『谷村新司詩集』

 令和5年10月に74歳でお亡くなりになったシンガー・ソングライターの谷村新司(たにむらしんじ)さん。『谷村新司詩集 ―夢のその先―』(扶桑社、2024年、3,300円)が、谷村さんの誕生日である12月11日(2024年)を記念して扶桑社より発売になりました。私はすぐにアマゾンで取り寄せました。50年にわたるアーテイスト活動の中で、日本の音楽史に燦然と輝く、谷村さんがこよなく愛した日本語で綴られてきた珠玉の作品を集めた、本格的な初の詩集の誕生です。谷村さんの想い、後世に伝えたいメッセージがここに詰まっています。「冬の稲妻」、「いい日旅立ち」、「チャンピオン」、「昴-すばる-」、「サライ」など、ぜひ記憶にとどめておきたい全61篇です。人生の応援歌とも思える詩の数々を、行間に思いを馳せ、じっくりと味わい後世に語り継いでいきたいものです。谷村新司さんのファンだけでなく、全ての音楽ファンが傍に置いておきたい一冊です。その内容は次の通りです。

●1972年のデビュー曲から遺作までの軌跡を振り返る61篇の詩。
谷村さんのことを『お兄ちゃん』と呼んで慕い兄弟のような関係だった、長年の友代表としてさだまさしさんからの特別書き下ろしメッセージ「さあ、歌いたまえ!」を収録しています。
●生誕からアリス結成、名曲の数々、伝説のライブ等々。谷村さんの数々のエピソード満載の圧巻の年表完全版が36ページに渡り編集されています。

 谷村新司さんの一周忌(10月8日)を迎えるにあたって、『アリス コンサート2024 ALICE FOREVER ~アリガトウ~』と題して思い出の場所、日本武道館(9月18日)と大阪城ホール(10月13日)でアリスの追悼コンサートが開催されました。オープニングの「冬の稲妻」から“3人のアリス”は、谷村新司さんの歌と映像をシンクロさせた特別な演出で、まるで谷村さんがそこにいるかのようで会場は歓喜と感動の涙につつまれました。谷村さんは、アリスのリーダーとして、「冬の稲妻」「チャンピオン」など数々のヒット曲を発表し、また、ソロとしても、「昴」「いい日旅立ち」「サライ」といった、いつまでも歌い継がれる名曲を生み出し、日本の音楽シーンを長きにわたり牽引してきました。本書は、自身初となる本格的な詩集として、1972年のデビュー作から遺作までの軌跡を振り返り、時代を超えて心に響き続ける名曲となった詩の61篇を1年かけて編纂しました。

 谷村新司さんといえば、私には二つほど心に残っていることがあります。その一つ目。漢字の“友”という字をよ~く見てみてください。じ~っと見ていると、2つの「人」という字が見えてきます。左上の傾いた“人”を、右下の“人”が支えている。倒れそうな人を懸命に横から支えている。これが字源なんです。その昔、谷村新司さんの著書『こころに響く言葉』(講談社、1996年)という本を読んでいて、心に残った言葉があります。次の言葉でした。当時担任していた生徒たちによく語ったものです。

生意気に、いつも粋がって、
ひとりで生きてきたような顔をしていたけれど、
何もできなかった。
いくら感動しても、片方の手だけでは感動の拍手すら表現できない。
そう、ひとりじゃ、何もできなかった。

 二つ目。私の大好きなさだまさしさんのヒット曲「防人の詩」(さきもりのうた)は、『二百三高地』という東映の戦争映画で、しかも勝利した戦争の主題歌を歌ったことで、「右翼的」だというレッテルを貼られました。歌もちゃんと聞かずに、「防人」というタイトルだけに反応して、「戦争賛美」「好戦的」「好戦的な右翼思想だ」と短絡的に批判されたのでした。この歌のどこが「戦争を賛美」なんでしょうかね「本当に、ちゃんと聴いてくれたの?こんな反戦歌、他にないでしょう」と思ったさださんです。さださん自身は「いまの緊迫した世界情勢の中で、日本という国を愛するたった一人の“人間”として『自分の中の万葉集』『自分の中の防人の歌』というつもりでつくりました」と述べ、「いさなとり 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干て 山は枯れすれ」(万葉集)という歌に触発されて作ったと言います。いわれのない批判だと思いつつも、これが伝わらないところでやっていてもしょうがない」と、あまりのひどさに同郷の文芸評論家・山本健吉(やまもとけんきち)先生に弱音を吐きます。僕なんか、たかが歌だと思っているんですが、人格まで非難されるんですね」すると山本先生は、いや、詩歌というのは、そういうものなんだよ。自分の人生観を賭けて歌を歌ってるわけだから、そういうことを言う人がいるのは当然のこと。ただ君は、もういなくなった人を歌うのが非常に上手だ。「精霊流し」も「無縁坂」にしても、あたかも亡き人を謳っているかのような、そんな印象を受ける。「みるくは風になった」も「防人の詩」にしてもそうだが、いなくなった人の歌を歌うのは、挽歌といって日本の詩歌の伝統であって神髄である。君は知ってか知らずか、心のどこかで日本の詩歌の本道をちゃんととらえている。それでいい。君はまちがっていないんだから、何を言われてもやりつづけなさい。ひるむ必要はない。詩歌に生きた人は、そんなことでひるんだ人は一人もいない」と勇気づけてくださったのです。その言葉を聞いてさださんは、肚をくくります(『やばい老人になろう やんちゃでちょうどいい』)。この映画『二百三高地』の音楽監督は、故・山本直純(やまもとなおずみ)先生でした。「戦争の勝った負けた以外の小さな人間の営みを、ちゃんと浮き彫りにしていきたい。そういう映画なんだ」と言われ、引き受けた曲です。185分という大作で、途中休憩となる前の、死屍累々たる戦地の惨状の中を、あおい輝彦さんが血みどろになり地獄絵図の中を歩く、戦争の無惨さ、生命の尊さを問うシーン、そこに流れてきたのがこの主題歌でした(この歌に感動した監督が、後からこの曲のために付け加えたシーンだと聞きました)。

 この「防人の詩」騒動の直後、東宝映画『連合艦隊』の主題歌を、谷村新司さんでお願いしたいとの依頼がきました。さださんのことを「あれで叩かれるとは世の中おかしい」と擁護した谷村さんは、すぐ「やりましょう」と二つ返事で引き受けます。いろい谷村新司ろな雑誌から、いろいろな叩かれ方をするかもしれませんよ」と言われましたが、谷村さんは「望むところじゃないですか」と答え、敢えて「火中の栗を拾い」、さださん以上に叩かれたことがありましたね。戦争を賛美する人などいないし、いいと思っている人など一人もいない。それでも起こってしまうのが戦争。谷村さんは、戦争があるがゆえに、親よりも先に逝ってしまう子どもたちの悲しさ・運命を主題歌にしました。それが「群青」(ぐんじょう)という歌です。哀しいピアノの旋律が胸を強く揺さぶります。谷村さんの数ある曲の中で、私が一番好きな曲がこれです。

 歌は誰かが歌って初めて生きる。また、本人が居なくなってからの歌の寿命こそがその歌への「評価そのもの」だ。谷村さんの詩が好きなあなた。そして谷村さんの歌が好きなあなた、よろしいか。どうぞ声に出して谷村新司の詩を歌いたまえ。そこに必ず谷村新司の魂は輝く。それを信じたまえ。さあ、歌いたまえ!(さだまさし)

 歌は常に聴き手の所有物だとして、聴き手が自分の心の中で咀嚼し、味わい、そして育てるものだ、と語りかけていますね。

 もう1冊、谷村さんの本が出ました。谷村孝子・矢島裕紀彦『谷村新司101の言葉』(宝島社、2024年)です。生前に残した心に響く101の言葉を軸に、数々の未公開エピソードと写真で綴っています。 大阪の田舎に住む少年時代から、アリス時代、グループ解散後の曲調の変化、そして晩年のボランティア活動や社会貢献活動など、多岐にわたり活躍した谷村さんの心の言葉が紡がれた一冊です。74年間の生涯で紡いだ「愛」と「夢」の言葉と数々の未公開エピソードが掲載されています。黒柳徹子さんも推薦しています。♥♥♥

カテゴリー: 私の好きな芸能人 パーマリンク

コメントを残す