昨年の流行語大賞

 メリアムウェブスター社(Merriam-Webster)は、2025年を総括する“2025 Word of the Year”slop を選びました。slop という語は、もともとは「ぬかるみ/泥」「残飯のような水っぽい食べ物(飼料)」など、“ぐちゃっとした価値の低いもの”を指す語です。近年は、そこから転じて「AIでたいてい大量生産される低品質なデジタルコンテンツ」(“digital content of low quality that is produced usually in quantity by means of artificial intelligence”)を意味する言葉です。量産できることが価値になりやすいネット環境で、質の低い生成物が可視化された一年だったことを示す選定と言えるでしょう。

 メリアムウェブスター社は、今年人々のソーシャルメディアを侵食した「不条理な動画、常軌を逸した広告画像、安っぽいプロパガンダ、かなりリアルに見えるフェイクニュース、ジャンキーなAIが書いた本」を反映していると述べました。Merriam-Webster社は、昨年から「AIドロドロ」が急増する中、自社サイトでの検索量が大幅に増加しているのを見て、この言葉を選びました。グレッグ・バーロー社長は、「私たちの画面には、ありとあらゆるものが投棄されています。「ワード・オブ・ザ・イヤー」はそれをたった4文字で表現した。英語はまたもや、その真価を発揮したのです」バーロー社長は、発表に先立ち、AP通信の独占インタビューに応じ、「この言葉は、とても分かりやすい言葉です。「AIという革新的なテクノロジーの一部であり、人々が魅力的で、腹立たしく、そして少しばかげていると感じるものです」。「Slop 」は1700年代に柔らかい泥を意味する言葉として使われ始めたが、より一般的に価値のないものを意味するようになった。その後、定義は拡大し、「人工知能によって通常大量に生産される低品質のデジタルコンテンツ 」を意味するようになった。」つまり、「不条理な動画、奇妙な広告画像、安っぽいプロパガンダ、本物そっくりのフェイクニュース、ジャンキーなAIが書いたデジタル書籍などだ」と語りました。

 Merriam-Webster社が過去10年間に選定した「今年の言葉」は次の通りです(2003年より選定を始めました)。
   2024: polarization
   2023: authentic
   2022: gaslighting
   2021: vaccine
   2020: pandemic
   2019: they
   2018: justice
   2017:feminism
   2016: surreal
   2015: ism

 メリアム・ウェブスターの編集者が注目したその他の単語やフレーズは以下の通りでした: 「gerrymander」、「touch grass」、「performative」、「tariff」、「six seven」、「conclave」。同社はまた、マサチューセッツ州にあるウェブスター湖の別名である 「Lake Chargoggagogmanchauggagoggchaubunagungamaugg 」を賞賛しました。この湖は、オンラインゲームの世界Robloxに登場したおかげで、merriam-webster.comで最も検索された単語のリストに登場するようになりました。

 メリアム・ウェブスターの今年の流行語大賞は、主に検索データの急上昇に基づいて選出されます。これは、2020年と2021年に「パンデミック 」「ワクチン 」が選ばれた時のように、毎年恒例の選出が時事問題と結びついていることを意味することが多いようです。

 日本の「流行語大賞」は、高市総理「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」でしたが、他国の流行語大賞を挙げておきましょう。

◎Macquarie: AI slop

 オーストラリア英語の標準辞書として知られるMacquarieは、委員会選定の“Word of the Year 2025”AI slopを選出しました。さらにPeople’s Choice(一般投票)でも同語が選ばれた、と公式に説明しています。「求められていないのに出てくる」「誤りが含まれることが多い」といった説明も、生成AIの普及局面での“生活者の実感”に近いポイントです。

      • definition

        low-quality content created by generative AI, often containing errors, and not requested by the user(生成AIで作られた低品質なコンテンツ。誤りを含むことが多く、ユーザーが求めていないのに出てくるもの)

◎Oxford: rage bait

 イギリスの“Oxford Word of the Year 2025”は、rage baitrageは「激しい怒り」、baitは「(釣り針の)えさ」=人をおびき寄せる“えさ”という意味で、オックスフォード大学出版局はこの語を「怒りや憤りを引き出すよう意図的に作られたオンラインコンテンツ(通常はトラフィックやエンゲージメントを増やす目的)」と定義しています。

      • definition

        online content deliberately designed to elicit anger or outrage, typically posted in order to boost traffic or engagement(怒りや憤りを引き出すよう意図的に作られたオンラインコンテンツ。通常はトラフィックやエンゲージメントを増やす目的で作られる)

◎Collins: vibe coding

 イギリスのCollins“Word of the Year 2025”は、vibe codingでした。vibeは「雰囲気/感じ」を意味し、細かな仕様を厳密に詰めるというより“こんな感じで”とAIに自然言語で指示してコード生成する開発スタイルを指します。Collinsもこの語を“新しいソフトウェア開発”として紹介しています。

プログラミングが「構文を正しく書く」から「やりたいことを言語化して依頼する」へと重心移動していることを、象徴的に表しています。

      • definition

        an emerging software development that turns natural language into computer code using AI(AIを使って、自然言語の指示をコンピューターコードに変換する新しいソフトウェア開発手法)

 その他の辞書による今年の“Word of the Year 2025”は次のようなものがありました。

◎Cambridge Dictionary: parasocial

 イギリスのCambridge Dictionaryは、parasocial“Word of the Year 2025”に選定し、著名人・インフルエンサー・AIチャットボットなどに対して生じる「一方通行の関係(片方向のつながり)」への関心の高まりを背景として挙げています。

      • definition

        involving or relating to a connection that someone feels between themselves and a famous person they do not know, a fictional character, or an artificial intelligence(面識のない有名人や架空の人物、またはAIに対して、人が“つながり”を感じる関係に関すること)

◎Dictionary.com: 67(six-seven)

 Dictionary.comは、“2025 Word of the Year”として67(“six-seven”)を選定しています。67 はアルファ世代(Gen Alpha:一般に2010〜2024年ごろ生まれ)の間で広がった数字スラングです。楽曲のフレーズなどをきっかけにミーム化し、両手を天秤のように動かすジェスチャーとセットで、「まあまあ」「どっちとも言えない(たぶん)」「微妙」などの曖昧な返事として使われることがあります。ニュース見出しやSNSトレンド、検索結果など複数データを分析して選んだことも説明されています。

      • definition

        a viral, ambiguous slang term used among Gen Alpha; some use it to mean “so-so” or “maybe”(アルファ世代(Gen Alpha)の間で使われる、拡散した曖昧なスラングを指すこと。文脈によって「まあまあ」や「たぶん(どっちとも言えない)」の意味で使われることがある)

 2025年は、各国の主要辞書がそれぞれの視点から「AI時代の言葉」を選びました。以下の表は、各辞書が公式に発表した“Word of the Year”をまとめたものです。

辞書 2025
Word of the Year
ざっくりと意味
Merriam-Webster slop AIで大量生産される
低品質デジタルコンテンツ
Macquarie
Dictionary
AI slop 生成AIによる低品質コンテンツ
Oxford rage bait 怒り・憤りを意図的に引き出して
拡散/流入を狙う投稿・コンテンツ
Collins
Dictionary
vibe coding 自然言語の指示でAIにコードを
書かせる(“雰囲気でコーディング”)

 主要辞書の選定語を並べてみると、①AI生成物の氾濫(slop / AI slop)②感情(怒り)を燃料にした経済(rage bait)③制作手段そのものの変化(vibe coding)、という流れが見えてきます。つまり今年は、「何を信じるか」だけでなく「何が見えてしまうか」「何が作れてしまうか」までが、言葉として可視化された一年でした。日々の情報収集や発信でも、見出しや動画の“勢い”に引っ張られすぎず、出典・文脈・意図を一呼吸おいて確かめる——そんな姿勢が、ますます重要になっていきそうです。♥♥♥

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