カズレイザーとさだまさし

 先日、女優・二階堂ふみ(30歳)さんとの電撃結婚を発表したお笑いコンビ「メイプル超合金」カズレーザー(41歳)さん。「カズレーザー」という芸名は仮面ライダーV3に登場するカニレーザーからきています。金髪に真っ赤な派手な衣装がトレードマークのお笑い芸人さんですが、読書家で高学歴のインテリ芸人としても有名です。伝統校で進学校の埼玉県立熊谷高校時代から、あの金髪・赤い服装でずっと通していたそうです。筑波大学を不合格となり、滑り止めに受けた同志社大学商学部に進みました。趣味は読書、筋トレ、自衛隊研究、社会科見学、絵画、美術館巡り、などさまざまな分野に通じている芸人さんです。読書家であり、年間200冊以上を読み、絵本・図鑑・専門書など、ジャンルは小説に限らず多岐に渡ります。貧乏暮らしをしていた頃、図書館に入り浸って図鑑を読み漁っていた時期があり、その時に得た知識がクイズ番組での活躍に繋がっていると言われています。彼が司会を務めるテレビ番組の「X年後の関係者たち」を見ると、この人がありとあらゆる分野において、半端な知識の持ち主でないことがよく分かります。いろいろなことに通じています。ただのお笑い芸人ではありません。

 その歯に衣着せぬトークは10~20代の若者の支持を集めていますが、このテレビにひっぱりだこの人気芸人が、さだまさしさんの影響を色濃く受けているということを知り驚きました。半端なファンとはレベルが違います。相当マニアックな信奉者です。そのことは『さだまさしとゆかいな仲間たち うらさだ』(小学館文庫、2023年)を読むとよく分かります。“さだまさしマニア”であるカズレーザーは、金髪に赤いスーツという派手な出で立ちですが、その内面は文学や音楽への造詣が深く、少年期よりさださんのラジオや楽曲に親しんできたそうです。“さだ愛”の深さゆえ、テレビ番組では、ゲスト出演したさださん本人の目の前で、さだ楽曲の魅力を熱弁する一幕もありました。カズレーザーは大好きな曲について独自の解釈や分析を披露し、歌詞の真意をさださんに直接ぶつけるというマニアぶりを発揮しました。その鋭い考察に、さださん自身も「彼の曲の聴き方には感心する」と驚きを見せ、異世代/異分野で活躍するファン・カズレーザーによる熱いアプローチを受けていました。カズレーザーにとって、さださんの詩の世界は人生の指針となっているようです。カズレーザーは、歌手・さだまさしを好きだと明かし、「すっげえ好き。ライブ、超行きたいですけど、タイミングが合えば、もちろん行きたいですけど。(ライブの予定が)なきゃ困るとかでもない」と話しました。

 彼がさだまさしを好きになったのは、両親が運転する車の中がきっかけでした。小学生の頃、毎週土曜日に、自宅から離れたそろばん教室に通っていたのですが、自宅を出るのが午後3時頃で、車のラジオをつけると、さださんがしゃべっていました。その時、「北の国から」も知っていたし、「関白宣言」も聴いたことがあったのですが、ラジオの中でしゃべっている人と、「北の国から」を歌っている人が繋がりません。そもそも、番組ではリスナーのハガキを読んでるばかりで、さださんの曲はほとんどかかりません〔笑〕。しばらくの間、土曜3時に文化放送でしゃべっているおじさんは、しゃべりが流麗な「ラジオパーソナリティ」だと思っていました。ところがこのラジオがとてつもなく面白い。気がつくと、毎週、さださんのラジオを車内でがっつり聴く、というのが生活のサイクルになってしまい、すっかり習慣化されてしまいました。一人でカラオケに行く時は、ヘビロテでさださん。さださんを歌い続けて、最後は 「主人公」で締める、というお約束です。最近の「ひとりカラオケ」でのお気に入りは、「二軍選手」です。この曲名を聞いただけで、めちゃめちゃマニアックなファンだということが分かりますね。行きつけのカラオケ店にはこの曲が入っておらず、なかなか歌えないのが残念だとか〔笑〕。「誰もが夢見るスターのポジションは  もう僕らには与えられることはないけど」「彼は心から野球を愛してる  僕は心から歌を愛してる  たとえ泥まみれで捨てられても笑ってみせる  たぶん自分の事以上に愛してる そう 自分の事以上にね」という詩を、当時売れない自分の姿に重ねていたのでしょう。

 カズレイザーさんが、さださんのアルバムで、最初に購入したのは 『夢の轍』(ゆめのわだち)でした。この中の一曲「償い」(作詩・作曲さだまさし)をじっくり聴いた時に、「こんな歌を歌う人がいるんだ!」と大きな衝撃を受けました。この歌の中に、こんなフレーズがあります。〈人間って哀しいね だってみんなやさしい〉これだ!と思いました。さださんの魅力って。圧倒的な人類愛を伝えようとしている。それは歌手さだまさしであっても、小説家さだまさしであってもそうです。さださんの作品の全てに「やさしさ」が通底している。さださんのテーマは「やさしさ」なのだということを思い知りました。「前夜(桃花鳥)」「遙かなるクリスマス」もそうです。ここでは「人間個人の幸せ」が語られているんですが、実はそれを広げていっても、人類全体の幸せには決して繋がらない、という現実や矛盾を描いていて、これがさださんのメッセージだと思うんです。個人の幸せ=人類全体の幸せ、ということじゃないのなら、個人と全体を切り離してしまって、個人の幸せだけを考えればいい、ということじゃない。二つを断ち切るんじゃなくて、「人間愛」を接点として、個人と人類全体を繋げようとしています。

 「個人の幸せ」がぶつかり合うこともあります。たとえば 「甲子園」(作詩・作曲さだまさし)。この歌は、喫茶店のテレビで夏の甲子園の準決勝を見ている、という設定なんですが、テレビの実況が突然、「ホームラン!」と叫びます。普通に考えれば、ホームランはプラスのイメージです。しかも喫茶店で何気なく見ているんだから、「おっ、やったね」となる。ところがさださんは、このプラスのイメージを反転させてしまうんです。〈また誰かの夢がこわれる音がする〉ホームランを打たれたピッチャーの側から、ホームランを表現する凄さ。個人の幸せが、一方で別の個人を不幸せにしているというリアルな現実。この切り口はさださんだなあ。「二軍選手」でもそうですが、さださんは一貫して、敗者にやさしい眼差しを向ける。これがさださんの「やさしさ」「人間愛」です。「「やさしさ」を定期的に取り込むためにさださんを聴いているところがある。聴いていなければ、もっとひどいヤツになっていたかもしれない」こんなことが語れるカズレイザーは、やはりただ者ではありません。♥♥♥

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