起こさせる社会的に有意義な目的や使命感です。自分のしていることが社会の役に立っている、社会に通じているという、やりがいであり、その自覚や誇りなのです。

    私が赴任した頃の松江北高の強みは、何と言ってもこの「組織の力」でした。年度当初には英語科でも、先輩から受け継いだ独自のフィロソフィーを共有して出発点としたものです。その「組織の力」がきれいに消えてしまいました。教育方針もお題目と化しています。力が落ちるはずです。

 アメリカでこんな調査がありました。まず30社の中堅企業を選びました。その30社には共通点がありました。会長(CEO)や社長(COO)などトップに立つ人が、企業哲学とか理念を作ることが大切だと心から信じて、それを社内で何とか築き上げようと努力している会社でした。さらに別に、同様の規模と業界の会社を30社選びました。こちらの方の会社はトップが、企業理念や哲学などは無駄だ、という考えを持っている会社でした。この両グループに関して、10年間の業績の追跡調査を行ったのです。

 すると面白いことに、前者の企業理念必要グループの年平均の売り上げ高伸び率は14%でした。一方、後者の企業理念不要グループでは3.4%に過ぎませんでした。このことは、企業理念の有無によって、業績にも大きな変化が生じてくるということをはっきり示していますね。「企業哲学」から生じる企業文化は、短期的にはいざしらず、中・長期的には業績に反映するほど重要なものなのです。どの世界でも言えることでしょう。♥♥♥

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