「お待ちしておりました」

 「お待ちしておりました」を私の教えている高校生・浪人生に書かせてみると、かなり英語のできる人でも、I/We have been waiting for you.と書く人が多いんです。この英語の問題点に気づく人はほとんどいません。AIツールの自動翻訳システムDeepLでもこの英語が示されます。日本人の英語表現に関する多くの著書のあるT・D・ミントン(T.D.Minton)慶應義塾大学教授(英国ケンブリッジ大学卒)が、来日して初めて日本人のお宅に招かれた時、玄関で出迎えてくださった人が、We have been waiting for you.とおっしゃられて、ちょっとビックリして心臓がドキッとした、と思い出を書いておられました。この日本人は間違いなく「お待ちしておりました」と歓迎の言葉として発しておられたと思いますが、この英語はネイティブスピーカーにとっては全く別の意味合いを持つのです。「約束の時間きっかりに着くように、近くで時間をつぶしたりもして伺ったのに、なぜこんな言われ方をするのだろう?この国では約束の時間より早く来るのがしきたりなのかな?」と、来日して間もなかったミントン先生は疑問に思われたのでした。

 英語のwaitは、日本語の「待つ」とは違って、「待ち望む」という意味はなく、むしろ「時間のムダ」という意味のほうが強い語なのです。誰かを待っている時は、そわそわして何も手につかず、相手が来るまではしたいこともできません。英語のwaitには、そうした手持ち無沙汰の状態を強く感じるのです。

Shall we wait for him, or shall we start without him? 彼が来るまで待ちますか、それとも始めましょうか。

Let’s wait 10 minutes and then start if he isn’t here by then.  10分待って彼が来なかったら始めましょう。

 wait「人を待つ」=「時間の浪費」という意味が込められているのです。したがってI have been waiting for you.と言うと、遅れてきた相手をたしなめる言い方になってしまうのです(「待たされて迷惑しました」)。こういう言い方は失礼になりますね(「遅かったですね」と嫌みを言いたいのなら話は別ですが)。

 それではどう言ったらいいのでしょう。We have been expecting you.ならどうでしょう?この英語もDeepLに出てきますが、好ましくはありません。expect someone というのは「相手が間もなく来ると思っている」という意味です。あなたはすでに相手を招待して相手も承諾しているのですから、約束の時間に相手がやって来るのは当たり前のことです。その相手に向かって、We’ve been expecting you.などと言うのは、当たり前すぎてかえって野暮に聞こえてしまいます。自明なことはあえて言わないのが教養のある人のマナーなのです。

 したがって、 Hello, welcome to our home. We’ve been looking forward to seeing you.(こんにちわ。我が家へようこそ。お会いするのを楽しみにしておりました)/Hello. Thank you very much for coming all this way. It’s been good to see you.(こんにちわ。遠路お越しいただいてありがとうございます。お目にかかれてうれしいです)などがよいでしょう。単語本来の意味合いにもっと敏感にならねばなりません。♥♥♥

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