「クリスマスの約束」第一部~「22分50秒」

▲Ciistandのクリスマスケーキ 美味しい!

 今回が最終回の「クリスマスの約束」第一部は、2009年の伝説の「22分50秒」の再演でした(第二部は金曜日の深夜に二時間放映されます)。私はCiistandのクリスマスケーキをほうばりながら、当時の感動を思い出していました。小田さんを始め、数多くのゲストが全員で、それぞれの代表的なオリジナル曲をワンコーラスずつメドレー形式で歌い継いだものです。タイトルはそのままズバリ、「22分50秒」、メドレーの曲の長さがそのままタイトルになっています。全体のアレンジは小田さんが一人で行いました(楽譜13枚)。

 番組は、その小田さんの企画の立ち上げから、参加ゲストたちとの話し合い、テレビ局スタッフとの話しあい、リハーサルの模様等をドキュメント形式で追っていきます。誰もが、始めは懐疑的でした。まず番組スタッフが、不安をあらわにしていました。小田さんがリスペクトする様々な個性を持つアーティストたちに、手紙を書いて、オファーしました。しかし、彼らは歌い方が違い、フィーリングが違う。年齢も違い、音楽への取り組み方も違うだろう。同じく舞台に立つとは言え、監督がいて、脚本があり、共演者とのアンサンブルでドラマという芸術形態を作り上げていく役者とは違い、自分たちの言葉・音楽とパフォーマンスで、自ら独自の世界をステージ上で築くことに命をかけるシンガーたちは、基本的に常に自分が主役だ。これだけたくさんの同業者たちと「共演」する、自分が脇役になる、というような体験に慣れているわけではない。「できっこない」というのが最初の反応でした。おそらくは、自らの楽曲についてそれぞれ一国一城の主である各シンガーにとって、そんな試みが成功する、というイメージが成り立ちにくかったとして、不思議はありません。小委委員会や製作スタッフの「それで何になるのだ」という疑問ももっともでした。「そんな試みに何の意味があるのだ?」と。実は、小田さん自身も、確信はなかったようです。ただ、彼はやってみたかった。はっきりとしない、小田さんの情熱のようなものだけが、このプロジェクトを引っ張っていました。小委員会の会議の中でも、小田さんの構想についての率直な疑問が、参加する年下のアーティストたちからぶつけられました。「長く聴くのに耐えられるのかなと感じましたね」「それぞれのアーティストの曲をワンコーラスずつ続けて歌うことが果たしてその曲を讃えることになるのか?」「ほんとに全員が歌ってしまうと、やっぱり個性が消えますね」「どうしてもこれ全員で……見えない」「全員で歌うとただの“棒“みたいになってしまうのでは?」
「各自がソロで歌う方がカッコいいに決まっている!」「カッコよくないことはしたくない」
等々。「やっぱり、そんなに簡単なことじゃなかったんだな……」会議の後で、思わずそうつぶやく小田さんの姿をカメラはしっかりととらえていました。しかし、それでも小田さんは強行突破します。リハーサルは始まっていました。小田さんと参加アーティストたちは、走りながら、形をつくりながら、そのプロジェクトの可能性を自ら確かめていこうとしていました。最初に小田さんがアーティストに送った手紙です。

アーティスト諸君へ

前略、突然のことで、お許しください、お願いの手紙です。

ずっと考えていました。たくさんのアーティストが一堂に会して、一気に「歌いたいうた」を全員で歌ったらどうなんだろう。たくさんというのは具体的にいえば30人(組)を超えるくらい。そのアーティストたちが、できるだけみんなで選んだ30曲ほどを1コーラスづつ、休まず、通して歌い倒す。イベントのフィナーレのように歌わないけどそこに立っている人もいる、ではなくみんなが精いっぱい歌っている。そしてその歌のすべてが、誰もが知っている「あの曲」である必要はない。それをTBSの「クリスマスの約束」という番組でやってみたいのです。それがどうしたんだといわれても、甚だ無責任ですが、返せるような確かな答えはありません。何かが伝わるかもなどとも言いません。でももし「それ、面白そうじゃん。付き合ってもいいよ」と膝を軽くポンと叩いて同意してくれるようなら「どんなヤツが来るの?アイツがいるならイヤだ」と言う、まるでちょっと前のボクのような了見の狭い気持ちはこの際、思い切り捨てていただいてぜひ参加してください。運動会の参加費くらいのものと、たいへんだったなぁという思い出しか用意できないと思いますが、基本的にすべての曲は、全員でユニゾン、つまり斉唱でと考えています。そしていちばん肝心なこと、収録日は11月30日を予定しつつ、ご返事、さらに忌憚のないご意見をお待ちしています。

                    2009年8月 小田和正

 全体としては、各自のオリジナル曲のメドレーであり、かつ、曲と曲とのつなぎだけでなく、全体を小田さんがアレンジして、コーラスやハーモニーが付けられています。つまり、一人当たり平均して一分程度、自らのオリジナル曲を歌い継ぐが、そのオリジナル部分にも小田さんの素晴らしいアレンジが施され、コーラスや、ユニゾンが付加される場面が多く、それ以外のパートでは、他の参加シンガーたちがバック・コーラスに回るのです。結局、「22分50秒」の大半を、他人の曲のバックに回ることになります。自分が一番目立ちたいということを一切素直に払拭して、自分は捨て石になってでも、何となく見えるゴールに向かって、みんなと一緒に行くんだ、という想い。しかも小田さんは、他人の曲の間、為す術もなく立ちん坊になるのではなく、各シンガーがきちんとコーラスに参加することを望んでいました。つまり、全体のほとんどを、きちんとお互いの脇役としての役割を果たすように求めたのです。みんなで作り上げるというのが小田さんの狙いでした。

 ドキュメントは、慰労のための小田さん提案の前日の食事会で終わり、当日を迎えます。そして始まりました。藤井フミヤから始まり、歌い継がれる各シンガーの曲。交代するときには互いにハイタッチ。誰の顔にも笑みが浮かび、その顔が輝き始め楽しそうです。順に自分の歌を歌い、ハイタッチして、サポートにまわる。その繰り返しが、徐々に不思議なバイブレーションを生んで、各アーティストを、会場の観客一同を巻き込んでいきます。ああ、そうか、まるで箱根駅伝のようです。タスキの代わりに自らの歌を手渡して、走り継いでいます。マラソンを、駅伝にしてしまった、日本人アーティストによるイベントでもあったのです。観客がみんな、沿道で懸命に旗を振り応援する人々に重なります。歌いながら、同じ場所と時間を共有しながら、誰もが心から感動しているように見えました。その、魔法のような「22分50秒」が終わったとき、拍手が長い間鳴り止みませんでした。小田さんは言葉を失います。きっと、彼の思惑をはるかに超えて、感動が彼を圧倒していたのでしょう。

22’50”

この日のこと
トゥルーラブ  藤井フミヤ
今夜だけきっと  スターダストレビュー
ロマンスの神様  広瀬香美
明日がくるなら  JUJU
明日、春が来たら  松たか子
友達の詩  中村中
LaLaLa   佐藤竹善
恋におちたら  Crystal Kay
Story  AI
夢で逢えたら  鈴木雅之
ハナミズキ  一青窈
翼をください   山本潤子
HOME   清水翔太
YES-YES-YES   小田和正
LIFE  キマグレン
虹   Aqua Timez
全力少年   スキマスイッチ
Jupeter   平原綾香
涙そうそう   夏川りみ
青春の影   財津和夫
帰りたくなったよ  いきものがかり

 小田さんは昔から、アーティストが声を重ねることで、すごく大きな力になるんだ、とおっしゃっていて、みんなで、アーティスト全員で力を合わせて、お互いの曲も全力でコーラスするんだと、長年温めていた企画でした。毎年打合せでその話は出るものの、難しい企画なのでリハーサルの時間もかなり必要になるし、いつも立ち消えになっていました。でも難航の末2009年にやることが決まって、小田さんが独特の追っかけコーラスを含めてアレンジを考えて、譜面ができ上がるまでに相当時間を要したし、リハーサルも繰り返し行ないました。だから本番当日はうまくいくかどうかというより、スタッフ全員がやりきるんだという強い気持ちで臨みました。

 番組のテーマソング「この日のこと」からスタートして、続いて藤井フミヤさんの「True Love」のあのギターのイントロを弾いている佐橋佳幸さんの、“リアルなイントロ”が鳴った瞬間、客席からどよめきが起き、ものすごい盛り上がりで、製作スタッフはそれを見てこれはうまくいったと確信しました。あの瞬間、アーティストもスタッフも全員そう思ったと思います。お客さんの力は本当に強いです。みなさんが知っている曲ばかりがメドレーになっていたので、きっと盛り上がるはずと思いながらも、本当にうまくいくのだろうかとか、それまでのことも含めて色々な思いが交錯しました。でもあの時の歓声と拍手で一曲一曲の素晴らしさが、さらに増幅されるというか、圧倒されたしどんどんボルテージが上がっていって、歌い終わった後5分ぐらい拍手が鳴りやまなくて、小田さんの感極まった表情と涙を見ることができて感激しました。僕も泣きそうになりましたが、インカムの向こうから他のスタッフの泣き声が聞こえてきて、涙が引っ込んでしまいました。この番組が掲げてきたテーマが結実した瞬間だと思います。歌い終わるとお客さんからのスタンディングオベーションが鳴りやまなくて、小田さんも涙ぐんでいるようでした。「これは僕が聞いた一番長い拍手だと思います」「みんなが寄ってたかって僕のことをいじめましたが、やっぱりやって良かったとほんとに思います!いろいろ言葉にして讃えたいですが、言葉にすると、なんか全部こぼれてしまいそうな気がするので、何も言わずにおきます」小田さん。

 いち視聴者として、小田さんの他のアーティストへのリスペクトと、アーティストからの小田さんへのリスペクトが伝わってきて、そして音楽愛溢れるスタッフが丁寧に番組を作っていることが伝わってきました。小田さんの音楽への真摯な姿勢、そして音楽を通じて人々をつなぐ力に深く感銘を受けました。小田さんのリハーサルへの取り組み方は本当に徹底していて、参加アーティストの中には『小田学校』と呼ぶ人もいたほどです。小田さんは毎回、曲の選曲やアレンジに非常に気を遣って、特にコーラスアレンジは他では決して聴くことのできない、素晴らしい個性と輝きを放ち続けていました。

「小田さんとの出会いが僕の人生の大きな転機となりました。そして求められ続けた番組だったからこそ、最後までやり遂げられたのだと思います」(製作スタッフ)

 音楽史上初となる「22分50秒」の壮大なメドレーという前代未聞の挑戦でしたが、メドレー終了後の鳴り響く拍手とその長さは圧巻でした。最後に山本潤子さんが語っていましたが、「小田くん、アレンジ大変だったね」。拍手が鳴り止みません。小田さんが「今までにもらった拍手の中で最も長い」ものだった、と語るぐらい感動的な場面でした。後に、第36回放送文化基金賞番組部門・テレビエンターテインメント番組優秀賞」を受賞しました。最後にアーティストが一人ずつ感想を語っていましたが、小田さんに振られると「語りたくない。言葉にしたくない。このまま持って帰りたい」と拒絶したのも、感動を言葉にしてしまうと嘘になるという思いからだったのでしょう。

 かつては、人との交わりに対して拒絶といえるほど消極的だった小田さんが、2000年代以降急速に変わり、人とのつながりに惹かれ、人とのつながりを求めるようになりました。その一つの到達点が、この「22分50秒」でした。♥♥♥

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