戦争省?

 米国のトランプ大統領は9月5日、国防総省(Department of Defense)の呼称として「戦争省」(Department of War)を使えるようにすると大統領令に署名しました。大統領令により、公的文書などで「戦争省」「戦争長官」などの呼称が使えるようになります。正式な名称変更に向けて、政権は必要な立法措置を進める構えです。トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に、「我々は世界最強の軍隊を持っている。匹敵する国は他にない」と強調しました。「強さ」を内外に誇示すると同時に、省内で「戦士の精神」を取り戻そうとするトランプ政権の施策の一つと考えられます。「戦争省だったころは信じられないほどの勝利の歴史があった」と。同席したヘグセス国防長官「我々は防衛だけでなく攻撃にも回る」と述べ、政権が掲げる「力による平和」の実現に向け、戦う姿勢を強調しました。官僚機構や軍に対して強い不信感を持ち、自身の色を強く出すために名称変更を進めているようですが、名称変更が軍事費削減や外交カードとして使われる可能性が懸念されます。ただ、正式な名称変更には議会の承認が必要で、当面は国防総省」戦争省」の二つの呼称が併用されるものとみられます。日本でこんなことをやったら、と思うとゾーッとしますね。「自分にノーベル平和賞を与えろ」と迫るトランプ大統領の図々しさにも辟易しています。

 米国は1789年に陸軍などの運用を担う戦争省」を設立し、1949年に現在の国防総省」へと改称しました。ホワイトハウスによると、今回の命令はヘグセス国防長官国防総省、および部下の職員に対し、公式文書や公的なコミュニケーションで「戦争長官」「戦争省」「戦争副長官」といった副称の使用を許可するものです。 この措置により、改名を恒久化するための必要な立法措置と行政措置を勧告することになります。トランプ大統領は1月の就任以来、メキシコ湾を含むさまざまな場所や施設の名称変更に着手しています。 省庁の名称変更はまれで、議会の承認が必要となりますが、共和党は上下両院で辛うじて多数派を占めており、同党の議会指導者らは、トランプ大統領の構想に反対する意欲をほとんど示していません。米国では1947年に成立した国家安全保障法で、陸・海・空軍を単一組織の下で統合することが定められ、1949年に可決された修正法でこの組織が正式に国防総省」と名付けられました。それまで同省は戦争省」と呼ばれていました。名称を再び変更するには費用がかかり、国防総省」だけでなく、世界中の軍事施設で使用されている標識やレターヘッドを更新する必要があります。 退役軍人で上院軍事委員会のメンバーである民主党タミー・ダックワース議員「なぜこの資金を軍人の家族支援や、紛争を未然に防ぐ外交官の雇用に充てないのか?」と問い、「トランプ大統領は国家の安全保障を強化し、勇敢な軍人とその家族を支援することよりも、政治的な得点を稼ぐために軍を利用したいからだ」と指摘しました。ヘグセス国防長官「『アメリカ第1主義』、そして『力による平和』を『戦争省』によってもたらし、この国の気風を形づくっていく」と述べ、「戦争省」という名称を使うことによって、トランプ政権の理念を具体化していくことに強い意欲を示しました。ただ、アメリカのメディアには「名称の変更のために多大な費用がかかるのに、権威主義的な国々への対応など軍が取り組むべき課題解決にはほとんど役立たない」といった指摘もあり、今後、国内外でさまざまな反響が出てくることも予想されます。名称変更に巨額の税金を使うよりも、軍人家族や外交強化に回すべきだという声や、言葉の持つ力(攻撃的な印象が強い)が国際社会に与える影響を疑問視する意見があります。トランプ大統領は名称変更に伴う費用について「それほど多くない」と説明していますが、地元メディアからは国防総省傘下の数百に上る機関の名称の変更に関わるほか、紋章や制服などの刷新により数十億ドルの費用が見込まれる、との指摘も出ています。

 2021年、バイデン前政権下で、米軍はアフガニスタンから完全撤退しました。2001年の9・11テロを契機に、米国がアフガニスタンに侵攻してから20年目の出来事でした。アフガニスタンに自由民主主義と自由市場経済を信奉する親米国家を樹立しようとする試みは、すでに水泡に帰していました。アフガニスタン民族は、たとえ生活が厳しくとも、他国の干渉や支配を容易には受け入れないと断言しており、19世紀に世界的な大帝国を築いた英国も、20世紀に共産主義陣営の盟主として米国と肩を並べたソ連(現ロシア)も、最終的にはアフガニスタンを支配下に置くことには失敗しています。米国もその例外ではありませんでした。9・11テロへの報復として始まった「対テロ戦争」で主たる標的になったのは、まさにアフガニスタンとイラクでした。ニューヨーク中心部でイスラム過激派によるテロで多くの市民が犠牲になった9・11は、米国の若者の愛国心を高揚させました。テロ集団と戦うために志願する若者が相次ぎましたが、20年近くが経過するうちにその熱意も次第に冷めていきました。ジョー・バイデン前大統領はアフガニスタン完全撤退を命じる際、「アーリントン国立墓地のアフガニスタン戦没者墓地に並ぶ墓石をご覧いただきたい」と訴えました。アフガニスタンでは約2,400人、イラクでは約4,500人の米軍兵が戦死しており、9・11での犠牲者は3,000人弱に上ります。世界最強の軍を有する国であっても、全てが思い通りになるわけではありません。第二次世界大戦に勝利し、国力が頂点に達した米国が、従来の「戦争省」(Department of War)を「防衛」概念中心の「国防総省」(Department of Defense)へと改編したのは、そのような謙虚さの表れであったのかもしれません。

 ところが、9・11テロから24年を迎え、米国全土が追悼ムードに包まれる中、米国のドナルド・トランプ大統領はペンタゴン庁舎に立ち、反米的テロ集団を念頭に「米国が攻撃されたならば、我々は最後までその全てを追及する」と警告し、さらに「我々は一切の容赦なく彼らを叩き潰し、確実に勝利を収める」と述べた。そして「以前の国防省という名称を戦争省に変更した」と強調しました。これは、防御ではなく「攻撃」を通じて、国際社会に米国の望む秩序を必ず確立するという強い意思の表明のように聞こえます。この「戦争省」の復活が新たな戦争の火種とならないことを祈るばかりです。

 トランプ大統領は、「「戦争省」の省名の下で、我々は第一次世界大戦にも第二次世界大戦にも勝った。しかし、我々はその後『ウォーク』になってしまった」と述べました。ウォーク(woke)とは、社会正義や人種・性差別への意識が高いことを揶揄する言葉です(⇒wokeに関する私の詳しい解説はコチラで)。今日では皮肉を込めて使うことが多くなっています。ヘグセス国防長官は、米軍幹部を世界中から招集し、「戦争省へようこそ。『国防総省』の時代は終わった」と切り出し、「戦士(warrior)の気風」の回復を改めて訴え、「我々は『ウォーク省』になってしまっていたが、もうそうではない」と語りました。「太った軍を見るのは嫌気がさす。太った将軍や提督も絶対に受け入れられない」と主張。戦闘に関わる将兵には、性別に関わらず、最高水準の男性の基準を課すことを命じ、あごひげや長髪といった個人の表現も認めない、と断じました。「あまりにも長く我々米軍は、人種、ジェンダーに基づいて割り当てるクォーター制、いわゆる『史上初』…などの誤った理由で、あまりにも多くの制服組の軍人を昇進させてきた」と。♥♥♥

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