大下容子アナウンサー

 松江北高を辞して、平日も2日ほど昼間に家に居ることが増え、午前10時半からテレビ朝日系列の「大下容子のワイドスクランブル」という報道番組を見ることが多くなりました。同番組で長年の間メインキャスターを務めている大下容子(おおしたようこ)さん(慶応大学法学部法律学科卒業)は、生放送を仕切る確かな手腕と、穏やかな人柄が視聴者から高く支持されている同局の看板アナウンサーで、アナウンサーとしての実力はもちろんのこと、タレント気取りでもなくチャラついてもない。控えめだけどしっかりと意見もする。人の気持ちに寄り添うことのできるアナウンサーです。この時間帯の他局は芸能人が仕切る番組が多いのですが、伝える内容の中身が際立っているので、私はよく見ています。今日は、そんな大下容子さんを取り上げてみたいと思います。2019年の雑誌『THE 21』1月号(PHP研究所)を参考にしました。

 不特定多数に向けて情報を正確に伝えると同時に、エンターテインメントとして視聴者を楽しませることが求められるワイドショーの司会者として、どんな話し方を心がけているのでしょうか?「まずは基本的なことですが、『ゆっくりと、大きな声で、丁寧に話すこと』と『正しい日本語を話すこと』がアナウンサーとして最も大切だと考えています。例えば、「コンビニ」ではなく「コンビニエンスストア」と言うなど、なるべく丁寧に正しく話すことを心がけています。どんなに情報を詰め込んでも、聞き手の方たちに伝わらなければ意味がありません。舞台俳優の方が、「どんなにいいセリフを言っても、観客に届かなければ意味がない」とおっしゃるのを聞いたことがありますが、アナウンサーも全く同じです。私たちの仕事は、人に伝えることですから、ひとりよがりの独白にならないよう、『聞く人に伝わっているか』を常に意識しながら話すようにしています」 なるほど!

 正しく伝えることに加えて、ワイドショーでは面白さや楽しさも視聴者に届けなくてはいけません。「そこが一番難しいところだと感じています」大下さんも同意します。「ただ次から次へと情報を伝えるだけでは、きっと視聴者もつまらなく感じるでしょう。お昼の情報番組ですから、ユーモアや笑いをお届けすることも大切ですが、私白身がそれを発信するのは本当に難しい。あらかじめ用意したジョークを言ってみたこともありますが、狙って言うと絶対にウケないとわかりました〔笑〕。『ワイド・スクランブル』と同時間帯に放送されている他局の番組では、タレントさんや芸人さんが司会を務めているので、面白く話すという話術の面では、私のようなアナウンサーは足元にも及びません。ですから私は、その役目は他の人にお任せすることにしています。デーブ・スペクターさんのようにユーモアのあるコメンテーターがレギュラー出演しているので、私はその方たちに質問して、話を引き出す役割をする。そして、出演者のコメントを私白身も楽しむようにしています。私たち出演者が楽しんでいれば、それを見ている視聴者の方たちも楽しんでくださるだろうと思いますから」と。

 テレビ朝日のアナウンス部で女性最年長の大下さん。今では大勢の後輩たちに指導する立場でもありますが、この時も相手の気持ちを最大限に尊重することを心がけているそうです。 「今もですが、若い頃は本当に話すことに自信がなかったので。そんな中で先輩に褒められるととても嬉しかったんです。ですから私も、後輩たちの良いところをできるだけ伝えるようにしています。注意することがあっても、まずは一つでも良かった点を挙げてから、ここはもっとゆっくり話したほうがいいかもね」といった伝え方をします」 「聞きたいことがあれば、まずは自分と年齢の近い先輩に相談すると思うんです。私も若い頃はそうしていましたから。それに若手が最年長の私からいきなり注意されたら怖いだろうと思うので〔笑〕、私からはあえてあれこれ言わず、アドバイスを求められたら答えるというスタンスを取っています」

 メインキャスターという立場なら、「自分が主役」という意識が生まれてもおかしくありませんが、大下さんの考えは全く正反対です。「私は中学・高校とバレー部でセッターを務めたのですが、メインキャスターはまさにセッターみたいな仕事なんです。コメンテーターの皆さんがアタッカーで、セッターの私はアタッカーが気持ち良く打てるようなトスを上げる役目。数人いるアタッカーの誰に打たせるかもセッターに任されますが、私も番組で『今日はこの人が調子いいな』と思えば、そのコメンテーターに多めに質問したりするので、そんなところも似ています。セッターは縁の下の力持ちみたいなポジションですが、アナウンサーの仕事と共通する点はとても多いですね」なるほど、バレーボールのセッターとアナウンサーは共通点があるのですね。

 彼女のポリシーは、「アナウンサーは自分でコメントするよりも、的確に質問することが一番大事な仕事なので、『誰に何を聞くか』というポイントだけはしっかり捉えたいと思っています」そのために、大下さんはオンエアに備えて毎日徹底した準備をすると言います。 「『ワイド・スクランブル』は生放送なので、その日の放送で扱うテーマが最終確定するのは当日朝。その日の内容を確認してから、アナウンス部にある一般紙とスポーツ紙合わせて10紙に目を通して、テーマに関連するニュースをチェックするのが日課です。情報番組を20年以上やっていても知らないことだらけなので、新聞を読みながら『何がわからないのかもわからない』という状態から、『自分がわからないこと』を明確にしていきます。そうすれば、『番組の中でこれをコメンテーターやゲストに聞いてみたい』というポイントもはっきりします。こうしてしっかり準備することで、『これだけ準備をしてもわからないということは、堂々と“わからない”と言っていいのだ』と自分を安心させることもできます」

 「ただし、相手のことを理解するには、自分に余裕がなくてはいけません。打ち合わせの時も自分のことで頭が一杯の状態だったら、他人に注意を向けることはできませんよね。ですから私は毎朝6時前に出社して、早めに自分の準備を済ませます。そうすれば、打ち合わせでは周囲の様子を観察するだけの余裕を持って、人の話をきちんと聞けるからです」勘やセンスだけに頼るのではなく、うまく話すためにコツコツと地道な努力を積み重ねていることがよく分かりますね。 「キャリアを重ねれば重ねるほど、準備の大切さを実感するようになりました。できる限りの準備をしておけば、たとえ生放送中に想定外のことが起こっても、『これだけ準備したのだからなんとかなる』と腹をくくれます。今思えば、昔は横着していましたね。若い頃は、新聞もサッと目を通すだけでした。それでも、番組は滞りなく進行できるんです。うんうんと相槌を打って、『○○さん、いかがですか』と台本通りに話を振るだけでなんとかなるし、極端な話、私が何もしゃべらなくても番組はそれなりに進んでいくものなんです。でも最近は、メインキャスターを任されたからには、自分なりの視点を持って番組に臨みたいと思うようになりました。自分の意見をオンエアで口に出すか出さないかは別として、自分の考えを持って主体的に取り組んだほうが自分にとって得るものが大きいと気づいたからです。ニュース原稿を読むときも、自分の中でなんとなくでも考えるように心がけると、だんだんニュースが面白く感じられるんですね。自分が面白ければ、視聴者にもそれが伝わるはず。それに気づいてからは、台本通りに話して終わり、というやり方はしなくなりました」

 うまく話すためのアドバイスをお願いすると、こんな答えが返ってきました。 「話すことよりも、まずは相手の話を聞くことを心がけるとよいのではないでしょうか。自分が一方的に話すより、相手の話を受けて言葉を返すほうが印象に残るし、相手も気持ちよく話せるはずです。話すときも常に相手がどんな気持ちでそこにいるのかを考えて、その話に耳を傾ける。そんな聞く姿勢がある人は、とても素敵だと思います」 まさにコミュニケーション原点のコツですね。人間の言語活動は50%が聞くこと、30%が話すこと、15%が読むこと、5%が書くことだと、デール・カーネギーは言っています。「耳は二つあるが、口は一つしかない。だから口の二倍は耳を使わねばならない」というのはユダヤ人の叡知です。♥♥♥

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