「UNバランス」

 米子帰りの電車の中で、なぜか無性に昔のアイドル・河合奈保子(かわいなおこ)さんの「UNバランス」の旋律が聞きたくなったんです。家に帰るとすぐにCDをひっぱり出してきて聴きました。14枚目のシングル曲であり、アルバム『HALF SHADOW』のA面3曲目に配されている歌です。奈保子さんはこの曲で、1983年末の「紅白歌合戦」に、3年連続で出場しています。 「エスカレーション」に続いての、ヒットメイカー売野雅勇・筒美京平コンビの作品です。オリコンでは最高位4位(100位内12週)までいき、20.1万枚を売り上げました。前作同様、大胆さを盛り込んだ歌詞ですが、「UNバランス」ではより切なさの想いを強く前面に出しているように感じます。西風=秋という売野さんの得意な表現、これは後にリリースされた売野さん作詞の「デビュー~ Fly Me To Love」でも使われています。「エスカレーション」「UNバランス」、1983年の夏、秋にリリースされた同じ楽曲提供陣の作品ですが、どちらかと言うと私は「UNバランス」の方が好みの曲です。それはやっぱりメロディの切なさでしょうか。

 私は若い頃は、キャンディーズ」の故・スーちゃんの追っかけをやっていました!握手してもらった後、一週間は手を上げてお風呂に入っていたものです〔笑〕。当時のアイドルは、歌も上手かったんですが、それに比べて最近のアイドルはさっぱりですね。河合奈保子さんは、1980年3月に「西条秀樹の妹募集オーディション決勝大会」で優勝。2万7,000人の中から選ばれたシンデレラ・ガールでした。6月に「大きな森の小さなお家」で歌手デビューを果たします。「ピアノ、ギターには自信があります。珠算2級で暗算3級、マンドリンもこなせます」と底抜けに明るい16歳でした。「ハイッ、ハイッ」と体育系のノリで、さわやかに返事をする優等生のイメージだったと記憶しています。可愛らしいアイドルなのに、かなりの歌唱力を持ち、その人柄からも当時は「癒し系」とも言われていましたね。第2弾の「ヤング・ボーイ」がヒットして、「日本レコード大賞新人賞」を受賞。その後も、「スマイルフォーミー」「エスカレーション」などのヒット曲を連発して、アイドル歌手として活躍しました。島根県・出雲市・大社町出身の竹内まりやさんに提供された楽曲「けんかをやめて」は、彼女の見事な歌唱力がいかんなく発揮された私の大好きな曲でした。河合奈保子

 奈保子さんの曲では、Aメロ→Bメロ→サビという固定パターンが多いのですが、「UNバランス」では大サビ的フレーズを明確に使った最初の作品だと思っています。まず「アンバランスという英語は無く、imbalanceである」というもっともらしいことを言う人がいますが、これは誤りです。普通に“unbalance(アンバランス)”という英単語があり、辞書にも載っています(“imbalance”という単語も存在しますが)。「UNバランス」という曲名が“unbalance” に由来することは明らかでしょう。unbalanceよりもimbalanceの方が普通と思われます(『ジーニアス英和辞典』)。

 イントロのコーラスですが、この部分、当初はシングルリリースされたものとは異なっていまして、「UNバランス ア・UNバランス…」という形でした。これは、この曲が初めて披露された1983年7月24日のバースデーライブの映像(『Naoko Premium』ボックスの特典DVD)で確認できます。この曲、実は元のタイトルは「UNBALANCE」だったのが、ある時点で「UNバランス」と変更されるのに伴って「UN」を強調して「UN UN ア・UNバランス…」という形にコーラスが変更されたのではないかと思っています。

 冒頭の「ルルルルル…」で、ヘッドボイスを使っているのが印象的です。奈保子さんのヘッドボイスは、通常のミックスボイスでの歌唱と同じ強度で発声できるのが特徴です。「ルルル…」と歌われるとなぜか秋の雰囲気が醸し出されるのは不思議なところです。この曲での奈保子さんの歌い方も「エスカレーション」と同様、テレビやライブでの歌唱に比べるとスタジオ収録版の方が細かい表情づけが目立ちます(下映像参照)。「UNバランス」のキーは「エスカレーション」と同じくDマイナー(ニ短調)なのですが、曲調は大きく異なっており、Aメロはかなり低い音域で、かつ半音階の音型が多いために音程が取りにくいメロディーではないかと思います。ライブだとハイテンションなので、低音でも張りのある歌声が聴けてそれはそれで魅力的だったのですが、スタジオ収録の方はより情感豊かに「息づかい」が感じられます。実際歌詞の中にも「息」という言葉が使われていたりもします。Bメロ冒頭では1コーラスの「恥ずかしい…」と2コーラスの「向こう見ず」で表情を大きく変えていて、奈保子さんの歌が、曲調と詞を踏まえたストレートな感情表現であることがよく窺えるポイントだと思います。

 サビでの歌詞「愛しさは淋しさの別の名前ね」は、「エスカレーション」とよく似た言葉の使い方ですが、2コーラスの「恋しさはどこかしら苦しみめいて」といった詞は、より危うい世界を感じさせる方向に向かっています。作詞をした売野雅勇さんによると、この曲や翌年の「コントロール」では精神分析的なことをやってみようという意図があったようです。途中で入る “ah” のフレーズは、テレビやライブで歌う時は “ha” で歌われることが多い印象があります。いずれにしても、「エスカレーション」で一歩新しい領域に踏み込んだ河合奈保子さんでしたが、「UNバランス」ではよりその表現を一層深化させたと言ってよいと思います。お亡くなりになった筒美さんの素敵なメロディーがしみます。♥♥♥

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