「知将」岡田監督

 私は子どもの頃からの熱狂的な巨人ファンですから、阪神は嫌いです。ただし、阪神の監督の岡田彰布(おかだあきのぶ)さんだけはスゴイ知将だと思っています。2023年に監督として日本一を達成するまで、サインには必ず「道一筋」と記してきました。性格は一本筋が通っています。裏表がなく、うわべで会話することはなく思慮深く、ありとあらゆるところに目があると称されるほどの観察眼を持っています。人に迷惑をかける行為、常識から外れた行動、当たり前のことを当たり前にできないことを嫌い、あいさつ、身だしなみ、物の扱い方、どこで何をしているか、鋭い洞察力で相手の本質を見抜きます。監督という立場になっても約束の時間の10分前には集合します。常に身だしなみも整え、社会人として道を外れることはありません。厳格で隙がなさそうに見えますが、義理人情に厚く優しい人です。

 細かいところまで気を配りながら采配をふるっています。今年の沖縄キャンプでこんなことがありました。三塁から本塁への走塁練習をしていた時のことです。三塁線から少し離れてリードを取る選手を見かけた時に、普段は直接指導をしない岡田監督が、身振り手振りを交えて、「ラインに近づいてリードをするよう」に注意しました。その意図は二つありました。一つは数センチでもホームへの最短距離を取らせること。さらにもう一つの理由は、「捕手の距離感を惑わすこと」だと説きます。走者がラインから離れると、三塁ベースが見え、捕手にはどれくらいリードしているか目測しやすいのです。それを少しでも分からないようにするためにはラインぎりぎりにいた方が、捕手はけん制球も投げづらくなるというのです。実に細かい。こうした細かな積み重ねがペナントを左右するというのが、指揮官の信念です。こうした教えが生きる機会はシーズンでは決して多くはないと思われますが、僅かでも勝つ確率を高めようと手を尽くす姿勢が見事ですね。

 昨年も監督就任時に、「2005年から勝っていない方が不思議だし、チャンスもあったと思う。血の入れ替えじゃなしに、小さいヒントによって勝てるチームに生まれ変わるんじゃないかと思う。そこは僕らが、ちょっと味付けをしてやらないといけない」と語り、有言実行、見事優勝を果たしました。基本的には打つことよりも守りを重視する野球でした。岡田監督が指揮官に復帰した当初は、「昔と今では野球が違う」と、データや動画解析などを用いた最新の野球理論をうたうプロの指導者の中からは、その手腕を疑問視する声も上がっていました。岡田監督は真っ向から反論しました。「ベースまでの距離も、マウンドからバッターボックスまでの距離も変わることはない。プレーの基本がちゃんとできて、そっちからのいろんな応用。だからもろいんや。データや機材だけに頼るヤツらは。崩れた時にな」 攻撃では、「打者はセンター返し」「打てないなら四球で出塁」「ボール球を振らない」。守備では「取れるアウトを確実に」「投球は両サイドの低め」「野手の送球は低く」などなど。「普通にやる」「当たり前のことを、当たり前にこなすこと」「しっかり投げて、しっかりと打ち返す」守り勝つ野球理論を極めようというのです。「普通にやればいい」。若く伸び盛りのチームに「勝ち方」を伝えるため、選手の重圧を取り除くように何度も何度も繰り返しました。岡田監督のことを最もよく知る内田雅也さん(スポーツニッポン)『知将岡田彰布』(ビジネス社、2024年)という「勝つ力」にあふれたメッセージ本を出版しました。私はラインを引きながら興味深く拝読しました。「野球の本質は昔も今も変わらんよ」というのが信念です。実に引き出しの多い監督であることを実感しました。今年はまだ本調子ではありませんが、後半は必ず阪神巨人のつばぜり合いになるだろうと予想しています。


そしてこの度、そんな岡田監督の率いる阪神タイガースの実況マガジン『阪神タイガース実況CDマガジン』(アシェット、隔週刊)の刊行が始まりました。「誰も書けなかった岡田彰布論」という表紙のタイトルに引かれてついつい買ってしまいました〔笑〕。♥♥♥

▲120号まで続くマガジン

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