最悪の謝罪会見

 連日大きく報道されて皆さんもよくご存じのように、「ビッグモーター」で耳を疑いたくなるような不祥事が起こりました。修理に出した車に、故意に傷をつけることで、損害保険の請求額を水増しするなどをしていたとのことです。買い取った中古車でも、事故車をそうでないように偽って売っていたという話も聞かれます。上司のパワハラ、社員の生々しい証言、報告書の改竄、過酷なノルマ主義、度を越した環境整備点検、保険金の不正請求、降格人事LINEによる罵詈雑言、などさらなる不祥事が次から次へと出てきており(例えば、除草剤による街路樹異常虚偽の自動車保険契約、保険会社との黒い癒着)、今後の展開から目が離せません。それにしても社長の記者会見はあまりにもお粗末でした。一連の問題について、「経営陣は一切関与していない」「本当に耳を疑った。こういうことまでやっていたのかと、がくぜんとしました」さらに水増し請求を行った社員に対しては語気を荒げて「これは犯罪ですから罪をつぐなってもらわないと!」と刑事告訴をにおわせました(後に撤回しています)。形だけは頭を下げていますが、反省の認識は少しも感じられませんでした。問題の元凶となった息子の副社長は会見にすら出てきませんでした。

 そもそもなぜこんなことになったのでしょうか?経営の「原理原則」や「正しい生き方」の勉強をしていなかったからだと感じています。今回のケースは、保険金の詐欺で犯罪行為なので論外ですが、「お客さま第一」という、経営で一番重要な原理原則を外しているようでは、ビジネスがうまくいかないのは明らかです。曹洞宗円福寺の故・藤本幸邦老師「お金を追うな、仕事を追え」とおっしゃっていたのを思い出します。「ヤマト運輸」の故・小倉昌男(おぐらまさお)社長の「サービスが先、利益は後」同様です。お客さまや社会をないがしろにする経営は、しょせん成り立たないという当たり前のことが分からないのかと、愕然とします。私の尊敬する故・稲盛和夫先生は、「人生成功の方程式」というのを提唱しておられて、それは

  (人生・仕事の結果)=(考え方)×(熱意)×(能力) 

というもので、私が教室でよく紹介する方程式です。掛け算であるところと、「考え方」が一番前に来ているところに注目しましょう。さらに能力)は0点―100点まで(熱意)も0点―100点までありますが、(考え方)はマイナス100点―プラス100点まであります。いくら能力熱意が高くても、この考え方を間違えてしまうと結果は悲惨なもの(マイナス)になるのです。(考え方)はその人の魂から発するもので、生きる姿勢ともいうべきもので、人間として正しい生き方かどうかが問われています。私利私欲に走る企業や政治家が失敗するのは、ここに原因があると言えるでしょう。

 最も大切にしなければいけないことはいうまでもなく「お客さま第一」ですし、稲盛和夫さんの京セラの『京セラフィロソフィー』でも、お客さま第一の大切さを強調されています。さらに稲盛さんは、「土俵の真ん中で相撲を取る」というように「正々堂々」など「正しい考え方」でビジネスをすることの重要さを強調されています。

 また、「目標」「目的」の区別ができていなかった点も重要です。売上高や利益は「目標」です。「目的」は何のために自社が存在しているかです。社会やお客さまに貢献する、従業員を幸せにするなどです。「3日間で120億円の利益を出せ」と社長に命令され、その結果不正会計を行い、完膚なきまでに分解されたあの「東芝」と本質は同じです。売上高や利益が「目的」となってしまっていました。

 円福寺の藤本老師「お金はないと不自由だけれども、お金は魔物」ともおっしゃっていました。がんばって事業を大きくして、期せずして一般の方が得られないようなお金を得ると狂ってしまう人が少なからずいます。やはり、ビジネスを順調に伸ばし、人間としても間違った生き方をしないためにも、ビジネスの「原理原則」や「正しい生き方」を勉強しなければならないとつくづく思います。犯罪行為を行う企業は社会における存在を許されないのです。

  和泉新社長は会見の冒頭、保険金不正請求の被害者と過去の顧客に対して謝罪した後、「これまで弊社は創業者の兼重宏行のリーダーシップとその卓越したビジネスモデルにより、今や業界を代表する企業となりました」と自画自賛発言し、続けて、「余りにも強すぎるリーダーシップに頼りすぎていた」「非公開企業であることから客観的な目線が希薄になりコンプライアンスの低下を招いた」「行き過ぎた業績管理、不合理な目標設定、頻発する降格人事、こういったものにより徐々にいびつな企業風土を作ってしまった」などと反省の弁を述べました。ネット上では、「よりにもよってこの会見で“卓越したビジネスモデル”ってワードを出すの、悪手じゃない?」「めっちゃ違和感」「言わなければよいものを…」「空気を完全に無視した自画自賛」などの書き込みが相次ぎました。社長の一番傍にいた人物ですから、同じ穴のムジナでしょう。

 修理担当者がゴルフボールを入れた靴下を振り回し、車体をたたいて車にキズをつけ修理代を水増ししたり、高額な保険金を請求するといった不正行為が指摘されていた件に関して、記者会見の中で、社長の兼重氏は「本当に許せない。ゴルフを愛する人への 冒涜ぼうとく だ」と当事者意識の欠如とも取れるトンチンカンな発言を口にしました。謝らなければいけない人が間違っています。

 さてここにきて、ビッグモーターの命運にかかわると思われる大きな動きがありました。三井住友、広島などの取引銀行が、期日が来た借入れ金90億円の借り換えを拒否したのです。昨年9月末で約600億円あると言われているビッグモーターの借入残高ですが、銀行団が借り換えを拒否したということは、もう今後はお金を貸さないということを意味します。昨年度で売上高が5800億円、利益が数百億円あったと言われる同社ですが、最近では売上は激減していると報道されていますから、今の状況では利益もキャッシュフローもマイナスに陥っていると考えられます。広告を掲載する雑誌も広告出稿を拒否する、と表明しています。事業のお先も真っ暗な状況です。

 今回の90億円の借り換え拒否については、数百億円あると言われる手持ち資金で返済して対応したようですが、赤字の中で、人件費や店舗維持費も毎月数十億円はかかると考えられ、さらにそれに銀行への返済も加わるわけですから、そう遠くない未来に資金繰りが行き詰まるものと予想されます。損保会社などからも取引きを打ち切られ、まさに四面楚歌の状態です。そうした中、ビッグモーターは大手コンサル会社の「フィナンシャルアドバイザリー部門」を雇ったと報じられていますが、通常はフィナンシャルアドバイザリーと言われる部門は、資金計画や再建計画を策定する中で、売却先(スポンサー)を探すことも少なくありません。ただ、ここまで地に堕ちた会社を引き継ぐスポンサーが現れるかどうか、とても難しいと思います。いずれにしても、ビッグモーターはしばらくの間大揺れに揺れることは間違いないと思います。♥♥♥

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