偶然の幸運?

 意志は強いのに、が悪くて幸せになれない…、謳めずにひたむきに努力して幸せを待っているのに、一向に幸運に恵まれない…、と嘆く人たちがいます。しかし、実は、というものは常に私たちの身近にあるのです。それも、ただ漫然とそこにあるのではなく、波や風のように、変幻自在に形を変えながら私たちの目の前を漂っているのです。ラジオの周波数のようなものだと言ってもいいでしょう。となれば、自分で何もしなければチャンスは私たちの頭の上をスースーと通り過ぎていくだけです。これではチャンスもつかむことはできません。アンテナを張りめぐらせ、周波数を合わせる努力をしなければ、チャンスを捕らえることは絶対にできないのです。

 ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が、中間子の理論を発見したのは、夫人が病気で看病をしている時に云々、という話を聞いたことがあります。しかし、夫人の看病をしていたから案が浮かぶわけはないのであって、そのことについて、ずっとずっと考え続けていて「あっ、これで行こうか」と思ったのが、たまたま看病をしている時だった、というのが真相なのだと思います。発明とかクリエイティブなものはそもそも、朝から晩まで考え続けているうち、ある瞬間「アッ、これだ!」と閃くものなのです。

 ノーベル賞受賞者の話を聞いていると、確かに「偶然」という言葉がしばしば登場します。2002年に受賞した田中耕一氏や、白川英樹氏にしても、田中氏と同年に受賞した小柴昌悛氏にしても、ニュアンスの違いこそあれ、実験していたら「偶然」すごいことに出会ったり、「偶然」のヒラメキが大きな発明、発見につながった、と話しておられました。しかし、その発見や発明が「偶然」だったからといって、それをそのまま鵜呑みにして聞き流して、彼らが偉大でないと考えるのは間違っています。世の中には、彼らの受賞に一度は沸いたものの、「よくよく聞いてみれば、なんだ、偶然だったのか」と嘲笑するような人や、あるいは、偶然がめぐってきた彼らを、自分の運と引き比べて、ただただうらやんでしまう人がいるようです。偶然を、まるで競馬に当たるか当たらないかといったバクチの上でのこととしか考えていないのです。人生は競馬とは違います。自分がうだつが上がらないのは偶然に出会わないからで、運さえ回ってくればきっと成功できるのだと単純に考えてしまう人もいます。しかし、そういう人は、偶然の見方に関して、根本的に間違っていると言わねばなりません。なぜなら、むしろ、偶然を味方につけたことにこそ、彼らのすごさがあるからです。彼らはチャンスを捕らえるアンテナを広く張りめぐらせ、感度を鋭く保っていました。人一倍、それどころか人百倍ほど強く願い、飽くことなく努力を続けてきたからこそ、彼らのアンテナの感度は常に鋭く保たれ、その結果、を呼び込むことができたのです。

 あの発明王のエジソンは、「私は、たまたま価値のあることをやったということがない。私の発明には一つも偶然の産物はないのだ」と言っていますが、それも同じ事で、「たまたま」から大きな仕事はできないのです。数々の失敗や試行錯誤を繰り返して、そこから学習し、また新たな実験を勇気を持って実行していく。これをエジソンは怠ることはありませんでした。だからこそ、自分の発明には「偶然の産物」は一つもなかったと言い切れるのですね。

 私のささやかな経験で言えば、英語の本を読んでいて、知らない、見たこともない表現に出会った時に、カードにメモしておいて心に留めてアンテナを張っておくと、不思議なことにその後、何度も何度もその表現に出くわすのです。そんな風にして、英語の勉強を続けてきました。

 白川氏や小柴氏や田中氏は、「偶然」と口を揃えてはいますが、そこに至るまでには、長い長い研究期間、積み重ねがありました。彼らにしてみれば、その偶然に遭遇したのは、以前から続けていた研究の一つの成果なのであって、全くの偶然の産物ではないのです。Chance of favors the prepared mind. ―Louis Pasteur「幸運は準備された心に味方する」パスツールも言っています。リンゴが落ちるのを見た人は何百万人もいるはずですが、ニュートンの場合は、長い間、天体の問題を考えて続けていたのです。何もしなければ何も得ることはできません。多く積み重ねるほど、素晴らしい偶然にめぐり合う確率は高まってきます。つまり、ノーベル賞受賞者の多くが口にする「偶然」とは、数々の失敗や試行錯誤を繰り返し、それでも諦めずに強い思いを持って粘り強く目標を追求した結果なのです。強い欲求や理想を持つ人と、そうでない人の違いはここにあります。欲求のある人は、常にチャンスを待ち構えて、自分のアンテナを可能な限り広く張りめぐらせているものなのです。「意志はあるのに…、努力はしているのに…」と嘆いている人は、自分の張りめぐらしたアンテナがチャンスをつかまえるのに十分な感度を保っているか、もう一度よく点検してみるといいでしょう。♥♥♥

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