「九州新幹線つばめ」

 念願の九州新幹線800系「つばめ」に乗車してきました。以下は「乗り鉄」の私のレポートです。800系は実に贅沢な車両です。最高時速は260キロ。水戸岡鋭治(みとおかえいじ)先生率いるドーンデザイン研究所が監修して、内装の素材にはこだわりをもって壁や座席はクスノキ、シート地は西陣織、窓には山桜を使ってブラインド、洗面所の入り口はい草の縄のれん。この800系JR東海/JR西日本の700系を基にして設計されています。先頭車両はその面影を感じさせない独自のデザインとなっています。2004年(平成16年)の九州新幹線鹿児島開業時に誕生しました。わずか3ヶ月で乗客数100万人を突破し、その流線型ボディは多くの人々に興奮と感動を与えました。2005年には「鉄道友の会ローレル賞」を受賞しています。水戸岡先生JR九州のコンセプトは次の通りでした。「いまだかつて見たことのないものを作りたい」「これまでにないオンリーワンの新幹線」が背景にありました。2005年には日本産業デザイン振興会「グッドデザイン賞」を受賞しました。

・九州新幹線つばめは九州の文化と経済と人を結び、豊かなコミュニケーションが生まれる公共の道具であり、利用する人にとっても運用する人にとっても無理のない使いやすい公共資産としてハード、ソフトの両面でデザインを進めること。

・九州新幹線つばめは普遍性と機能美を追求すると同時に、日本であり、九州という地域のアイデンティテイを洗練された形で表現すること。そのためには先端技術から生まれた素材や工法、それに伝統的な素材と職人の技を組み合わせてコンテンポラリーに使いこなせるような公共デザインの充実に努めること。

 塗色は白をベースとして南国をイメージさせる赤と金ラインをアクセント的に窓下に配し、車両の屋上は古代漆色としています(架線から落ちるサビの色を目立たなくするため)。運転席周りはダークグレーで、特徴的なロゴと合わせてJR九州らしさを演出しています。800系のシンボルである「つばめ」エンブレム・ロゴが車両の至る所に描かれています。これが水戸岡流です(写真上)。九州新幹線800系は、従来の新幹線では考えられなかった天然木を使ったシックなものとなっていて、座席の背面に木目調の板が貼られているのが特徴です。東海道・山陽新幹線と比べるとちょっと座席が固そうな感じです。

 新幹線の700系を改良したものですが、車体のデザインは700系とは大きく異なり、先端部はカモノハシ形状ではなく、ロングノーズ型です。「カモノハシ以外の顔にして」というJR九州からの要望により、700系のデザインは最終的に二案が残り、カモノハシ型が選ばれることによって採用されなかった方の設計図を基に描き直した車両です。先頭のライトは「出目金」です。長さ2メートルの縦目です(⇒詳しくはコチラ)。車内の客室の照明が明るすぎないように、アクリルカバーにオリジナルデザインのストライプ柄の乳白色のシートを貼りました。柔らかい目にやさしい光の室内になりました。乗り降りに便利な幅広いドアはユニバーサルデザインを意識しています。6両編成全てが普通車で、座席は2+2列配置でゆったりとしたつくりになっています。

 しかし、実際に座ってみるとそんなに狭くはありません。快適な座席です。また、テーブルは中央のインアーム式のテーブルとなっているため、隣に知らないお客さんが座ってきてもあまり近くならなくていいのです。背もたれが高く大きくなっているので(ハイバックチェア-)、前に座っている人の頭が見えないようになっています。

 新幹線としては初めて天然木の座席が採用されました。他の新幹線にはない、落ち着きがあっていいですよね。プライウッド(積層合板)と呼ばれる薄い板を11枚重ね、それを型に入れて数十トンの圧力で加熱成型されているので適度な弾力感が味わえ、さらには車体の軽量化にも一役買っています。椅子は背もたれの厚みが3~4割薄くなった分、10センチくらい膝前が広くなっておりその分だけ座面に奥行きができ、しっかり深く座れて、思い切り足を投げ出すことができます。一方座席の高さは少し低くしています。こうすることにより、背の低い人や子どもでも足が中に浮くことがなく身体を支えることができます。背もたれを高くしたスタイルによってプライバシーを適度に守り、旅に安心感を与え、その奥行きの深い座り心地はまるでホテルのラウンジチェアーのようにくつろぐことができます。このような小さな所のデザインにも工夫を凝らすことで、座り心地がずいぶん違ってくるのです。壁や座席はクスノキ、シート地は西陣織、と豪華です。「和」「伝統」「日本らしさ」をコンセプトにかかげた斬新なデザインです。座席の背もたれや肘掛け、テーブル、上部の荷物ラックをはじめとして内装には「木」がふんだんに用いられています。「人の手が触れる場所は極力温かみを感じる木材を使いたい」という水戸岡先生のこだわりです。当時この九州新幹線、新八代―鹿児島中央間は、そのおよそ70%がトンネル内での走行となっていました。そのため、窓の外の景色を楽しむことができなくても、車内で退屈せずに過ごしてもらいたい、そんな思いを込めて実現したインテリアです。

 800系新幹線は、東海道・山陽新幹線を走っていた700系新幹線を基に開発されています。特に車体のシステムなどについては700系新幹線を受け継いだところも多いので、窓枠の周辺部分は700系新幹線と似た雰囲気です。しかし、車窓にかかるすだれのようなシェードを閉めてみると全く違う。シェードは700系新幹線のように布製ではなく、すだれになっています。九州山地の山桜が陽光を和らげる木製のロールブラインドです(写真上)。よく見ていただくと分かりますが、座った人の目の高さより少し下に来る部分が竹ひごのように木を細くして、外が見えるようにしてあります。このアイデアは、すだれや雪見障子、殿様が乗った駕籠ののぞき窓からヒントを得ています。木漏れ日を感じながら、外にいるような気持ちで乗ってもらおうという狙いです。こういうところはJR九州らしくて、粋だなって思います。山桜は天然記念物ですから、切ってはいけないので市場にはないことになっています。JR九州の車両課の人のおじさんが材木屋をやっておられて、台風で倒れたり折れたりしたものをまとめて積んでありました。切ってはいけないけど、自然に倒れたものはいいわけです。これをJR九州が全部買い取ってブラインドに使いました(水戸岡鋭治『鉄道デザインの心 世にないものをつくる闘い』(日経BP社、2015年))。

 座席は木を多用したぬくもりのあるデザインです。座席の背面は木目調になっています。しかし、ちょっとした荷物を引っ掛けることができるフックがあるので便利。ここにお土産などを引っ掛けておくことができます。テーブルはJR九州でよくあるインアーム式

テーブルはJR九州でよくあるインアーム式

 蓋を開けるとテーブルが出てきます。一番上の部分には紐がついているので、この紐を引っ張ってテーブルを引き上げることになります。

テーブルはJR九州でよくあるインアーム式

 テーブルを出すとこんな感じ。思ったより大きいテーブルで、お弁当くらいだったら広げられますね。

テーブルはJR九州でよくあるインアーム式

 2つの格納テーブルを出すとこんな感じです。2人での旅だったら、ここでお弁当を広げて、なんてことがしやすくていいですね。「短い旅にも豊かなひとときを提供したい」というJR九州の方針で採用されました。

 800系新幹線は、車両ごとに座席のデザインが違います。こういったところにもちょっとした遊び心があります。座席は全て2+2列のゆったりとしたつくりの4列シートです。床はプラスチックで節約を図っています。

 1号車は主に、緑を基調とした座席になっています。

車両によって異なる座席の色を全て紹介!違いを楽しむのも面白い

 2号車は青を基調とした座席になっています。

車両によって異なる座席の色を全て紹介!違いを楽しむのも面白い

 3号車はエンジを基本とした座席になっています。

車両によって異なる座席の色を全て紹介!違いを楽しむのも面白い

 4号車は、どうも1号車と同じ座席のモケットのようでした。

車両によって異なる座席の色を全て紹介!違いを楽しむのも面白い

 そして5号車は4号車と同じ座席のモケットの様子。

車両によって異なる座席の色を全て紹介!違いを楽しむのも面白い

 最後に6号車。こちらは2号車の座席のモケットと同じようでした。このように、車両によって座席の色が異なるのも大きな特徴です。乗る度に違う雰囲気を味わえるような工夫を施していて、布地には唐草模様を織り込んだ西陣織の技術を採用することで、座り心地の良い椅子に仕上げられています。

 現在、新幹線ではほぼ全ての座席に、普通車でも少なくとも窓側にはコンセントが設置される流れになっています。しかし、この800系新幹線には一部座席しかコンセントがありません。コンセントがあるのは、各車両の最前列の座席と最後列の座席です。最前列の座席以外にはコンセントがありませんので注意しましょう。今までいろいろな新幹線に乗ってきて、窓側全ての座席にコンセントが配置されていないのは800系と、山陽新幹線700系・500系くらいだと思います。

最前列・最後列の座席だけにはコンセントがある

 車端部には「荷物置き場」も装備されています。後付けされたようで、西九州新幹線に設置されているものと構造自体は同じよう。西九州新幹線N700S系のものが800系の車内に合うように木目調に変更されています。

 東海道新幹線では絶対に考えられないですね。デッキは黒を基調としていて落ち着きがあります。渋めの色調と控えめな照明で、日本の旧家をイメージし、ほの暗さの先に最上級のもてなしを演出しています。そして至る所に絵が飾られていて癒やされます。美術館のような雰囲気すら感じます。N700系新幹線の内部にはこのような装飾はありません。

▲和の伝統を感じることができる広々としたデッキスペース

 扉には号車番号が書かれています。これは、車両外部の、扉の横に書かれた号車番号と同じデザインです。

 洗面台も天然木が使用されています。お手洗いの内部の様子は至って普通。ですが、ウォシュレットが使えません。新幹線や特急列車をはじめとして、ウォシュレットが使用できる車両が増えているので、リニューアルをするのであれば是非とも検討してほしいところ。トイレ内部にも和風の絵が飾られています。洗面所の暖簾い草製です。い草が持つ湿度調整機能や、耐水・消臭・殺菌作用に着目した新しい発想のデザインです。地元の八代平野は日本有数のい草の産地でオリジナリティを実現しています。こういったところにも配慮しているんですね。

 床面は窓側と通路側で正反対の色を使い、専有面積を明確にしています。よく見てみると、本来座席の中央である部分より通路側に境界線が引かれています。占有面積を見るとどうしても通路側より狭くなってしまう窓側、少しでも広く撮ろうとこのようにしたのだと思われます。床は白の地に日本の伝統の格子の柄が入っています(写真上)。このようにを入れておくと、床の汚れが目立たないからです。点の連続が視覚的にはラインに見えるのですが、そのラインをきれいに揃えるのがメーカー泣かせだったそうです。

 新幹線ではもはや当たり前となった、車内でのWi-Fiサービスが利用できます。Wi-Fiマークはほぼ全ての新幹線につくようになりましたね。800系新幹線でも全ての列車で車内のWi-Fiサービスが利用できます。

 九州山地の山桜が陽光を和らげる木製ロールブラインド。ブライウッド製の窓下テーブル、木製のラゲージラックなど、木のぬくもりを随所に活かしたエコ・デザインが特徴です。

 800系新幹線が駆ける大地は照葉樹林がかがやくところ。東シナ海の波打ち寄せる九州です。そこに暮らす人びとのいとなみが創造する伝統の技を新幹線に生かしました。洗面室にあしらわれた八代い草の「縄のれん」もその一例です。インテリアには,これまでの鹿児島産樟の壁宮崎産山桜の木部八代のい草の縄のれんに加えて,鹿児島・川辺仏壇の木彫り・蒔絵・彫刻,博多織久留米餅など九州の素材・工芸品を使用しています。本らしさ、九州らしさにこだわった内装には、荷棚やテーブル、窓台に九州の木や、織物をふんだんに使用し、車両ごとにそれぞれ異なる座席のデザインが採用されています。このように800系は間違いなく内装の素材にこだわった贅沢な車両です。700系と比べれば高くて当然と思われるかもしれませんが、原価に大きな差はないそうです。

 水戸岡先生が新幹線のデザインに携わりながら実現できなかったことがあります。床が木の食堂車ビュッフェバーカウンターを設けることができませんでした。「胃袋の共有」という先生の信念は、残念ながらここでは実現できませんでした。♥♥♥

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