下段柱

 今年のお正月に、故・草川隆(くさかわたかし、1935-2022)さんの書き下ろし長篇本格ミステリー『寝台特急「冨士」の殺人者』(廣済堂、1992年)を読んでいたところ「下段柱」(げだんばしら)という聞き慣れない言葉が何度も登場しました。

 この日、彼女はいくつかの仕事をすますと、神田駅前にオフィスを持つ、庄司探偵事務所を訪れた。といっても、べつに探偵社に用があるわけでなく、そこの調査員の大森拓郎に毎号頼んでいる“下段柱”の原稿を取りに行くためだった。“下段柱”というのは、コミック誌の下段のページの余白のミニ知識のことだった。二行八十字に詰め込んだ文章で、その号によって、さまざまな分野の雑学が盛り込まれる。いわば読者サービスの欄だったが、毎号これを楽しみに読み、話のタネ本にしている読者も少なくない。(pp.45-46)

 折から、“下段柱”の執筆者の一人が病気にかかり、新しい書き手を探していたので、彼女は“世界の刑罰” “世界の名探偵”といったテーマのミニ知識を書いてくれないかと、彼に頼んだ。これがきっかけで、大森はこの欄の定期的な執筆者の一人になった。そして、一年半ほど付き合っているうちに、彼女も大森の影響でミステリーのファンになった。(p.46)

 彼が再び、本来の目標に立ち返ったのは、侑子と知り合い、“下段柱”を依頼されたためだった。作家志望だっただけに、文章を書くことは好きだ。それに、何よりも侑子に心を奪われた彼は、小さな仕事でも、それを引き受けることで、彼女とのつながりを維持しようとしたのだった。(p.48)

“下段柱”の仕事は、調べる事が好きなぼくの楽しみの一つだったんだが……できれは……」(p.49)

 漫画の版面の外に記す重要な情報を「柱(ハシラ)」といい、書籍などではページを探しやすくする目的に使われたりします。漫画雑誌の場合には、この「ハシラ」に漫画単行本などの広告を載せていることがよくあります。ただ、漫画家は「断ち切り」あるいは「断ち落とし」といって、コマの絵を大きく描いて版面からはみ出す描き方をすることがよくあります。そうした紙面には「ハシラ」を入れることはできません。逆に、漫画と関係のない「ハシラ」を邪魔に思っている漫画家もいて、意図的に断ち切りを多くして「ハシラ」を入れさせないようにするケースも多々あります。上の引用からも分かるように、下段のページの余白に入れられるミニ知識を「下段柱」と呼んでいます。一つ勉強になりました。

 作者の草川 隆さんは東京生れ。國學院大學国文科卒業で、1968年にSF同人誌「宇宙塵」に連載した長編『時の呼ぶ声』でデビュー。『アポロは月に行かなかった』『幽霊は夜唄う』などのSFやホラー小説を発表。1986年には本格推理小説『個室寝台殺人事件』を発表し、以降はトラベル・ミステリー作品を多数発表しました。残念ながら現在はほとんど手に入れることはできません。ミステリー好きの私は、古本屋さんなどでその作品を漁っています。♥♥♥

カテゴリー: 日々の日記 パーマリンク

コメントを残す