先日、5月8日に全国で封切られた「グランドイリュージョン:ダイヤモンドミッション」を映画館で見ていて、こんな台詞が出てきました。“A wise man once told me in the mirror in fact. Never assume you’re the smartest person in the room, prove it.”――“Be my guest.”(「…自分が一番賢いと思うな、それを証明してみせろ」――「どうぞやってごらんなさい」) 私は学生時代からこの“Be my guest.”という口語表現に注目していまして(当時は辞典にも収録はありませんでした)、新聞を読んだり、小説中で出くわす度にカードに記録をとっていました。
Maybe you’d like to share this with your readers. If so, be my guest.――”Ann Landers,” Aug.10, 1993.
“You don’t mind if I look around?” Jeffrey asked. He felt a certain kinship with his dead colleague but did not want to trespass on Kelly’s feelings.
“Be my guest,” she said. ――R.Cook, Harmful Intent.
“I don’t know yet,” Seibert said, “but the chart is in my office――down the hall on the left just past the library. Be my guest. I’ll be through in here in fifteen or twenty minutes.”――Ibid.
“Would you mind terribly if I borrowed these notes?” He patted the pile.
“Heavens no,” Kelly said. “Be my guest. May I ask why you’re so interested in them?”――Ibid.
“Could I take a look at this?” she asked. “I didn’t have a chance when I left the house this morning.”
“Be my guest.” ――C. Keene, Very Deadly Yours.
“But if you’d like to spend a couple of days checking out the Personals column, be my guest,” Mr. Whittaker said.――Ibid.
“Be my guest.” は、直訳すると「私のお客さんになってください」となりますが、現代英語では「どうぞ」「ご自由に」「遠慮なく」という意味で使われる定番表現です。もともとは「客として歓迎する」という感覚から発展した言い回しです。ここでの guest は「招かれた客」です。英語圏では昔から、客を歓迎する、客には自由に振る舞ってもらう、主人が許可を与えるという社交文化が強くありました。客人へのおもてなし“hospitality”(歓待)が非常に重要な価値観でした。主人が客に対して、食事をすすめる、家を自由に使わせる、安心させる、という場面で、“You are my guest.”(あなたは私の大切なお客様です)という考え方が使われていました。つまり、「あなたは私の客なのだから、遠慮しなくていい」という感覚が、この表現の核にあります。かつて、家を訪れた客人は、主人の配慮によって最大限の自由を与えられました。「私のゲストでいてください(=この家では何でも自由に使ってください)」という、ホスト側の寛容な姿勢がこの表現の根底にはあります。文献に登場するのは古くからですが、現代のような許可を意味する慣用句として広く使われるようになったのは、1950年代頃のアメリカと言われています。最初はかなり文字通りで、「ぜひお客様としてお越しください」に近いニュアンスでした。そこから次第に「許可を与える」「気軽に促す」意味へ変化していきました。
今では相手に何かを頼まれた際や、許可を求められた際への返答として使われます。「どうぞご自由に(私は気にしませんよ)」という快諾のニュアンスが含まれます。もう少し細かく分析すると、具体的に使われる場面には次のようなものがあります。
A.許可を与える時 相手が何かをしたいと言った時に、「いいですよ」と促す場合です。
“May I use your phone?”――”Be my guest.“(電話を借りてもいいですか?――どうぞ、遠慮なく使ってください)
B.先を譲る時 物理的に道を譲ったり、先に発言を譲ったりする場合です。
“Do you mind if go first?”――”Be my guest.“(お先に失礼してもいいですか?――どうぞ、お先に)
C.おごり・もてなしを示す おごりの場面で「私が払うよ」と言う場面です。
“I’ve got a bonus today. Be my guest.“ (今日ボーナスが入ったの。ごちそうするよ)
2007年のセンター試験の対話問題に、この用法のBe my guest.が出題されました。もちろん①が正解です。
Mari: This is really a gorgeous restaurant, isn't it?(ここ、ホントに
素敵なレストランよね)
Katy: The dinner was great, too. How much should I pay?(食事も素晴ら
しかったわ。いくらになるかしら)
Mari: Tonight, be my guest. Really, I insist. 【22】(今夜は私持ち。
ぜひそうさせて。私がおごるわ)
① It's on me.
② It's 5,250 yen for each person.
③ I've got little money.
④ Let's split the bill.
受験熟語集の石橋草侍・里中哲彦・島田浩史『大学入試英熟語最前線1515』(研究社、2024年)には、「ご自由にどうぞ」とだけ収録されていますが、私たちの『ライトハウス英和辞典』(研究社)では「S どうぞご自由に;私がおごります」と出ています。
D.皮肉として 文脈やトーンによっては、「勝手にすれば」「好きにすればいいじゃない」「どうなっても知らないよ」という表面上は丁寧に見えて、少し突き放したような皮肉なニュアンスになることもあります。ここでは、止めない、むしろやってみろ、という挑発的ニュアンスがあります。英語ではかなりよくある使い方です。“Be my guest.”が皮肉に聞こえるのは
・声のトーンが冷たい
・文脈が否定的
・相手の行動に対して呆れている
・前に否定的な文がある
つまり、言葉そのものよりも状況と言い方で皮肉になるのです。
“I’m going to tell the boss that you’re wrong.”――“Be my guest.”(君が間違っているって上司に報告するよ――へえ、勝手にすれば)
“If you think you can finish that project alone, be my guest.”(そのプロジェクトを一人で終わらせられると思うなら、勝手にどうぞ)
“Ignore my advice? Be my guest.”(忠告を無視したいなら、どうぞご勝手に)
類似表現との違いを挙げておきましょう。♥♥♥
■“Go ahead.”
最も一般的で「どうぞ進めて」という実行を促す時。
“Can I open the window?”(「窓を開けてもいいですか。」「どうぞ」)
“Go ahead.”
こちらは実務的でシンプル。
■“Feel free.”
「遠慮なく」の感じが強い。「気兼ねなく~してね」というカジュアルでフレンドリーな表現。
“Feel free to ask questions.”(遠慮なく質問してください。)
■“Help yourself.”
「自由に取ってください」。特に食べ物、飲み物、家の設備などで使います。
“Help yourself to the snacks.”(お菓子自由に食べてね。)


